エモータル

《感情に踊り殺されし悪魔》通称、エモータル(名付け親:奈々)は、人の『負の感情』が具現化したもの、だとオレは考えている。

 いや、具現化という表現は語弊ごへいがあるかもしれない。

 エモータルは…… 人の負の感情は、目に見えないだけで元々存在しているもの、なのかもしれない。さながら、見えないけれど存在している空気のようなもの、なのかもしれなかった。

 そしてオレは、それに干渉することのできるブレスレットを手に入れてしまった…… のかもしれない。

 さっきから憶測おくそくで語る部分が多いのは、本当にこれらがあくまでオレの憶測だからだ。

 ……だって説明してくれる人、誰もいないし。

 オレが母上からこのブレスレットを贈られて…… いや押し付けられて、一週間くらい嵌めていたら、ヤツらの姿が急に見え始めたのだ。

 最初はそれがブレスレットによる効果だとはつゆほども気付かず、ついにオレにも視えるときが来た! と布団の中で震えていた。

 なに!? なにあのバケモノ達?! やべー、ぜってーやべーよ、くっそ怖えーよ! もうお外行きたくないよぉ……

 などと、当時はガチで3日間、学校を休んだ。

 自分の頭がおかしくなったのではないかと疑った。

 そんな自宅謹慎中、カーテンの隙間から道行くサラリーマンの後ろを巨大な女の顔がついていくのを見た時は泡を吹きそうになった。

 その女の顔と目が合ったときは泣くかと思った。実際、目の端から涙が零れた。

 美女の顔であればまだよかったものの、その女の顔は醜く歪んでいたのである。泣いているようにも笑っているようにも見えたのである。

 そんな巨顔きょがんがサラリーマンから離れてこちらに向かって来たところを想像してみて欲しい。思い出すだけでも鳥肌が立つ。

 急いでカーテンを閉め、ベットの傍らで膝を抱えて震えていても、何ら不思議はないではないか。

 失禁しなかっただけマシだと思う……。

「夢だ、これは夢だ……」とか言いながら自分の側頭部を何度叩いたとしても、何らおかしくない。

 翌朝、目が覚めてなんともなかったことにホッとした後、晴れやかな気分でカーテンを開くと、そこに巨大な女の顔があったら、ウゥーン…… と気絶してしまったことにも納得していただきたいのだ。

 ちなみに意識を取り戻したときには女の顔は消えていた。もう二度と会いたくはない!

 ……それにもう、会うこともないと思う。

 半年ほど前の話になるが、うちの近くの交差点でサラリーマンが事故死した。

 確証も、その事故の詳細を聞いたわけでもないが、それはおそらくあの女の顔に憑りつかれていたサラリーマンなのだと思う。

 完全にオレの予想なんだけど、おそらく『エモータル』というのはそういう存在なんだろう。


「……と、オレの中ではそんな結論になっているのであった」

「天井に顔を向けたりして、一体誰と喋ってるのさ?」

 奈々がオレの背中に問いかけてくる。

「もちろん高次元に住まわれる方々に決まっているだろ! やっほー、見えてる?」

「はいはい、電波電波……」

 奈々が『あなた達』に手を振るオレに、呆れた口調を向けてくる。

 まったく、これだから常識に囚われる者は困る。

 エモータルが存在するのだから、高次元の存在がいたとしても何らおかしくないではないか!

 が、この論を語りだすと長くなるので詳細は割愛。

 奈々が聞きたがっていた蛇型エモータルの話に戻ろう。

「で? あんま興味ないけど、蛇のエモータルを生み出したのは誰だったの?」

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