「3人だけの秘密ね」
連続2つの授業の第2ラウンド。
高校生くらいの男の子と入れ替わって、今度は私と同い年くらいの少年がやってきた。ぼさぼさの頭が印象的な子。決して悪く言っている訳ではない。少女漫画に出てきそうな子だった。
その子はずっとスマホで音楽を聴いていて授業が始まっても全くスマホをポケットにしまう素振りを見せなかった。
授業開始から3分後、ようやくZ先生も授業が始まったことに気がついた。
「あ、これもう授業始まってるのか」
「はい、とっくにです」
大袈裟に言ってみる。
「あ、そ」
ほんのちょっとぼけた顔をしてから、Z先生は音楽から目覚めようとしない少年を揺らぎ起こそうとそした。
「ほら、お兄さん!授業始まったよ!やるよ!」
「ええー、ちょっ、待って下さい!俺、今ちょうどいい所にいるんで」
「いいから!やるよ」
「ええー」
そういいながらようやく少年は自分の耳からイヤホンを外してイヤホンをポケットに突っ込み、そしてついでにスマホも突っ込む。かと思いきや・・・。
「先生、今友達からLINE来たんでLINEやってもいいですか?」
この少年、突拍子もないことを言い出したのだ。
「いや、だめです!しまって下さい!」
当然のことだがZ先生はそれを拒む。
スマホか。いいなあ。
心の中でスマホを持っている少年を羨んでいる自分がいた。
当時、中三だった私はスマホを持っていなかった。
それは中毒になるから。そんな理由で。私の家族は娯楽に関してはかなり厳しい家庭だった。でも周りの人はみんな持っていたし、スマホを持っていないという理由で仲間外れになる話題も山ほどあった。
「じゃあ、スマホ没収するから」
「嫌です」
「じゃあやって下さい」
「しょうがないなあ」
そう言って、嫌嫌少年は自分のスマホをポケットに突っ込んだ。
「いいですね、スマホ」
人見知りのくせに気がついたらそんなことを口走っていた。
Z先生と少年が私の方を見た。
あ、言わなければ良かった。そう思ったのも束の間。
「ああ、お姉さんスマホ持ってないんだっけ?」
「はい、持ってないんですよ。親にだめって言われるんです」
「それはやばい」
そう言ったのは横にいた少年だった。
初めて他の生徒さんに自分の話に反応してもらえた!
それがとても嬉しかったことを今でも忘れていない。
「そっかあ、じゃあ夏休み友達と連絡できないね」
そう言ったのはZ先生だ。
この後、私は禁断の一言を放ってしまう。
「私、YouTubeだけが友達なんで」
私からすれば何気ない一言のはずだった。の、だが。
2人の反応は想像以上だった。
「それはやば過ぎるだろ」
そう言ってZ先生は自分の口を抑えた。
隣の少年くんも
「それはさすがにやばい」
と言って笑っていた。
「え?そんなにやばいですか」
「うん。それはやばいよ、お姉さん。っていうかスマホなしでどうやってYouTube見るの?」
「家に帰ってこっそりiPadで見ます」
「こっそりとかもっとやばい奴じゃん」
「しょうがないじゃないですか、私の家厳しいんで」
「それにしても寂しい人だね」
「はい、だから誰とも連絡取らずにこっそりYouTube見てます。だからYouTubeしか友達がいないんです」
唖然とした様子のZ先生と少年。
ちょっと間を置いてからZ先生がこう言った。
「じゃあ、このことここだけの秘密ね」
「秘密ですか?」
「そう、ここの3人だけの秘密。封印しよう。ね?」
そう小声で言うZ先生。その様子がすごくおかしかったのを今でも覚えている。
「しーっだよ」
そう言ってZ先生は私と少年の顔を見比べながらしーっというポーズをして見せた。
「うん、わかった」
そう言って少年も口に手をあてて、おかしそうに笑った。
仕方なく、私もノリに乗って
「わかりました」
とだけ言った。
そして「私の友達はYouTubeだけ」という失言は本当に他の人に知られることはなかった。いや、正しく言えば忘れっぽいZ先生なので、単に忘れているだけかもしれないが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます