迫り来る進路選択
もうすでに読者の皆さんはお忘れかもしれないが、私は高校受験をすることが一つの目的として塾に通うことになったことを忘れてはならない。
塾に入ってからZ先生と喋れる楽しい日々を送るだけでなく、進路にも悩まされる日々を送ることになる。
元々英語が得意だった私は自然と英語を学べる高校に行きたいと考える様になっていた。当時の私は毎日学校から帰ると家族専用のiPadを開き、「英語に強い高校」というキーワードで高校の情報を必死でかき集めていた。
周りの友達や世間の情報を吸収している限り、高校受験の勉強とは遅くとも中学二年生の夏から始めていないと手遅れだという風潮があった。私はこの情報を鵜呑みにして、塾に入ったばかりの頃は、高校受験など私にはもう手遅れなのではないかとほんの一瞬思っていた。
だがそんな不安も一気に吹っ飛んだ。Z先生が数学を指導してくれたおかげであれだけ大嫌いだった数学が30点以上も上がり、好きになることができたのだ。
メンヘラの私もこの頃からほんの少しだけ自信をつけ始めていた。
そしてZ先生や塾長も進路の話をしてくるので、もう外部進学の選択をせざるを得なかった。こう書くとなんだか私が仕方なく外部進学を選択した様に聞こえるが実際は真逆だ。
私だって早く辛い環境から抜け出したかった。
だから尚更進路選択にはかなり真剣だった。進路の情報は家族にも協力してもらって集めていた。もちろん、塾も一緒に、だ。
Z先生はなんと英語に強い高校を全てリストアップしてくれ、面談の時にホチキス留めされた高校一覧を渡してくれたのだ。きっとZ先生だって他のことに忙しいのに、私の為にわざわざ時間をかけてまでリストアップしてくれたのだ。
もしかしたらそのリストは母に捨てられてしまったかもしれないが、今でも私はその嬉しさを覚えているし、感謝だってずっとしている。
そして授業の合間を縫って進路の相談をすることも度々あった。
公立か私立か。場所はどこか。どのコースを受けるのか。Z先生はここがいいとははっきり言わなかったが私の意見は尊重してくれた。
「〇〇高校ちょっと気になってるんですよね」
「あ〜〇〇ねえ。確かにいいんじゃない?」
「でも〇〇高校は制服が黒い虫って言われてるんですよ」
「え?黒い虫?何その噂」
「え?先生、聞いたことないですか、その噂」
「いや、それは聞いたことはないわ。真面目ってイメージはあるけど。もしかして制服で高校選んでる?」
「いえ、全然。でも流石に黒い虫って言われる制服は嫌だなって思って」
「え?あれでしょ?〇〇って場所にあるんでしょ?」
「はい、そうみたいです。でも厳しいんですよね、〇〇高校」
「ああそうなんだ〜」
この時、初めて塾の先生だからといって、学校の情報を知っている訳ではないのだと悟った。いや、こんなことは当たり前かもしれない。
しかし恥ずかしいことに私は塾の先生なら学校の情報は何でも知っていると思い込んでいたのだ。勘違いしていた自分を責めてももう遅いが、今でも非常に恥ずかしい思い出である。
「将来の夢は?」
「よくわからないです」
「え?前にさあ、動物が好きだから獣医とかそっち系の理系に進みたい、英語は得意だけど英語を使った仕事に就きたくないって言ってなかった?」
そう、言い忘れていたが実はZ先生と最初に授業をした時、将来の夢について聞かれ、動物が好きだから獣医になりたいと言ってしまっていたのだ。
その時、じゃあ君は理系だねと言われた。しかも数学が好きになってきていたのでここで数学を捨ててしまってはもったいない、数学を勉強して大学でも数学を勉強したいと思っていた。 でもやっぱり英語か得意で誰にも負けたくないという精神があった為、自然と英語を選んでしまっている自分がいた。
忘れっぽいはずのZ先生、なんでこのことは覚えているのかな?
それは忘れても良かった情報なのに。
「確かに言っていましたけど。でも英語使いたくはないけど英語が得意だったから・・・」
「えー、もったいないなあ。俺が英語得意だったら英語使った職に就くけどなあ。英語使った仕事すればいいのにい」
「好きと得意は違います」
「あ、そうですか。失礼しました」
わざとっぽく謝ってくるZ先生。当時の先生は私の英語について何も知る由もなかった。
実はZ先生は数学だけではなく英語もみてくれた時があった。
塾で英語の授業をとっている訳ではなかったが、ある日数学の授業開始前に学校から出された春休み英語のテキストの課題をしていたら、「あ、今日英語やる?」と言われたのだ。注意されて数学をすることになると思っていたので私は一気に拍子抜けしたし、驚いた。
この先生、英語も教えることができるんだ。
その時はZ先生の言葉に甘えて英語をみてもらった。
私は文法が苦手だったので、テキストに書かれた私の英語の回答、特に文法はことごとく間違っていた様だ。でも後に全問正解するほどにレベルは上がったのだが。
それでも英語の方が得意だったので、Z先生の解説は容易に理解できたし、余裕も持てた。そして雑談もできたので楽しかったことを覚えている。
英語の質問をした時にZ先生に「発音いいね」と褒められた。それはすごく嬉しかったが、当時人前で英語を話したくなかった私はちょっと恥ずかしかった。
そんな感じで塾に来てZ先生に会える時間を楽しみながらも進路選択に迷う毎日。
まだ受験まで時間はあったが受験生の時間はあっという間にすぎていく。
それだけは周りにずっと言い聞かされていたので進路選択にはずっと焦り、悩み続けていた。
でも、塾のおかげでエスカレーター式に今の学校にいくことは絶対にしない。それだけはすでに心に決めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます