閑話 超越者レイヴンと欠点

 ――超越者には、欠点がある方がいい。

 これが僕の持論だ。


 『コードギアス』のC.Cシーツーは、ピザばかり食う偏食家へんしょくか

 ルルーシュは、運動神経がにぶい。

 『ドラゴンボール』の悟空は、地球爆破できるほど強いのに注射が怖い。


 欠点があることで、見る者は共感を覚える。キャラに深みが出るのだ。

(超越者ロールプレイをする者として『欠点』は是非ぜひ押さえておきたい)

 そう思った僕はまずC.Cシーツーならい、『偏食』をすることにした。

 レイヴン姿の時は、街のパン屋で買った『野いちごパン』ばかり食うのだ。

 栄養がかたよって体調を崩すかもしれないが、それより超越者ロールプレイのほうが大事だ。

(『レイヴン』みたいな黒ずくめの男が、野いちごパン)

 なかなか可愛げがあるではないか。

 ……だが。

「飽きた……」

 半月で限界が訪れた。あまりにもキツかったため、最近は野いちごパンを焼いたり、湯で食ってた程だ。『いきなり!黄金伝説。』の、同じ食材ばっかり食う企画かよ。

(これはダメだ。違う欠点を探そう)

 

 ――そう決意してから、数日後。

 騎士養成学校の放課後。

 僕はレイヴンの恰好かっこうに着替え、裏山にいた。弟子のリネットを待ちつつ、考える。

(なにか、いい欠点はないかな……)

 そのとき、後ろから『がさがさ』と物音がした。

(リネットが来たのか、それとも神獣ガルムか?)

 振り返ると――


 全長2メートルほどの、巨大なムカデがいた。

 

「おぁぁぁぁああああああ!?」

 絶叫をあげ、尻餅をつく。

 たしか『ムカデキング』というモンスターだ。

 僕は別に、虫が苦手というわけではない。前世ではカブトムシとか普通に捕まえてたし。

(――でも)

 この世界には『虫型魔物』というヤツがいる。

 これが軒並のきなみ、デカいのだ。

(異世界転生ファンタジーものでは、虫型の魔物をサラッと出しがちだけど……)

 デカい虫って、それだけで怖いだろ!

 ムカデキングの目は、水晶玉ほどもある。無数の節足せっそくがうねり、微かに見える身体の裏は更にグロくて……うあああああぁぁ、全身に鳥肌が。

 時を止める魔法【停止】を唱える余裕などない。

 気絶しそう……と思った時。


 ムカデキングは火炎で焼き払われ、消滅した。


「レイヴン様っ」

 リネットが駆けてくる。火炎魔法を使ってくれたらしい。

 尻餅をついていた僕は、慌てて立ち上がる。

 風魔法でマントをなびかせつつ、大塚明夫さん風の声を作り、

「リネットか。さて、稽古を始めるか」

 ……

 …………

 む、いつもならリネットは間髪入れず『はい!』と良い返事をするのだが。

 今日は僕を、ジーッと見てきて、

「レイヴン様、途方もなくお強いのに……もしかして、虫型魔物が苦手なんですか?」

 僕は真っ赤になった。仮面のおかげで気付かれてはいないが。

「ふふっ、可愛い」

(か、可愛いだと? …………あっ)

 これ、僕が求めていた『欠点』じゃないか?

(やった! 僕の超越者ロールプレイが、レベルアップしたぞ)

 喜んでいると。

 リネットが僕の背後を指さし、

「あっ。後ろに、もう一匹ムカデキングが」

「ぎゃああああああ!」

 悲鳴をあげ、リネットの陰に隠れる。

 肩越しに、おそるおそる見れば……あれ? ムカデキングなんてどこにもいない。

 リネットが笑い、

「ふふ、嘘ですよ。可愛らしいレイヴン様が新鮮で、つい」

(こ、こいつめ)

 ……この欠点、やっぱりダメだ。

 ストレスが尋常じゃない。虫型魔物については克服し、欠点は別のものを探そう。


 翌日から僕は、虫型魔物克服の訓練をはじめた。触ったり、殺して解体したり。なかなかの荒療治だ。

 それと平行して新たな『欠点』も考えてみたが、なかなか思いつかない。

 クタクタになって、男子寮に戻ると(※僕は寮生活を送っている)……

 管理人さんから手紙を渡された。

 その差出人は――

(母上!)

 僕に付与魔法などを教えてくれた、大恩人だ。

 手紙を抱きしめ、自室にダッシュで戻ると……人間状態のガルムがいた。こっそり忍び込んだらしい。

「ガルム、何用だ?」

「わぅ。ここ数日、会えなかったので、一緒に過ごしたいと」

「明日にしろ。非常に大事な用がある」

「ひ、非常に大事な用……リネット殿の王位争いに、動きがあったとか?」

 何を言ってるんだ? 

 そんな事とは、比較にならないほど重要だ。

「母上の手紙を、読むことだ」

 唖然とするガルム。それを横目に、床に正座して手紙を開く。


『可愛い私の坊や お元気ですか

 私は 元気にすごしています」


(ご壮健そうけんか。なによりだ)

 思わず口許くちもとがほころぶ。

 むさぼるように、続きを読む――母上の手紙は優しい言葉が満ちあふれていて、癒やされる。

 今までもらった手紙・27通も大事に机にしまい、ほぼ毎日読み返しているのだ。

(よし……! 明日からも虫型魔物の克服、そして、僕の欠点探しを頑張ろう)

 だが前者はともかく、欠点は見つかるだろうか。今のところ、何も浮かばないのだ。

 

 ――その時ガルムが、僕に聞こえないくらいの声で呟いた。

「鬼神のごとき強さのレイヴン様が、マザコンだったとは……わぅ。可愛いところがあるのですね」






後書き:モチベーションにつながるので、

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