第7話(後編) 理想の『力が欲しいか』のために、学園生活を頑張る
●
学校の裏山に、ガルムの声がこだまする。
「らーらー、らららーーらーらーーー」
「違う! もっと
僕はガルムに、歌を教えていた。
無論『力が欲しいか』の、BGMとするためである。
教えるのはバッハの『小フーガ ト短調』。
ただこの曲は、本当はパイプオルガンで奏でるもの。アカペラでやるのは無理がある……普通の人間ならば。
「レイヴン様。次はボク、お腹から声を出すことを意識してみます」
「『意識』では足りん。貴様は、肉体を自由に変えられるんだろう」
うなずくガルムに、僕は、
「『上手く歌う』——それだけを目的に、肉体を変化させろ!」
「ええーっ!?」
ガルムは、しばらく頭を抱えたあと……
「わかりました。とりあえず腹筋を強化してと……ららら、らららーーーー♪」
お、少しマシになった。
だがまだ理想には遠い。
「次は、より大きく息を吸うため、肺のデカさを3倍にしてみろ」
「ええっ」
「理想の歌声がでるまで、貴様の身体を何百回、何千回と変化させるぞ」
「ひぃいいい!」
ガルムが悲鳴をあげる。
うーむ。厳しいだけじゃモチベーション上がらないし、ご褒美もやるか。
「がんばれ。あと一時間練習したら、いいものを食わせてやる」
「わぅ! 牛ですか、羊ですか?」
「あれだ」
僕が指さしたのは……
屋上から持ってきた、ゲントナーの死体。
「わぁい美味しそう! やったー!」
僕をイジメていたヤツだが、思わぬ形で役立ってくれた。
ありがとうゲントナー。君はガルムに残さず食わせるよ。証拠隠滅の意味も込めて。
それから二週間。
ガルムは歌の練習、僕は【運命の
そして——
●
王都から離れた場所にある『魔の森』。
冒険者である俺は、死の危機に瀕していた。
ゴァァアアアアアア!!
目の前で
(こいつさえ倒せば……)
A級冒険者に昇格できる。そうすれば、晴れてあの
……なのに。
キングエイプの分厚い皮に、俺の剣はほとんど効かない。爪による攻撃で、こちらの全身は傷だらけだ。
(なぜ俺は、こんなに弱いんだ!)
心が絶望で満たされた時。
——キングエイプが、ピタリと止まった。
草も、木の枝も、凍り付いたように動かない。
(こ、これは【停止】か?)
時間を止める、伝説級の魔法。
いったい誰が……
ララ……ララララ……
今度は、見事な声量の歌声が聞こえてくる。聞いたこともないほど美しく、
歌声の方を見れば——
空中に人間が二人、浮いていた。
歌っているのは小柄な美少女。それを従えるように、仮面の男がいる。
仮面の男が語りかけてきた。
「我が名は……レイヴン……」
あまりに異様な状況に、絶句する。こいつらは神か、悪魔か?
「弱き者よ……」
黒衣の男——レイヴンが俺を見下ろす。
マントを
「力が」ラララ〜〜ララララ、ララ〜
歌声が
聞き返してみる。
「えっ? 『力が』のあと、なんて言った?」
レイヴンが、少女に『声量を下げろ』というようなジェスチャーをする。
だが少女は集中しているのか、気付かない。
レイヴンは頭を抱え……地面に降り、近づいてきた。俺が聞き取りやすくする為だろうか。
「弱き者よ……
だがまた歌声が
レイヴンは俺の耳元で、ヤケクソ気味に、
「弱き者よ!! 力が欲しいかぁ!!」
「え!? そりゃまあ」
「ならばくれてやる!!」
レイヴンが俺に、
そして少女を小脇に抱え、大急ぎで去って行った。
(な、なんだったんだ??)
首をかしげていると。
ゴアアアアアアアアア!!
キングエイプが咆哮し、動き出した。【停止】が切れたのだろう。
「ひっ!」
苦し紛れに、剣を突き出す。
命中はしたが——先程までと同様、キングエイプの分厚い皮に、小さな傷しかつけられない。
だが。
ギイイイイイイ!??
キングエイプが突然苦しみだし……倒れた。
「え?」
おそるおそる確かめてみると、死んでいる。レイヴンがくれた『力』のせいか?
(あ、ありがとうレイヴン。なんかグダグダだったけど)
きっとあの仮面の下、真っ赤になってたんじゃないかな。
●
僕は木陰に隠れ、
「おいガルム。練習の時に
「きゃうん、申し訳ありません」
初めて行った、BGMつきの『力が欲しいか』……
グダグダだったが、まあこれから改善していけばいい。挑戦に失敗はつきものだ。
(だが【運命の
うまく異能を与えられたようだ。
「ガルムよ。さっきの冒険者、キングエイプを一撃で殺していたな。あれは何の異能であろう」
「うーん、『攻撃した相手に死を与える』とかでしょうか」
おー、めちゃくちゃ強いじゃん。不意をつかれたら、僕でさえ死ぬぞ。
(その異能を、これからアイツどう使うだろう? 最強の冒険者になるだろうか?)
わくわくして、さっきの冒険者を木陰から見る。
複数の骸骨剣士に、切り刻まれ死んでいた……あれ?
「わぅ。即死系の異能なので、既に死んでいるアンデッドには効かなかったようですね」
(なるほどなぁ)
最強クラスの異能でも、弱点つかれると死ぬ。これも異能バトルの醍醐味ではある。
(ともあれ【運命の
満足だ。
ガルムには
ふむ。
肉代が浮いたな。
後書き:モチベーションにつながるので、
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