第7話(前編) 理想の『力が欲しいか』のために、学園生活を頑張る

 このあたりで、僕が通う『騎士養成学校』の話もしよう。

 ここには王国中から貴族の子弟などが集まり、立派な騎士になるため授業を受けている。

 授業には、実技と講義がある。


 実技……戦闘訓練

 講義……魔法の勉強


 という感じだ。

 ちなみに僕はどっちも、あえて最低ランクの成績をとり、スクールカーストの最底辺に身を置いている。

 僕をイジメやすくするためだ。

 イジメから僕を助けてくれた者こそ——『力を与える』にふさわしい、気高いヤツということになる。リネットも、この方法で見つけた。

 そんな劣等生な僕だけど、授業は真面目に受けている。

(最高の『力が欲しいか』をするため、勉強はいくらしても足りないからな)

 今日は特に、興味深い講義があった。

「これから教えるのは、付与魔法の一つ【運命の賽子サイコロ】。何が起きるか分からん魔法だ」

 教師はそう言って、教卓の鳥カゴを指さした。中には三羽の鳥が入っている。

 そこへ魔法をかける教師。


「【運命の賽子サイコロ】」


 ……すると。

 鳥がそれぞれ、羽根の模様が派手になったり、爪が長くなったり、クチバシが鋭利になったりした。

「見ての通り、ランダムな変化が起きる。私程度の技量では、このくらいの変化が限界だが……」

 教師が、教室を見回して、

「凄腕の魔術師なら、劇的な変化が起こせるぞ。鳥が炎を吐けるようになったりな」

 講義を聞く生徒達は、退屈そうだ。

 【運命の賽子サイコロ】は、ランダム性が強い上に、変化時間も10分ほどしか無いという。普通なら実戦で使えるものではないが……

(この魔法、凄いぞ!)

 僕にとっては、福音ふくいんのようだった。

(今の僕の『力が欲しいか』は、単純に相手の戦闘力をなになに倍にするだけだ)

 それでは、インフレの力押しバトルになってしまう。

 だがこの【運命の賽子サイコロ】を、うまく使えば……


 異能を与えることが、できるんじゃないか?

 

 ジョジョの『スタンド』、コードギアスの『ギアス』のような……

 力を与える僕ですら想像がつかない、頭脳バトルが見れるかもしれない。

(【運命の賽子サイコロ】による変化は10分だけ。でも何の問題も無い)

 僕には『力が欲しいか』をする際に使っている、【効果持続】という魔法がある。最大500年まで、付与魔法の効果を伸ばすことが可能だ。

(【運命の賽子サイコロ】で、僕は新たなステージに進めるぞ)

 僕はこの魔法の練習を、トレーニングメニューに取り入れた。

 

 実りの多い授業が終わり、放課後になった。

 隣の席のリネットが帰り支度じたくをしている。いつもなら彼女は、レイヴン(僕)に剣を教わりに行くのだが——

「ではアルド君。私は街へ出かけますので」

 リネットには今日、休養を与えている。毎日鍛錬してはオーバーワークになるからだ。

(リネットは相変わらず、王位継承争いの刺客に狙われているはずだが)

 先日部下にした『ガルム』を護衛にあてている。心配いらないだろう。

 ガルムは神から、地上に使わされた神獣だという。

 先日、育ての親をこの学園の生徒に殺された。その復讐のため、僕は力を与えたのだ。 

(しかしガルム、どうやってリネットをまもるんだろうな)

 『もののけ姫』の犬神みたいなデカさの犬だ。人里ひとざとに出たら大騒ぎになるだろう。

 その事を以前ガルムに尋ねると『お任せください主様ぬしさま!』と自信満々だったが。

「また明日」

 リネットと別れ、図書館に向かう。

 古今東西の本が沢山ある。僕は入学当初から、暇さえ有ればここの本を読んでいる。


 『音楽を流す魔法』を探すためだ。


 なぜそれを求めているか、というと……

(『力が欲しいか』をする際、音楽を流したい)

 荘厳そうごんなメロディをバックに『力が……欲しいか……』と言う。最高ではないか。

(でもやはり、この世界に音楽魔法はないようだ)

 いくら本を読んでも、教師に聞いても、空振りだった。

 ならば——

(僕が『力が欲しいか』やってる時、誰かに奏でてもらうしかない)

 でもそんな事、誰に頼めばいいんだろう。音楽の技術がある人間でないといけないし……

 大真面目に考えていると、男子生徒に声をかけられた。

「アルド君。勉強中ごめんね」

 ゲントナーとかいう同級生。大貴族の子息だ。

 さわやかな笑顔で、

「ちょっと付き合ってくれないかな?」



 で、ゲントナーに屋上に連れてこられ、ボコボコに殴られる。

 僕が学園一の美少女、リネットと一緒にいるのが気にくわないらしい。

「なんで、お前みたいなのがっ、リネットさんと仲良くっ」

(88、89、90……)

 僕が数えているのは、『ヘイトポイント』である。

 これが累計で100に達したヤツは、殺すことにしている。

 ポイントの一例はこうだ。


1ポイント……暴力、僕の所有物(教科書など)の破損

2ポイント……高いところから突き落とす、閉じ込めるなど

5ポイント……虫を食わせる


 我ながら結構良心的だと思う。

 ああ、あともう一つ——

 『母上への侮辱』は、最も高い20ポイント。

 母上は、僕に付与魔法などを教えてくれた大恩人だからだ。姉上は侮辱してもいいけど。

「ふん、クズめ」

 ゲントナーがひざ蹴りをいれてきた。

 累計ヘイトポイント92。来週あたり殺すことになりそうだ……と思っていると、

「お前を産んだ親も、よほどのクズなんだろうな」

 ——予定が早まった。

 死体の始末場所を考えながら、魔力を練りはじめた時……

 ゲントナーの頭を、誰かが後ろから掴み、


 一回転させた。


「がぺっ」

 事切こときれるゲントナー。

 その向こうに、ぶかぶかの制服を着た少女が立っていた。

 小柄で、かなり整った顔立ちである。

(おっ、僕をイジメから助けてくれたのかな?)

 力を与えるにふさわしい、気高い子だろうか? 助け方が多少過激ではあるが。

 少女は僕に、ゴミを見るような目を向け、

「ふん、リネット殿は、なぜこのような情けない男と……」

「君は誰? リネットの知り合い?」

「ボクは直接話したことはないが、主様ぬしさまめいで護衛——いや、貴様に関係ないだろ」

 主様ぬしさま? リネットを護衛?

 こいつ、まさか……

(ガルムか?)

 神獣とか言ってたし、人間に姿を変えられるのかも。

(へー、見事な変身だな。それにこいつ、メスだったのか)

 まじまじ見る僕を、ガルムが威嚇いかくしてくる。僕が『レイヴン』だと気付いていないのだろう。

「お前みたいなヤツといては、リネット殿のためによくない。殺して食ってやろうか……ん??」

 近づいてきて、鼻をスンスン鳴らす。

「こ、この匂い……」

 大量の冷や汗を垂らして、

「あ、あ、貴方まさか、レイヴン様ァアアアアア!?」

 ええ。レイヴン様です。

「ガルムよ」

 魔力で、己の身体能力を1000倍に上昇させる。今の僕のMAXマックスの強さだ。校舎もデコピンで粉砕できるだろう。

「主である僕を、殺すというのか?」

「い、いえいえいえ! 勘違いでした、お許しください!!」

 ガルムが土下座する。

(なんだ……)

 『力を与えた相手に牙を剥かれる』って、憧れのシチュなのに。『ダイの大冒険』でも、バーンがハドラーにやられてたよね。

 僕は腕組みして、

「貴様には、リネット護衛の任をあたえたはずだが?」

「リネット殿は、街で友人らしき女騎士と合流しました。なかなかの腕に見えたので、大丈夫だと思い、こちらへ……」

「ふむ。では、貴様が着ている制服は?」

「先日の仇討ちで殺した、生徒のものです」

 なるほど。ブカブカなのは、そのためか。

「数々の無礼、お許しくださいませ。なんでもします……こ、交尾でも」

 ガルムがボタンに手をかけ、制服を脱ぎはじめる。

 みずみずしく、魅力的な体だが——

(イヤだよ……僕、犬とまぐわう趣味はないよ)

 それに僕、いま身体能力が1000倍になってるんだ。

 射精の威力も1000倍のはずで、膣内射精したらこいつの体を貫通するかも。グロすぎる。

 話をそらそう。 

「ところで、貴様はどうやって人間の姿に?」

「ボクの能力『変身』ですね。魔力をコントロールすることで、自在に肉体を変えられるのです」

「ほう!」

 名案がひらめいた。

「ガルム。これから貴様の身体を、僕の好きにさせろ」

「わぅ! はいどうぞ!!」

 ガルムが真っ赤になり、尻を僕に向けてくる。だから交尾はしないというのに。



(後編に続く ※既にアップ済みです)




後書き:モチベーションにつながるので、

面白かったら作品の目次ページの、レビュー欄から

☆、レビュー等での評価お願いいたします



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る