第4話(前編) なかなか『力が欲しいか』ができないので、策を弄してみる

『力が欲しいか……』がやりたいだけの僕。


 異世界転生する前は、色々迷走した。

 ある新興宗教の教祖が『人知を超えた力を得られる粉』を出せると聞けば、入信。実際に粉を貰ってみると、単なる覚醒剤でガッカリしたり。

 あと、ヤンデレに殺されたり……

 だが貴族の子『アルド』に転生したあとは、順調に『力が欲しいか……』をするための力を蓄えてきた。


 力を与える『付与魔法』。

 それに時間停止の魔法【停止】を覚えた。

 『レイヴン』というキャラを作るため、服装を整え、大塚明夫さん風ボイスも練習した。


 そして『力を与える』にふさわしい、スケールの大きな人材と出逢うため、王都の『騎士養成学校』へとやってきた。

 いじめっ子の、ゴリアテ達三人に絡まれた僕。

 それをリネットという美少女が助けた。

 気高い彼女こそ『力を与える』にふさわしい。

 そう思ったがリネットは力を受け取ってくれず……なぜか『レイヴン』に弟子入りしてしまったのだった。



 僕をいじめていたゴリアテたち三人は、あの世へ旅立ってもらった。

 死体は絶対見つからない所に捨てたので、学内では『学園をやめて冒険者になった』、『調子に乗りすぎてマフィアに殺された』など様々な噂が立っている。

 誰も、いじめられてオイオイ泣くフリをしてた僕の仕業だとは思うまい。

「ねえアルド君。ゴリアテ君たちは、どこに行ったのでしょうね」

 そう僕に問うのは、リネットだ。助けて貰ったことをきっかけに、一緒に過ごすようになった。

「ゴリアテ君たちの行方に、心当たりはありますか」

「そうだな……千の風になって、この大きな空を吹き渡っているんじゃないかな」

「千の風? 各地をさすらう冒険者になったということですか? 詩的な表現ですね」

 僕が転生する前の世界では、死んだという意味である。

「ところで」

 僕は、ニコニコしているリネットを見て、

「ご機嫌そうだね」

「わかりますか? 今日からレイヴン様に稽古をつけていただけるのです。とても楽しみ」

 レイヴンである僕は、憂鬱だけどな。

 リネットにあまり強くなられると『弱き者よ……力が……欲しいか……』がやりづらくなるからだ。

 まあ、適当に教えよう。



 ……とは思ったものの。

「違う!」

 放課後。騎士養成学校の裏山。

 僕は黒衣と仮面をつけてレイヴンの恰好をし、大塚明夫さん風の声でリネットを指導していた。

「基本は出来ているが、それだけだ。少しでも相手が絡め手をとってきたら、途端に窮地におちいってしまうぞ」

「はい!!」

 性分しょうぶんのせいか、どうも真剣に教えてしまう。

 リネットは熱心な上、飲み込みがいいから、どんどん強くなる。稽古を終えた今でも素振りしてるし。

「あまり無理せずともいいのだぞ?」

「いえ、これくらいで疲れていたら、レイヴン様にガッカリされてしまいますから」

(強くなったら、僕がガッカリするんだよ)

 なんとも上手くいかない。

(どうすれば、リネットが力を受け取ってくれるだろう)

 そんな事を考えつつ、数日が過ぎ……いつものように稽古をつけていると。

 視線を感じた。

 リネットは気付いていないようだが、確認しておこう。

「少し席を外す」

 と言い残し、近くの林に入った瞬間——


「【停止】」


 僕以外の、全ての時間を止める。

 リネットも石像のように固まっている。

(しかし綺麗だなリネット……僕が時間停止AV好きだったら、滅茶苦茶にしてるぞ)

 アホなことを考えつつ、視線を感じた方向に駆ける。

(いた)

 若い男女二人だ。禍々まがまがしい紋章が刺繍ししゅうされたローブを着ている。

 木陰に身を隠し、【停止】を解除した。


 男女二人が、会話をはじめる。

「俺が見たところ、あのレイヴンという男、かなりの手練てだれ。アイツがそばにいては、ターゲットを始末できん」

「ええ」

 ターゲットって……こいつらリネットを殺すつもりか? なんでだろ。

「狙うべきは、レイヴンがいない時ね」

「そうだなドロテア——全ては教主きょうしゅ御心みこころのままに」

 女の方はドロテアというらしい。ムチムチした身体の美人だ。

(興味深い会話だったな……よし、こいつらを利用させてもらおう)

 無論リネットに『力が欲しいか』をするためだ。

 僕は作戦を立てる。


(後編に続く ※既にアップ済みです)



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