第1話 異世界で始める「力が欲しいか」ライフ

 僕は『力が欲しいか』をやりたいだけの人間である。


 死後、中世ヨーロッパ風異世界の、貴族の子供に転生した。ヤンデレに拷問され死んだのだが、結果オーライである。

 更に幸運なことに、母が『付与魔法』——ドラクエで言うバイキルトやピオリムのような魔法の使い手であった。

 これを覚えれば『力が欲しいか』ができる。

 僕は母が、家族などに付与魔法を使うときに観察し、詠唱を覚えたりした。

 力を上昇させる【力付与】……

 素早さを上げる【素早さ付与】……

 母が夜の営みの時、父に【体力付与】をかけるのは、あまり見たくなかったが、我慢して観察した。

 やがて二歳になり、詠唱ができるようになった頃……

 僕は庭へ出た。ちなみにこの屋敷は、城壁に囲まれた都市の一角にある。

(おっ)

 アリを見つけた。

 僕はよちよち駈け寄り、アリに小さなガラス瓶(『ごはんですよ』くらいの大きさ)をかぶせて、閉じ込める。

(いよいよだ)

 少し緊張しつつ……

 ガラスの中のアリを見下ろしながら「ククク」と嘲笑し、


「弱き者よ……力が欲しいか……?」


 当然アリには無視される。

 だが構わない。僕は右手を突き出し、


「ならば、くれてやる!!」


 アリに【力付与】をかける。

 アリはしばらくウロウロしていたが、やがて瓶のフチに身体をぶつけ……

 転がした。

(おお……!!)

 僕は両膝をついた。

(ついに前世からの悲願『力が欲しいか』ができた)

 改善点は山ほどあるが、大きな一歩には違いない。頬を涙が伝う。

「坊や、お外にいたのね。あらあら、どうして泣いてるの?」

 屋敷から出てきた母が、僕を優しく抱きかかえる。

(母は、付与魔法を教えてくれた大恩人だ) 

 本来なら僕は、前世を含めると二十年ほど生きている。

 だがここは幼児らしく甘え、母を喜ばせよう。

「あのね、ママが近くにいなくて、さびちかったの!」

「あらあら。私も貴方がいないと寂しいわ」

「ママだいちゅき!! ちゅきぃいーーーー!」



 さて。次の問題の解決に、乗り出さねばならない。

(付与魔法の効果時間は、三十分くらいしかないんだよな)

 そんな短い時間では到底『力を与える』とはいえない。よって、次の目標はこれだ。


『付与魔法の効果を、永続させる』


 バイキルトの効果が永遠に続くようなものだ。充分に『力を与える』といえるだろう。

 方法を探すため、僕は屋敷にある蔵書を読みまくった(異世界文字は転生したときから読めた)。

 本によると『時魔法』というものがあるらしい。

 時間の流れを操る魔法——FFのヘイストやスロウみたいなのだ。素早く動いたり、敵を遅くしたりできる。

 で、時魔法の中に【効果持続】というものがある。『付与魔法の効果を長くする』ものだ。

(【効果持続】を使えば、付与魔法の効果を一時間……凄い魔術師になると一ヶ月間も持続できるのか)

 僕はこの魔法に着目した。

 理論的には——この【効果持続】の効果時間を『永遠』にすれば、『力が欲しいか』ができるはず。


 で、そのために修行を開始した。

 この世界で魔力を鍛えるには、才能に加え、瞑想めいそうなどをする必要がある。

 幸いなところ、僕には才能があったようだし……

 瞑想する時間も、十分にある。

 僕は1日24時間のうち、16時間を瞑想にあてた。他は子供らしく、バブバブ甘えたり、寝たりする。

(いやー、しかし1日16時間瞑想するだけなんて、楽すぎね?)

 なんたって生前に行った『千日回峰行せんにちかいほうぎょう』では、1日48キロ山中を走り、それを1000日間行っていたのだ。

(あの時は、1日あたり16時間は走ってたな)

 更にこの修行、小さなオニギリしか食べられなかったり、途中で断念したら自害せねばならなかったり、凄まじかった(※実際にある修行です)。

 それに比べれば、今はメシを腹一杯食えるし、走る必要もない。天国に等しい。

 そんな瞑想生活を続けて、8年……

 10歳になると、僕は凄まじいレベルの魔術師に成長していた。

 付与魔法をかければ、身体能力を100倍にできる。

 【効果持続】の効果時間は、最大500年。永遠とはいかなかったが、まあ充分だろう。

(いよいよ本格的に、『力が欲しいか』ライフを始めるぞ)

 喜び勇んで、夜に屋敷を抜け出した。

「【脚力付与】」

 おのれに付与魔法をかける。屋敷の壁をとびこえ、大通りを駆け抜け……街を囲む十メートルほどの壁もひとっ飛びし、平原に降り立つ。

 ちなみに自分には【効果持続】は使わない。あまりに高い身体能力は、日常生活では逆に不便だからね。必要な時だけかければいい。

(さて、と)

 城壁の外には魔物がおり、沢山の冒険者が狩りを行っている。

 冒険者の中には死にかけて、力を欲するヤツがいるかもしれない。それを求めて、テクテク歩く。


「ぎゃあああああああ!!」


 悲鳴が聞こえてきた。

(お、さっそく見つけたか?)

 冒険者らしき青年が、体高三メートルはある巨大狼に追われている。あれは確か『フェンリル』とかいう強力なモンスターだよな。

 僕は逃げる冒険者に先回りし、語りかけた。


「弱き者よ。力が欲し……」


「ひぃいいい!!」

 僕に気付かず、通り過ぎてしまった。恐怖で我を失ってるな。

 追いかけ、冒険者と併走する。

「力が欲しいかぁ!! おーい!!」

「うぁああああああ!」

「我の話を——」

 

 ざくっ。


 あー。

 冒険者はフェンリルの爪で即死し、むしゃむしゃ食われはじめた。まあ自己責任というものだ。

(でもよく考えると、大ピンチのヤツに話しかけても、応答する余裕なんて無いよな)

 反省して次に活かそう、と思っていると。

 

 グルルル……


 ん? フェンリルが僕を見て、唸っている。

「お前、僕と戦うつもりか?」

 その冒険者を食って満足すればいいものを。ほら、まだ下半身が残ってるぞ。

「仕方ないな。ちょっと待ってろ」

 きょろきょろ周りを見回すと『ツノウサギ』がいた。

 大きさは日本のウサギと同じくらい。かなり弱い魔物だが、僕が力を与えればフェンリルにも勝てるだろう。

 僕はツノウサギの前に立ち、言う。


「弱き者よ。力が欲し……」


 ガァアアアアアア!!

 フェンリルの威嚇で、僕の言葉がさえぎられた。

 もう一度。


「弱き者よ。力が欲し……」


 ガァァアァァアアアアアアアアアア!!!


「うるせー!! 『力が欲しいか』やってる途中だろーが!!!」

 殴りつける。フェンリルは宙を舞い……長い長い滞空時間の果てに、地面に落ちてきた。頭がペシャンコに潰れている。

「あっ、【力付与】を使って、殴ってしまった……」

 ガックリ肩を落とす。

 こうして僕の本格的な『力が欲しいか』ライフは、ホロ苦い始まりとなった。



 翌日。

 フェンリルの死体を見つけた街の人々が大騒ぎする。

「誰だフェンリルを倒したのは!? 最高ランクの冒険者ですら苦戦する、A級モンスターだぞ!?」

「名も告げず去っていったのか……? 英雄だ! 英雄が現れた!」

 やめてくれ。

(僕は倒したくなかった。誰かに力を与えて、倒させたかったのに……)

 自分のミスをほじくり返されてるようで、ムズムズした。

 




後書き:モチベーションにつながるので、

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※当面、二日〜三日に一回くらいのペースで更新しようと思ってます


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