とにかく僕は死にかけのヤツに「力が欲しいか」と言いたい
壱日千次
プロローグ
『力が欲しいか』って言うキャラいるよね。
アニメや漫画とかで、主人公がピンチの時に現れて、力を与える
『コードギアス』の
小五のとき、僕はそれに憧れた。
憧れるだけでなく、実際になろうとした。
手始めに力を与えようとしたのは、クラスメイトの『サキ』という女子である。
勉強も運動もダメで、ものすごく太っていたので、いじめられていたのだ。
僕は放課後、泣きながら下校しているサキを、ブロック塀の上に立って見下ろした。
「力が……欲しいか……」
サキは唖然としていたが、やがて『欲しい』と言った。
僕はダッフルコートをマントのように
「ならばくれてやる!!」
それからサキに勉強、護身術などを教えた(僕の家は剣術道場で、跡取りとして鍛えられていた)。
しばらくするとサキの身体は引き締まり、見違えるほど綺麗になった。勉強もスポーツでも好成績をおさめ、スクールカーストの頂点に君臨。無論いじめもなくなる。
サキは喜んでいたが……僕の心は暗かった。
(これは違うぞ)
『力が欲しいか』と語りかけるのは大抵、相手が一刻の
僕がサキにやったように、じっくり鍛えている暇など有るわけがない。
(力を与えるなら、一瞬でやらなきゃ)
それが次の課題である。あと余談だが、サキに告白されたけど断った。恋愛にうつつを抜かす暇はない。
それから僕は『一瞬で与えられる力』を求めた。
イメージとしては、RPGの補助魔法——ドラクエで言うとバイキルトとか、ピオリムみたいなのを覚えたい。
なので僕は魔法や、超能力的なものを習得しようとした。
己の血で魔法陣を書いたり、
気功を勉強したり、
仏教の修行で最も過酷と言われる『千日回峰行(1日48キロ山中を走るのを、1000日間続ける)』をしたり——
だがいずれも、無駄骨に終わった。
途方に暮れて町を歩いていると、見知らぬおばさんに声をかけられた。どうやら宗教の勧誘らしい。
(くだらん)
今まで宗教的アプローチも散々してきたのだ。今更——
「我が教祖様は、神にも等しい力をお持ちです。教祖様が異空間から取り出す『聖なる粉』を飲めば、人知を超えた存在になれます」
「入ります」
入信した。
その教祖みたいに『聖なる粉』を得られるようになれば、『力が欲しいか』ができるようになる。
それから僕は懸命に修行を重ね、教団で出世していく。
その甲斐あって、教祖から『聖なる粉』を貰えることになった。
喜んで教祖と対面したが、一目見て嫌な予感がした。
教祖はどう見ても、ただの太ったおっさんだったし『粉を異空間から取り出す』というのは、手品にすぎなかった。
そして教祖が僕に渡してきた『聖なる粉』は……
覚醒剤。
「これ麻薬ですよね」と指摘したら、教団幹部達が『不敬な!』と激怒して襲いかかってきた。
鈍器や模造刀を持っているものもいる。リンチにして殺すつもりのようだ。
僕は模造刀を奪い、反撃。
大立ち回りの末——教団が秘密裏に作っていた爆弾に引火。爆発し、教祖も幹部も全員死んだ。
教団は、大規模なテロを計画していたらしい。
それを事前に止めた事になるが……僕の胸にあるのは、虚無感のみ。
(一体、なにをしているんだ)
『力を与えるヤツ』になると誓ってから数年。一歩も進んでいない。
廃墟となった教団本部から出て、とぼとぼ歩いていると、背後から話しかけられた。
「久しぶり」
数年前に助けた少女、サキの声である。
振り向いた瞬間、腹に激痛——ナイフで刺されたのだ。
「貴方が悪いんだからね? 私を見てくれないから……一緒に楽しく過ごそう? いひ、いひひひ」
それからサキに監禁され、拷問された。
だが僕はプラスにとらえ『死の淵に立てば、未知のパワーが開花するかもしれない』と思った。
そうすれば『力を与えるヤツ』になれるだろう。
だがそう都合良くいくはずもなく、残念ながら拷問の末に死んでしまった。
●
それで今、中世ヨーロッパっぽい異世界に転生したところだ。
まあそこはどうでもいい。
大事なのはこの世界なら、『力が欲しいか』ができるかどうか——RPGの、補助魔法のようなものが有るかどうかだ。
「よちよち、可愛いでちゅね〜〜」
赤子の僕を、身なりのいい若い女性——母らしい——が笑顔であやしている。
部屋の調度品は、古いながらも高級感がある。貴族の家かな、と思ったとき。
「ははうえー」
可愛い声とともにドアが開いて、六歳くらいの女児が入ってきた。
手には金属の
筒にはフタがついていて、ネジのように回して開ける構造のようだ。
「ははうえ、紅茶の容器があきません」
女児はフタを回そうとするが、ビクともしない。誰かが固く閉めすぎたのだろう。
「わかったわ」
母は女児の頭に手を置き、言った。
「【力付与】……もう一度やってみて」
女児がフタに手をかけると、今度は簡単にあけてしまった。
「わあ! やはり母上の魔法は、すごいです」
僕は、呆然とそれを見ていたが……
(ま、魔法で力を与えたーーー!)
【力付与】とか言ってたな。つまり今のは、バイキルトのような補助魔法だろうか。
こういう魔法を覚えれば、念願の『力が欲しいか』ができる!
この異世界には、僕の求めていたものがある。
(殺してくれたサキに、感謝だな)
死ぬまで拷問を十五日間もされたが、今となっては
僕の人生の本番はこれから。頑張って魔法を覚えて『力が欲しいか』をやるぞ!
後書き:モチベーションにつながるので、
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