彼女が欲しかった俺が、日常に変化をもたらすまで。
小倉桜
第1話 「そういうのは本人から聞くもんだよ……」 ため息交じりに答えた。
※注意
こちらの作品は、『彼女が欲しかった俺が、恋のキューピッドになるまで。』というう作品の続編になります。
まだ読んでないよという方は、そちらからご覧くださるようお願いします。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「頼む
目の前の銀髪の小さな同級生は、ため息をつきながら答えた。
「あのね
「だってどうやって自然に聞けばいいんだよ。俺からいきなり誕生日教えてくれなんて聞いたら不自然だろ?」
「それをなんとかするのが神城の課題だよ……。ていうか、まだ付き合ってないんでしょう……?」
「その通りだが……。……って! まだってなんだよ!」
「あれ……? 違った……? てっきりそろそろ付き合うのかと……」
「違うわい!!」
俺はあいつを振ってるし、俺もあいつに振られているんだ。
今更付き合うなんてそんなことあるはずがない。
……というのは正直建前なんだけど。
だってかわいいんだもん。
仕方ないじゃん。
正直かなり恋人っぽいことしてるとは思ってるよ。
「あ~ん」なんて、普通恋人でもない限りしないもんな。
そういうことしてるとやっぱり改めて思うんだよ。
「だいたい、
「
藍那と一緒にアクセサリーショップに行ったあの日。
その時のお礼にと買っていた藍那に渡すためのアクセサリー……なのだが……。
例の件があったせいで渡すタイミングを完全に見失ってもう一ヶ月ほど経ってしまった。
そこで俺は、藍那の誕生日を聞いて、誕生日プレゼントという形で渡そうと思ったんだけども……。
「あの時のお礼だって渡せばいいのに……」
「今更そんなこと言えるか!」
「はぁ……。なんだか情けないね……」
「なんとでも言え」
この通り、千垣は教えてくれない。
そんなに人伝に聞いて渡す誕生日プレゼントはダメなのだろうか。
俺が懲りずに千垣を見つめていると、千垣はわざとらしくため息をついてから口を開いた。
「仕方ない……。さすがに教えるのはダメだけど、ヒントはあげよう……」
「ヒント?」
「うん……」
頷いた千垣は、深紅の瞳を輝かせながら言った。
「藍那
※※※
「そんなこと言われてもなぁ……」
学園祭の片付けと、土日祝日を使った分の代休を終えた次の週の月曜日。
そこからすでに俺と藍那のイチャイチャは始まっていた。
というのも、その日の前日。
藍那からメッセージで、『お弁当作ってあげる』ときたのがきっかけだった。
ちょうど俺も当番だったので、『じゃあ俺はお前の作ってく』と言ったのだ。
そこからどうして「あ~ん」とし合うことになったのかはもうわからないが、とても幸せだった。
じゃなくて、もうあれから一週間経っている。
もうすぐと言われても、一体いつなんだか……。
「琴羽とかは知らないのかなぁ」
仲良くなったからと言って誕生日の話とか突然しないか。
俺も
「どうしたもんかなぁ……」
そうこうしている間に、いつの間にか家に着いた。
「ただいま」
「おかえりぃ」
「なぁ心優。ちょっと聞きたいんだけど」
「なぁに?」
「藍那の誕生日って知ってるか?」
「知らないなぁ。近いのぉ?」
「らしい」
「らしい?」
う~んと悩みながらとりあえず鞄を自室に置きに行く。
一階に下りてきて、手洗いうがいも済ませた。
ふと視線を感じたのでそちらを見ると、心優が不思議そうにこっちを見てきていた。
そういえば何も説明してなかった。
「千垣から聞いたんだよ。藍那の誕生日が近いって」
「あ~なるほどぉ」
「でも教えてはくれないんだよ」
「そこは自分で聞き出さないとぉ」
「やっぱり心優もそう思うのか?」
「まぁ……。あ、でも、友達から聞いといて、サプライズみたいなのも憧れるなぁ……」
心優が頬に手を当ててうっとりし始めた。
「なるほどな。考えてみるよ」
「うん。誕生日わかったらわたしにも教えて」
「おっけー」
じゃあやっぱり誰かから聞くのもありなんだな。
千垣は絶対に教えてくれないだろうし、祐介や
とりあえず考えられるのは……。
「やっぱり琴羽か……」
ダメ元で聞いてみようと思った。
※※※
しかしそれから二日経った木曜日。
十月二十八日。
琴羽と話そうとしても、まったく出会わなかった。
授業になると教室にいるのだが、それ以外どこにいるのかまったくわからない。
昨日は家にも行ってみたが、琴羽はいなかった。
メッセージを入れても、既読すら付かないような状態だ。
少し心配になってきた。
お昼も相変わらずどこかで食べているようで、教室にはいない。
どうしたのだろうか?
「
「あ、いや……なんでもない」
「そう?」
目の前でハンバーグをもぐもぐしているのは藍那だ。
今日も俺は藍那と弁当を食べていた。
今日の弁当はどっちも俺の作ってきたものだ。
ハンバーグはもちろん、琴羽に教えてもらったレシピだ。
教室には当然祐介と姫川さんのカップルもいた。
そして琴羽はいない。
「昨日のお笑い番組見た?」
「いや、昨日は心優とバラエティー見てたから見てないな」
「え、もったいない。昨日は特に面白かったのに」
「藍那ってお笑い見るんだな。なんかイメージ湧かないな」
「そう? 全然見るわよ?」
見た目お嬢様っぽいからイメージしづらい。
藍那が一般庶民であることは重々承知しているし、性格的に見そうだとは思えるんだけどな……。
やっぱりどうしても見た目のイメージからお笑いは想像できない。
なんならでっかい庭とかで優雅に紅茶でも飲んでそうだ。
「それよりあんたがバラエティー見てる方が想像できないわよ」
「それは正直自分でも思うわ。なんだろうな。心優に誘われて見てからよく一緒に見るようになったんだよな」
「ホント心優ちゃんと仲良しね? あたしも妹とはよく一緒にテレビ見るけど」
「なんの自慢だよなんの」
前にシスコンだとかなんだとか言われた気がするけど、こいつの方がよっぽどシスコンな気がする。
「妹二人だったよな? テレビ番組取り合ったりとかしないのか?」
「それはないわね」
「そんなもんなのか?」
「どうなのかしらね? うちはみんな見たいものが一致するわよ?」
「へぇ……」
クラスメイトの話の中で、兄弟と見たい番組を取り合ったとかそういうことを聞いたことがあったけど、藍那の家ではないようだ。
「ごちそうさまでした」
話しているうちに藍那は弁当を食べ終えたらしい。
俺の方は結構残っている。
一緒に会話をしていたはずなのになぜ……?
「ちょっと自販機行ってくるわね」
「おー」
そう言うと藍那は席を立って教室を出て行った。
会話する相手がいなくなったので、黙々と弁当を食べ進める。
すぐに弁当は空っぽになった。
弁当を片づけていると、意外な人物に声を掛けられた。
「ねぇ神城くん」
「え?」
声を掛けてきたのは姫川さんだった。
祐介は席を外しているらしい。
それでも俺に声を掛けてくるなんて、一体どういう風の吹き回しだろうか。
「ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いいかな……?」
「頼みたいこと……?」
「うん……」
姫川さんは、なんだかとても言いにくそうにもじもじとしている。
姫川さんから俺に頼み事とは一体なんだろう……?
そういえば、借りたタオルをまだ返していない。
早く返して欲しい……とか?
「お弁当、いつも手作りなんだよね……?」
「え? まぁ妹と交代で作ってるけど、俺の番の時は俺が作ってるぞ?」
「そうなんだ……。じゃあ料理は得意?」
「まぁ……周りに俺より上手いやつが多すぎるけど、その辺のやつよりはできると思うぞ」
「じゃあ、料理……教えてくれない?」
「……はっ!?」
一瞬何を言っているのかわからなかった。
俺が姫川さんに料理を教える? なぜ?
「あ、あのねっ。祐介からよく聞いてて……! 神城くんはお弁当手作りしてるって……!」
「お、おう……」
「そ、それでね? わたし、料理苦手で……。神城くんは、最近藍那さんと食べさせ合ってたでしょ……? 祐介が羨ましそうだったから、お弁当作ってあげたいなって思って……!」
なんて健気な子なんだろうか。
彼氏のために自分が苦手としている料理を作ってあげるために教えて欲しいと。
しかも本人がいないところでこっそりと教えて欲しいと頼んでくるなんて……。
なんて彼氏思いの女の子なんだろうか。
祐介が憎い……。
「でも、なんで俺に……?」
「えっと……その……」
これまた言いづらそうにもじもじとする姫川さん。
とてもおっきな胸の前で指と指をつんつんするその仕草はまさに魔性の女だ。
これはだいたいの男は落ちる。
「藤島さんは最近忙しそうだし……藍那さんは……ちょっと頼みづらくて……」
「あぁ……」
本性を出した藍那は圧があるからな。
言葉遣いとかそういうことを除いて単純になんだかオーラのようなものを感じるのだ。
今までは俺が一身に受けてきたが、今はもう違う。
俺だけが受けていた時よりは優しいにしても、やはり圧を感じる。
今更思ったことだが、心優の友達の
「俺から藍那にも頼んでみようか? 大丈夫そうなら琴羽も」
「え、いいの?」
「もちろん。俺だけと一緒にいるのは嫌だろ?」
「嫌じゃないけど……祐介にちょっと申し訳ないかな……?」
「そうだろ? 頼んでみるよ」
「神城くん……。ありがと……っ」
そう言ってふわっと微笑む姫川さん。
俺はここで一つ決心したことがある。
祐介を殴ろう……。
※※※
とりあえず、土日のどちらかに料理教室を開くという形で話は終わった。
そして放課後、まずは隣を一緒に歩いている藍那に頼んでみることにした。
「藍那、ちょっと頼みたいことがあるんだけどいいか?」
「何よ。急に改まって」
上目遣いでチラリとこちらを見ながら尋ねてくる。
前からかわいらしい仕草をするなと思っていたが、今はそれがもっとかわいらしく見えてしまう。
あんなに言い争っていたのに……。
あ、それは今もか。
「昼休みにさ、姫川さんに料理を教えて欲しいって頼まれてさ」
「料理を?」
「苦手なんだと。で、祐介に料理を作ってあげたいそうだ」
「健気ねぇ……」
「だよな」
俺が思ったことを藍那も思ったようだ。
きっとこの話を聞いた人ならみんなこういう反応をすることだろう。
「でも、残念ながら無理ね」
「え……?」
「悪いけど、妹たちに土日出掛けることを禁じられてるの」
「妹たちに……?」
「か、勘違いしないで。その……あの日、すごく心配かけたから……」
「あぁ……」
そこでわかった。
アクセサリーショップに行った日、あの日は最終的に琴羽の家に泊まっていた。
藍那は母親がいないと聞いている。
妹たちに何も言わずに帰らなかったらさぞ心配したことだろう。
「じゃあ藍那の家はダメなのか……?」
「え、うち?」
目を真ん丸にした藍那は、う~んと考え始めた。
「妹たちが良いって言ったら。姫川さんと康太だけ?」
「琴羽にも頼みたいと思ってて、心優も連れてっていいなら連れていきたいかも」
「それなら問題なさそうね。とりあえず今日聞いてみるわね」
「頼む」
俺たちはそのまま
藍那と隣同士で腰を掛け、一息ついた。
特に話すこともないので、二人とも無言で時は過ぎていく。
ガタンガタンと揺れる電車は、今日も
それにしても藍那の家か。
どんな家なんだろう。
てかそうじゃん。妹いるんじゃん。
やばい、なんだか緊張してきた……。
「なぁ藍那」
「なに?」
「本当に大丈夫なのか……?」
「……何をそんなに心配してるの?」
ま、まぁ行くのは俺だけじゃないしいいのか。
いいのか……? もうわからん。
「いや、いいんだ……。いいならいいんだ……」
「?」
しばらくすると
藍那は
「じゃあまた明日な」
「うん。メッセージ送っとくね」
「頼む」
俺はホームに出た。
なんの代わり映えもしない咲奈駅。
祐介は部活でいないだろうし、ここで降りる生徒は琴羽以外にほかは知らない。
でも、今日は電車から琴羽は降りてこなかった。
これより早い電車に乗れるとはとても思えない。
どこかで寄り道でもしているのか、学校に用事でもあるのか。
それはわからないが、最近は一緒にいる時間がまったくと言っていいほどない。
忙しいんだな、琴羽は。
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