002 確認フェイズ
ふと気が付くと、先ほどいた真っ白な景色とは一変して神々しい光が瞳を突き刺した。
「うおっ」
あまりの眩しさに顔を横に向けて視線を逸らす。段々と視界が回復し、そうして目に入ってきた景色は……
「教会?」
横長の椅子が2列で奥まで並んでおり、最奥は大きな両開きの扉が見えている。となれば、この光はステンドグラスのものだろうか。
ソウは起き上がり、右を見れば巨大なパイプオルガンが鎮座している。うん、間違いなく教会だ。
無人なのはいかがなものかとも思うが、見える限り出口はあの扉だけのようだしある意味親切設計なのかもしれない。位置関係からして俺が寝ているのは祭壇の上か。前言撤回、信者がいなくて正解だ。もしこの光景が見られていたら異教徒扱いされること間違いなしだ。狂信者は何をするか分らんから注意が必要だ。これまでTRPGをしていて、嫌ほど理解させられた。奴らに常識は通用しないのだ。
祭壇から立ち上がり、壇上についている木製の小階段を降りる。ちらりと振り向くと、そこにはステンドグラスを後光代わりに輝く女神像があった。
「なるほど。あなたが神だったか」
その像はアバターを作成する際に登場したガイドさんにそっくりだった。ともなると、メタ推理になるが、俺らプレイヤーは神の使い、もしくは神の造りし者といったところだろうか。宗教がらみは本当に勘弁してほしい。
「名前、聞いておくんだったか」
この世界の神であれば、どこかしらで登場してくるのだ。事前に知っておいて損はないが特に後悔もしていない。
ソウは気持ちを切り替えて、作成した内容を確認する作業に移った。
メニューと念じると先ほどと似たコンソールが視線の先に浮かび上がってくる。コンソールは位置変更ができるらしく、空中でドラックができた。試しに消してもう一度呼び出すと、移動させた位置にリポップしている。
「ほう、便利なものだ」
コンソールにはステータス確認、インベントリ、ヘルプ、ログアウトの四項目が並んでいた。ログアウトは音声入力でも可能だ。
ソウはステータスの欄を選択すると、先ほど作成したステータスが表示された。
・名前:ソウ 種族:ヒューマン 所持金:5000マーニ
・ジョブ:占い師lv1 盗賊lv1
・HP:100 MP:50
・SP0
・STR:10 VIT:10(+3) AGI:30
・DEX:30 LUK:20
・スキル 【未来視】lv1 【回避】lv1
・称号 なし
・加護 創造神の祝福
・武器:水晶玉 なし
・防具:旅立ちセット
スキルはともかく初期から加護が付いているのはデフォなのだろうか? 後で康太郎たちに聞いてみるか。
ビルドはステを弄るだけだったから、とりあえず諸々の確認をしよう。
武器やスキルは表示されている名前をタップすれば詳細を見ることができる。
ソウはそれぞれをタップして効果を確認していった。
HP:Hit Point(ヒットポイント) プレイヤーの体力を表す。何かしらのダメージを受けてこれが0になると死亡扱いとなり、教会へ飛ばされる。
MP:Magic Point スキルの使用時に消費する動力源。
SP:Status Point 様々な要因によって貰えるポイント。5種類の能力値に振り分けることができる。
STR:Sterength 筋力を表す。攻撃力などもこちらを参照。
VIT:Vitality 防御値を表す。
AGI:Agility 素早さを表す。
DEX:Dexterity 器用さを表す。
LUK:Luck 運を表す。
この世界の通貨はマーニらしい。これは単純に数字が大きくなってくるだけで、名称が変わることはないと書かれている。
次にスキルだ。
・【未来視】
MPを10消費することで発動。任意の情報を断片的に知ることができる。スキル使用時に任意のMPを追加で払うことで精度が上昇。
・【回避】
回避時の成功率にlvに応じた上方補正。
ふむ、なんだこのぶっ壊れは。ゲームで先読みができていいのか?
どう考えてもアタリスキルな気がするのだが……。
メインジョブ分スキル取得幅が減るとはいえ、これはひどい。自由にプレイできるMMOだが、これほどのスキルはないだろう。
こうなってくると、他のEXジョブのスキルもたいがいぶっ飛んでいるのかもしれない。
いや、そのようにぶっ壊れであれば話題に上がらないはずはない。何かしら重大なデメリットがあるのだろう。
……スキルの説明文をもう一度読んで考えるか。
数分の間コンソールとにらめっこをしたソウだが、現段階ではアタリの情報を引けば強いという条件付きで運要素の高いスキルだと結論付けた。また、現段階ではあるがMP10というのは非常に重い。成長していけばそれなりに連続して使えるスキルであろうが、序盤の攻略にはなかなか使い辛そうな印象を受けた。
「これは試してみるしかないな」
【未来視】については後で考えるとして、次に【回避】だがこれは読んで字のごとくだろう。補正値がどれほどものなのかはわからないが、有用なスキルであることに違いない。
スキルには2種類存在しているようで、MPを使用する任意型と持っているだけで効果が発動する常在型があるようだ。
なんだが、カードゲーム用語な気がしてきたが気にしない。
次に防具だが、初期装備で頭、胴体、腕、腰、足の5ヶ所に装備されている。それぞれ基本ステはなし。シリーズで統一されているとVITに+3の補正が付くようだ。進めていけば防具それぞれに補正がつくようになるだろう。また、耐久値が設定されており、DV:Durability Valueは100らしい。
武器はインベントリから出し入れが可能で、常に持っている必要はないが、武器スロットに設定しておかなくては取り出すことはできないみたいだ。これは地味に不便かもしれないが、今気にすることではない。
こうしている間にも誰一人この教会に訪ねてこないとなれば、ここはプライベートスペースということなのだろう。誰にも邪魔されることなくステや装備、動作確認ができるということだ。
ソウは試しに水晶玉を取り出してみる。
無色透明の水晶玉が左手に乗った。軽くはあるがきちんと重さが設定されているようだ。腕を振り回してみるとポロッと落ちた。
「落ちるのか」
固定武器というくらいだからどれだけ降っても離れないものと諦めていたのだが、そうではないらしい。
コンソールのヘルプを読んでみると、戦闘などで落とした武器は耐久値がある限り戦場に残り続ける。戦闘フィールドに武器を置いたままフィールド外に出る、または一定の距離を置いた段階でイベントリに送られるとのこと。
つまり、戦闘中に投げて自動で手元に戻ってくることはないのか。換装とか無限武器というロマンはやらせてくれないらしい。これは武器を落としたら致命的じゃないか?
一応、戦闘中にすっぽ抜ける措置は取られているとのことだ。
「チュートリアルくらいありそうなものだが……」
今のところ、そういったイベントが起きていないのはなかなか斬新ではある。
ヘルプで完結なんてことはないことを祈ろうか。
……常在スキルは変化が分からないな。試しにスキルを外してみるか? いや、スキルを使おうにも回避する対象もないし、【未来視】もどのみちしばらく封印だ。
よってソウはVR空間で身体の動かし方に慣れていくことにした。
ステータスを身軽さに寄せた関係で現実よりも移動速度が増していることが確認できたが、自然と適応できている。技術力の賜物だな。
「体感だが、現実より2秒ほど早く動けていそうだ」
ソウはダッシュ&ストップを繰り返しては時折ジャンプしてみたり、屈伸してみたりして人体動作は申し分なく発揮されているのを確認した。
「よし。長くなったが、行くとしますか」
試し終えて満足したソウは扉に向かって歩いていく。
違和感は全くと言っていいほどないのがすばらしい。
両開き扉の前に立ち、両手で取手を握る。
冷やりと金属特有の感触がまたリアルなこと。
扉を引くと、眩い光に包まれてソウの身体は扉の先へと吸い込まれていった。
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