001 キャラ作成

19日。


 講義後、鈴香の家に寄ってお金を渡してVR機材一式を受け取った。


 夕飯の誘いを受けたものの、今回は遠慮させていただいた。一足早く講義を終えている琢磨や康太郎からイベントの詳細がグループチャットに流れてきているが、今はあえて見ない。攻略の楽しみが減る。


 そそくさと家に帰るとあとは寝るだけの状態にまで準備を進めた。


 その間にVR機器にソフトのインストールを済ませておいた。




「よし、行くか」




 VR機器は頭に被るタイプで脳波を測定してリアルな動きを再現しているというものだ。


 頭にセットしてベッドに横たわる。


 しばらくしてログインメッセージと共にセットアップが始まった。タイトルロゴが浮かび、どこか宇宙に吸い込まれているようなエフェクトが発生した。全身に浮遊感が襲い、それに身体が吸い込まれていく。おお、ここまでリアルなのか。そしてたどり着いた先は無機質な立方体の真っ白な空間だった。




「ここは……」




 壁床一面真っ白。試しに壁へと近づくと艶消しがされており、鈍い影が見えているだけ。


 俺自身がどうなっているのか確認すべく視線を己の肉体に向けると俺は浮いていた。手を上げてじっくり見ると、うっすらと透けて向こう側が見えていた。霊体にでもなったのだろうか。


 すると手越しに一人の女性が浮かび上がってきた。


 均整の取れた抜群の身体付きで顔はきつめの釣り目が印象的だが、誰もが納得のいく美人。服は獣の皮を使っているのか現代ではあまり見ることのない質感で、体にフィットしたものを身に纏っている。色は部屋と対照的な黒。きめ細やかで陶磁のような肌が隙間から覗き、シンプルであるがゆえに彼女の美貌を際立たせていた。




『ようこそ。WEOの世界へ。ここでは向こうの世界で生きていくための身体を作成します。トレースが始まりますのでそのままお待ちください』




 言葉に従って待っていると、目の前に3Dプリンタで印刷されているみたいに少しずつ俺の身体が構成されていった。


 数分して俺そっくりのアバターが出現。おお、これは斬新な登場だ。




『お待たせしました。こちらを元にあなたを表現してください』




 ガイドさんの合図で俺の目の前にコンソールが浮かんできた。


 これを操作してキャラを作るわけか。


 実際に動かすわけだから肉体の変更はできないみたいだな。俺は今霊体となっているわけだが、しっかりとコンソールを操作できている。


 身体で変更できるのは髪や肌、瞳の色といった運動操作に干渉しにくい部分のみ。


 名前にあやかって青っぽくしておくか。


 目をスカイブルーに、髪を青に近い紺色にして……肌はそのままでいいか。


 後は名前だが、これはそのままソウと入力する。


 次にジョブの選択。メインサブ共に決めているので、とっとと進める。


 お次は能力値だな。慣れ親しんだ能力値に苦笑しつつ、初期ポイント50をどう振るかだがこれも事前に決めていたのでさっさと振り分けた。


 これでキャラ作成は終わりだった。


 コンソールを閉じた俺に、感情の見えないガイドさんが声をかけてきた。




『……随分と早く終わりましたね。貴方様はβ出身者ではないはずですが』




 蒼はまさかナビゲーションNPCが説明以外で話しかけてくるとは思っていなかったので、反応に遅れた。




「……ああ、ステについてはβ組の友人たちに聞いていたのもあるが、ほかのゲームでも大体同じビルドでやるからな。特に悩むことはなかった」


『そうでございますか。 ……これは私の好奇心ではございますが、そちらのジョブを選択した理由はどのようなものか差し支えなければ教えていただけますでしょうか?』




 運営側としてもEXジョブを選んだのは意外なのだろうか。あれだけネタジョブ扱いされていれば聞きたくもなるか。




「純粋に慣れたビルドに近いからだ。それ以上の理由はないぞ」




 ああ、嘘は言ってない。




『……そうでございますか。失礼いたしました。では、こちらで決定ということよろしいでしょうか?』


「ああ」


『かしこまりました。これより向こう側へとお送りいたします。ソウ様の今後のご活躍を期待しております』




 きれいなお辞儀に見送られて、蒼の意識が遠のいていく。


 その際、わずかに聞こえた声は幻聴だっただろうか? 何か彼女の声が聞こえた気がした。






 蒼の姿が消えたボックスの中で、彼女は初めて静かにほほ笑んだ。




『……占い師ですか。それにサブもあれともなれば、彼は面白い人材になりそうです。早々にこちらでまたお会いすることがないといいですね』




 最近は面白半分でEXを取っては文句たらたらにリビルドしに来る人が後を絶たない。仕様として認めらているし、自分も過去に何度か変えた経験があるので理解しているためこちらから止めることはないが、運営としてはなるべく突き通して欲しいもの。




『向こうで会うことを楽しみにしています』




 今まで蒼がいた虚空に視線を向けながら、彼女はぽつりと呟いたのだった。

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