プロローグ2

 無事講義も終わり、大学内にある共用ラウンジに集まった蒼たちは自前のPCでWEOの公式ページを見ていた。


 とはいえ、この手のHPは大した情報が載っていない。実際のプレイで起こるチュートリアルや常時開けるヘルプによって大体の内容は把握できるためである。

 よって、公式サイトは触りの情報だけが載っている。


「蒼、給料日いつ?」


「うん? 今月は19日だったはずだが?」


「おやまあ、イベント開始日じゃない。やったね」


「そうか。とはいえプレイできるのは引き取った後だから夜だな」




 リリースしてから約1ヶ月。確かに初イベが起こってもおかしくない時期である。とはいえ、蒼はそこから始めるのだからイベントの参加はままならないと思っている。初心者が同時期に1から準備してもイベントに参加出来るのは終盤だろう。




「イベントの内容は?」


「ええと、9日間開催でランダム発生する大型ボスの討伐だってさ。マルチではないみたい」


「てことは自発素材無し?」


「ランダムってんだから多分そうだろうさ」


「エリアはモノシスですね。ボスの発生条件はランダムでモノシスを囲む森のどこかに出現するそうです。レベルは初心者にも手が届くようlv25ほどのようですね。個人戦ですから妥当でしょう」




 鈴香がPCで公式サイトを見ながら説明してくれている。


 モノシスはWEOを始めてまず足をつける街の名前である。


 WEOの世界観は天空に浮かぶ大陸の都市を巡り、キャラクターを強化しながら冒険するという王道RPGもの。シンプルであるものの、売りとしてVRコンテンツ最高峰の操作性とグラフィック。何よりファンタジーをより間近に体験できるという点で、他社のゲームとは一線を画いている。蒼もPVや動画配信などで内容を見ていた。そのスムーズな動きとまるで人間とやり取りをしているかのようなNPC達との会話、景色。リアリティの高さに圧倒させられたものだ。


 鈴香たちの情報によれば、現在第二の街・アジーラが先駆者によって解放されているらしい。モノシスが推奨レベル1~10程度、アジーラは2~30ほどらしい。




「……ちなみに、みんなのレベルは?」


「28」「25」「29」「22」




 左から康太郎、琢磨、啓子、鈴香である。




「さすが、ベーターども」




 そう、彼ら4人はβテスターでもあり、人よりも1ヶ月ほど長くプレイしているのだ。初見に比べシステムに慣れている分、攻略に大きなアドバンテージがある。




「とはいっても、結構変わっていたわよ?」


「ああ。モノシスの街の初期配置すら変更されていたから、なんだかんだスムーズに進んだのはジョブ取って初戦闘するまでくらい。そこからは未知だったし出てきたモンスターも初見が多くてあまり情報の差はないと思うよ」


「βの時は種類が少なかったものね」




 こちとらバイトに時間取られていた関係で大学以外の場であまり会っていないのもあったが……こいつらが廃人もどきなだけか。




「蒼、割と失礼なことを考えていませんか?」


「まさか」


「ダウト」




 なぜ、こいつらは俺のウソを見破れるのだろうか。




「蒼。ジョブ一覧見ながら聞いて。僕らのジョブの話をするけど、僕が魔法師・僧侶、康太郎が剣士・鍛冶師、鈴香が僧侶・調合師、啓子が盗賊・弓士だ」


「基本ジョブ染めで、パーティ構成的にいい感じだな」




 近接、遠距離、回復、偵察兼回避盾。まるで絵にかいたような王道パーティだな。


WEOで初期から選べる職は12もあって先ほど絞ったとは言ったものの正直かなり迷っている。そうなると気になることは……




「一応参考程度に聞くが、外れジョブはあるか?」


「ハズレというか、正確にはよくわからないジョブが複数ある」


「……EXか?」


「そう」




 初期で取れるジョブは基本職と呼ばれる剣士、弓士、魔法師、鍛冶師、盗賊、僧侶、調合師の七種類。これらは順当にレベルを上げていけば二次職に派生すると公式に記載されている。内容はゲームで実際に確かめろとのことだ。そして、先行している琢磨たちの情報では恐らくだがまだ解放されていないか、だれも到達できていないらしい。


 で、問題となるのがEXジョブと呼ばれるもので、β時には無かった新規ジョブ。こちらは派生先が存在しないジョブとなっている。その代わりどのジョブも独自のシステムを内蔵しているのだとか。




「現状サブジョブを一つ選択できるわけだが、このEXは曲者でね。公式サイトに掲載されてないのは意味が分からないけどEXはメインでしか就けないんだ」


「ほう、そうなのか」




また、それぞれ検証数が少なくてどう優位性があるのかがまだ判明していないということらしい。


 メインジョブはプレイヤーのやりたいRPに沿って取ることが基本で、このWEOはジョブごとに使える武器が限定されている。その枷を広くする意味合いを込めてサブジョブを取得することが一般的な回答だとか。また、特化させたいのであれば同じジョブを重ねて取るのもありらしい。そうすると武器の使用できる種類が限定的になる代わりにスキルレベルを上げるための経験値が増えるのだとか。


 そして、EXの考察が進んでいないということは……




「そうなんだよね。現状メインで選択するほどの性能が見いだせていないというのが回答」


「先駆者はいるんだろう?」


「まあ、なんだ。勿論いるにはいるだろうが、俺らの知り合いに取った奴はいないな。EXは全部で5種。道化師、ダンサー、占い師、アイドル、商人。正直冒険が主体のこのゲームにおいて、もはや別ゲーを感じさせるラインナップが拍車をかけて手を出しにくいんだよなぁ……」




 まあ、康太郎の言うこともわかる。なんというか、The・現代職って感じだもんな。WEOの世界観でこのジョブをメインに据えるのは趣味でやる人くらいで、攻略するには不向きな印象があるのも頷ける。




「だからこそEXなのかもしれないが」


「もしかしてさー、蒼。EXも候補に入れてる感じ?」


「……そうだが?」




 まだステを見ていない関係でどれがいいかは不明だが、初手から捨てるという選択肢は持ち合わせていない。




「あまりしたくはないとは思うけど、一度掲示板かwiki覗いてからでもいいと思うよー。一定数は考察組がいるはずだから」


「確かに」


「まあ、蒼のプレイスタイルを考えると無理してみることもない」




 理解のある友人たちでうれしいものだ。ふむ、掲示板か。雰囲気を知るためにちょっとだけ覗いてみることにしよう。


 ネットでEXジョブについて検索をかけてみると、割とヒットした。さすが売り切れ必死の人気コンテンツ。


蒼はいくつかサイトを開いて目を通してみた。




「…………」


「ねえ、みんな。蒼の表情がどんどん歪んでいくんだけど……」


「やっぱ、ネタの域を出ないんじゃないか? もしくは碌な情報がないとか」




 ええい、煩いな。


 とはいえ、先駆者たちの成果から問題点がある程度わかった。


 まずWEOのジョブシステムとして先ほど聞いた通りメインとサブを駆使して戦闘をする。その際、プレイヤーは武器スロットがメインとサブで各一つあるわけだ。メインにEXを置く場合、メインの武器スロットが専用武器で固定される。そう、強制的に装備が決定するわけだ。また、その装備は破壊不能オブジェクトの代わりに強化をすることができず変更もできない。しかも固定1ダメージ。しかも相手によっては攻撃が通らないという固定とは? と疑いたくなる仕様。中には武器ですらないジョブもあるため、サブ武器を中心に育てなくてはどのジョブもろくに戦闘が出来ないみたいだ。モノシスのフィールドで最初に倒す敵すらかなりの時間を奪われるということで、まとめられていた。完全にこの掲示板ではネタ装備扱いで、リビルドする人が続出。専用スレも枯れている有様だった。


 このゲームはサブジョブの育成はメインジョブより多くの経験値が必要とされるようで、初期から苦行の連続。確かに趣味ジョブだ。




「ううむ。確かに不人気の理由はわかったが、少なくともやりこみ前提の玄人向けジョブな気がしてきた」


「そうなのか」




 要は忍耐とやり込み重視のジョブで、ライト層には確かに不向きなのは理解できる。




「ただ、興味は沸いた」


「まじかよ」




 康太郎、その変態を見る目をやめろ。無性に腹立たしい。




「そっかー。すずちゃん、これ決まっちゃったと思うんだけどいかが?」


「同意する。EXのどれかになったわね」


「1/5かあ。どれだろ?」


「おそらくサブも2択だな」




 ロードで言っていた賭けが勃発しているようだが、無視だ無視。俺に害はないはずだから放っておく。飛び火が来たら蹴散らしてやる。




「いい時間ですから、そろそろ帰りましょうか」




 時計を見れば20時を回っている。確かに今日は帰宅だな。


 せっせと帰宅の準備をして一同はラウンジを後にした。


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