雪を溶く熱
それでも、美冬が背中を痛がると、秋人は美冬を抱いたままベッドに移動した。
それから、ひたすらひたすら美冬の身体を掻き抱いた。
美冬の身体は半年ぶりだというのに、あっという間に秋人の総てを飲み込んだ。
美冬のふくらはぎを持ち上げる秋人の骨ばった指が、愛おしむようにして柔らかい肉に食い込む。
肩口に軽く立てらてた歯は、なにかを言いたげだった。
この穿たれる感覚は覚えている。
この体温を、吐く息の温度を、舌の感触を覚えている。
布団にすっぽり包まった、息が詰まりそうなほどのこの熱を、覚えている。
一瞬で半年が、埋まる。
言葉はなかった。
お互いになにも言わなかったし、美冬も何かを話す余裕なんてなかった。
縋りついた秋人の身体は、美冬が知っているとおりに少しだけ体温が低くて、それでも背中にはしっとりと汗をかいていた。
触れている部分が特別に美冬を嬉しい気持ちにさせて、秋人が時おり美冬の顔にかかった髪を摘んで除けるのが美冬は好きだった。
深夜だった時計はいつの間にか午前4時を指すようになり、それでも秋人は未だ美冬を手放さなかった。
カーテンの向こう側はまだ薄暗く、このまま永遠に朝なんて来ないのではないかと美冬は思った。
秋人が、美冬の身体をしっかりと抱きしめたまま動きにくそうに、それでも美冬を揺さぶり続けるから、美冬はもう声も枯れてただただ音にならない呼吸を繰り返した。
外はきっとまだ雪が降っている。
音もなく、美冬の浅い呼吸に合わせるようにして、大きな白玉がふわふわと舞っているに違いない。
地面にいくらもいくらも降り積もって、辺り一面を清潔な色で埋め尽くすだろう。
それでも今は寒さを感じない。
その雪を充分に溶かすほど、美冬の身体は熱かった。
揺さぶられてもう意識がほとんど保てなくなりそうになってきた頃、秋人が、美冬の耳もとで囁いた。
「美冬。今日の、16時10分だ」
美冬はそれがなんの時間なのか分からなくて、尋ねようと思ったのに、もう喉はすっかり美冬の自由にはならなかった。
「ちょっと行ってくる。最後にどうしても、どうしても、やっぱり美冬に触りたかった。気が向いたらちゃんと帰ってくるからさ、それまで絶対に、忘れるなよ」
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