第13話 目指せアイストルスト王国へ

 翌朝、宿にある食堂に降りたらダグラスがもう下に降りて朝食を食べていた。

 私も目の前に座り、給仕に紅茶だけ頼む。


「朝はちゃんと食べていた方が良いぞ」

 ダグラスは、私の方をチラッと見てそう言った。そうして給仕を呼んで何か注文してる。

「なんだか、朝は食欲が無くて……」

 私はそう言ったのに、目の前には私が頼んだ紅茶とパンとオムレツ、焼いた腸詰なんかが乗ったお皿が出された。


「食欲が無いって言ったわよね」

「食べないともたないぞ。それとも、この国でもう一泊するのか?」

 ダグラスにそう言われて、しぶしぶ料理に手を付けた。


 私だって、追放された国の隣国でもたもたする気は無い。

 いつ国王の気が変わって処刑だの言いだすかわからないからだ。

 

 しかも、あの聖女エミリーは日本で自分のせいでクラスメートが自殺したと聞いても、平然としていたらしいから。


 もう少し離れた……例えばそう、アイストルスト王国で国民として認めてもらうとか。

 そうすれば、ルーブルシア王国の国王も、他国民になった私に手が出せなくなる。


 

 それにしてもと、私は思う。ダグラスはこの世界の事に慣れている。

 多分、この世界の人間以上に……。


 ダグラスは、あの光玉とどんな思惑で、どんな取引をしたのだろうか……と。



 高級宿の支払いを全てダグラスがしてしまって、お昼用にパンと干し肉、果物を2人分包んでもらっていた。

「あの、ダグラス? 私の分まで支払わなくても良いのよ? 私もお金持っているし」

 高級宿の食堂の支払いまでしたら、かなり心許なくなるけど。


「気にするな、今までの稼ぎでお前……じゃない、メグを養えるくらいのお金は十分にあるんだから。それより、カバンも買った方がよくないか? 王族用のアイテムボックスから出してるんだろうが、はたから見たら子どもがポケットから出してるように見えるぞ」


 確かに、小銭程度ならおかしくないが、ポケットから服だの食料だの出していたら、『お前はどこのド〇えもんだ』って話になってしまう。この世界で知っている人いないだろうけど。

 私は、肩から斜め掛け出来るタイプのバッグをダグラスから露店で買ってもらっていた。


 そして、その次の国を目指すために、乗合馬車に乗った。

 馬車と言っても、前世の西部劇に出てくるような幌馬車ほろばしゃだ。

 この辺りはルーブルシア王国の周辺と違って、瘴気がほとんど無い。その代わりの様に賊がいるので、お金がない平民が選ぶ幌馬車ほろばしゃに乗る方が安全なんだそうだ。


 お尻が痛い……。

 貴族が乗る馬車も多少揺れるが、荷物を乗せるような馬車の床にそのまま座っているので、でこぼこ道の振動がもろに伝わってきて痛くて涙が出そうになっていた。

 だけど、乗り合っている6人の乗客は何食わぬ顔をして座っている。

 私の目の前にいる子どもなんかは、後ろから見える外の景色を見てはしゃいでいた。


 平民だったら平気なのね、このくらいの事。だったら私も耐えて見せるわ。

 フンスって感じで、気合を入れなおしたら、ひょいっとダグラスの膝に移動させられていた。

「やだ。恥ずかしいからやめてよ、ダグラス。私、平気だから……」

 私はダグラスの膝の上から逃れようと身じろぎをする。

 微笑ましいものを見るような、周りの目にも耐えかねていた。


「目に涙を溜めながら何を言っているんだ。こっちの方が楽だろう?」

 ダグラスが私の言っていることがわからないという感じで言ってくる。

「そうだよ、嬢ちゃん。あんまり我慢していると、降りた時痛くて歩けなくなるよ」

 そう目の前のおじさんも言ってきた。

 子どもだけが、「いいなぁ。僕も抱っこ」と言って母親であろう女性に抱き着いていた。


 ダグラスに抱っこされている私も、あんな風に見えているのだろうか?

 そう思うと、なんだか複雑な思いがする。

 こちらの世界に来て、元夫のダグラスが優しいから余計にそう思うのかもしれない。

 

 何日か、野営したり通過するために入国したりを繰り返して、私の目的の国アイストルスト王国に着いた。

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