第12話 子ども扱いされすぎて、宿すらまともに取れないのですが。

 私は一番近くの宿屋に入った。

「いらっしゃい」

「部屋空いてます? 1人部屋でいいんですけど」

 なんだか、私を見て宿屋の主人は怪訝そうな顔をする。


「お嬢ちゃん、1人かい」

「え? ええ」

「お父さんかお母さんは?」

「いませんが……。ああ、お金の事でしたら、前払いで」

 私は、アイテムボックスからお金を取り出そうとした。

 周りから見たらポケットからお金を出しているように見えるだろうけど。


「お嬢ちゃん。あのね、お金の問題じゃないんだよ。こちとら、ずっとこの場所で宿屋をしていかないとならないんだ。家出した子どもを親の許可もなく泊めたとなるとマズいんだよ」


 子ども? 私が? だいたい、家出って何よ。

「16歳なんですけど」

 16歳でも成人はしてないけど、この世界では男女ともに結婚も認められる歳のはず。


「じゅうろくぅ~? ウソ言っちゃいけないよ。本当に16歳で旅をしてるんだったら、なんらかの身分証明があるだろう?」

 ほら、見せなさいって言ってる。


 でも、当たり前だけど身分を証明できる物なんて持っていない。

「わかりました。けっこうです」

 ふぃっと、私は宿屋を出て行った。

 

 宿屋は、ここだけじゃないし、他をあたろうと思って。




「お嬢ちゃん。悪いこと言わないから、早くお家に帰りなさい」

 そう言って、最後の宿屋も追い出された。


 後は、高級そうな宿屋……かぁ。

 何日か泊まったら、手持ちのお金が尽きてしまいそう。

 ただでさえ、旅人相手の宿屋は普通の宿でも、値段設定が高い。

 冒険主体のゲームなら安い設定の宿もあるんだろうけど。

 どうしよう……もう、夕方になるのに。



「よう、嬢ちゃん。泊まるところ探してるのかい? 俺っちいいとこ知ってるぜ」

 なんか、いかにもチンピラっぽいのが2人で声をかけてきた。


「いえ。けっこうです。当てがありますので……」

 私は、少しずつ距離を取りながら、応答していた。

 この手のやつらは、露骨に逃げたらひっ捕まえて無理やり連れて行こうとする。

 だから、笑顔で後ずさった。


「まぁ、そう言わないで。悪いようにはしないからさぁ」

 そう言って腕を掴まれた。

 やだ、怖い。どうしよう。

 掴まれた腕を必死になって外そうとしてたらいきなり体が宙に浮く。


「きゃ~」 

「……だから、耳元で叫ぶな」

 俵を持つみたいに、肩に担がれた。って、ダグラス?


「なんだ? お前ら」

 ダグラスが、さっきまで私に絡んでいたチンピラをにらみながら言っている。


「い……いや、そこのお嬢ちゃんが、宿が無くて困ってたから」

「そう……だよ。なんだ、連れがいるならいるって」

 ごにょごにょ言いながら、チンピラたちは逃げるように去って行った。


 それを見届けてから、私をゆっくり降ろしてくれる。

 ふぅ~って、ダグラスから、あからさまにため息を吐かれてしまった。


「助けてくれて、ありがとう」

 私は、ペコンとお辞儀して、ダグラスの前から去ろうとした。

「メグ。そっちじゃない、こっち」

 今度はダグラスから手を繋がれ、私が無理だと思っていた高級宿へ連れて行かれる。


「おかえりなさいませ、お客様」

 従業員の女性がにこやかに迎え入れてくれた。

「あら、お連れ様見つかったのですね。良かったこと」

「ああ、すまん。こいつの部屋の鍵を」

「はい。お隣同士で良かったのですよね」

 ダグラスは、女性から渡されたカギをそのまま私に渡してくれた。

「ここなら、女性一人で泊まっても大丈夫だからな。俺は隣の部屋だから、何かあったら呼んでくれ」


 ダグラスは、私の分の部屋も取ってくれていたんだ。

 なら、なんで今朝は居なくなったのだろう。


「それで、買い物は済んだのか?」

「へ?」

「おま……じゃない。メグがさっさといなくなるから、俺がいたら買いにくい物でも買うのかと思って、先に宿を探しに行っていたんだが。露店とかお店を探してもいないから、焦ってたんだぞ」


 そんな事を考えてくれてたんだ。私は、一人分の宿しか探さなかったのに。

 少し自分の行動が恥ずかしくなってしまった。


「ダグラスは、自分の考えをよくしゃべるのね」

 前世では、無口だったのに。だから、何を考えているのかもわからなくて。

「ん? ああ、こちらの男どもはよくしゃべるからな」


 そういえば、乙女ゲームの中のダグラスも口まめに主人公を口説いていたのではないかしら。

 チラッとそんなことが頭をよぎる。


 それにしても私、もしかしたらこの世界ではダグラスがいないと生きていけないのではない?

 そんな疑問を持ちながら、ダグラスが用意してくれた部屋でぐっすり眠るのだった。

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