第14話 アイストルスト王国 女王陛下の通行証

「ほら、着いたよ」

 馬車の御者ぎょしゃをしているおじさんが降りるように促す。


 やっと、目的国アイストルスト王国に到着した。


 私たちが乗った馬車は、立ち寄る国で御者ぎょしゃと護衛役の男性が交代して長距離の定期ルートを回る、前世で言うと高速バスみたいな……ちょっと、違うか……まぁ、そんな感じの馬車だ。

 次の人たちと代わるために御者ぎょしゃと護衛のおじさんたちは門の通用口に入っていってしまった。

 

 ダグラスが身分証明を見せるだけで、子ども扱いの私もそのまま入国できるのだけど、私は門番兵に、以前女王陛下から頂いた通行証ネックレスを首に下げたまま見せた。

 って言うか、この通行証ネックレス首から外せないんだよね。服に隠れるくらい長いのだけれど。


「女王陛下の通行証ネックレス? なんで平民の子どもがそんな物を」

「いや。それよりお城に連絡を……」

 門番兵がバタバタしている。やがて、少し位の高い……多分、隊長クラスの兵が出てきた。

「ちょっと失礼」

 ダグラスが警戒して私を引き寄せたが、隊長の手は私の通行証ネックレスを首からひったくっていた。


 隊長の手から、通行証ネックレスがさぁ~っと消えて、また私の首に戻ってくる。

「失礼しました」

 隊長は、私に向かって最敬礼をしていた。




 私たちは、久しぶりにまともな……王室専用の馬車に乗っている。

 ダグラスの膝に乗らなくても、快適な馬車だ。


 馬車のまま、王宮の敷地内に入っていった。

 どこの国もそうだと思うけど、王宮の敷地内は広い。

 ウサギやシカのような草食動物が放たれ、鳥の羽ばたく音や鳴き声まで聞こえてくる。

 木漏れ日すら幻想的な風景をかもし出し、森の中に迷い込んだ気分になる。

 自然の森と違って、安全で計算された美しい光景なのだけれど。


 そういえば、幼い頃ウイリアム王太子殿下と一緒にルーブルシアの王宮の森で遊んでいて、いつの間にか帰り道が分からなくなったことがあったわね。

 2人で半泣きになっているところに王宮侍女が迎えに来てくれて。

 あの頃は、まだ仲が良かったんだよね。


 そんな事を考えているうちに、王宮の建物が見えてくる。

 王宮の入り口に役人らしき人が、礼を執ったまま立っていた。


「お待ちしておりました。マーガレット・レヴァイン公爵令嬢様、ダグラス・ゲートスケル伯爵閣下」

「ありがとうございます。でも、わたくしは母国ルーブルシア王国から追放され公爵令嬢の身分をはく奪された身。どうか、お顔を上げてくださいませ」

「はっ」

 そう言っても、役人は顔を上げずに私たちをそのまま案内する態勢に入った。

「どうぞ、こちらに……」


 そう言って案内されたのは、謁見の間では無く。

 どう見ても王族方の生活エリア。

 お茶とお菓子の用意がされたサロンに案内されてしまった。


「こちらでしばしお待ちください」

 役人の方は、そう言って下がってしまった。

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