第2話セクシャル・ハラスメントだぞ。

「これ、しまっておけよ」


たかしは、れいこに言う。れいこは、表情を変えずにそれをテーブルのうえでまとめていく。


「あーあ。もったいない」


「は?」


「なに」


「もったいない、ってなにが」


「たかしはいいモデルになれると思うのに…」


「はあ?」


「まあ本人がその気がないなら、わたしだって強要しないよ」


「そんなの、ぜんぜんうれしくない」


「じゃあなんて言われればうれしいの?」


「なに?」


たかしとれいこは、テーブルをはさんで向かい合っていた。れいこはいつのまにかさっきまでのふざけた調子ではなく、たかしの方を真っ直ぐに見つめている。


こんなセリフを、もしかすると付き合っている時にも言われたのかもしれない・・・。たかしはふと思う。けど、面倒くさかった。向かい合ってこられること込みで。たかし達は付き合ってたころは、よく適当な場所で寝たのだが、れいこは蓮とは違って二人きりになってもいつもと変わらない調子だった。けど今でも、たまにその湿った草の上に二人でいる時のような、感触を思い出してしまう。れいこはそれをどう思っているのか、ということと同時にそれはやって来る。

たかしは、いつのまにか立場が変わってしまった同級生の前に居て、何度か味わったあのいたたまれなさを感じていた。満足?そんなこと、あるわけがない。自分が一番、自分に苛々している…けど、蓮が好きなのは本心で、そこから逃げようとしているわけじゃない…

けど、僕らはうまくいかないとたかしは思っていた。二人は、若過ぎる。蓮もきっと、物凄く弱い。


「ほら、また、たかしはわたしに本心を言わないね」


「…」


「怒ったりもしないし」


「…」


「私たち、合わないんだろうね。たかしはきっと、腹が立つんでしょ?わたしみたいなやつ。」


「いや、」


「ふふ・・・逃げ場無くしたみたいな顔しちゃって。


ねえ、どうして本気で怒らないの?」


「怒ってるけど、、」


「ふん。」

れいこは下を向く。

「なんで好きなんだろう?自分のこと好きじゃないやつ。」


「…」


「わたし。いま、たかしのその、困ったような顔も好きだなあと思ってるんだよ。」


「………けど俺は、蓮が」


「はあ。分かってるって!たかしはどうして気付かないのかなあ。皆、そうだよ。自分が良いものいっぱい持っていても、それに気付かないか認めたがらないかで、一度も使わないで皆死んでいく。あれがない、これがない、不満ばかりで、それなのに他人からはよく扱われたい、って。

たかし、たかしはそんな人じゃなくって・・・わたしは・・・」


「皆が皆、れいこみたいな人間じゃないんだよ」


「…皆、そうやっていうけど、だったらわたしが幸せそうに見えてるの?こんなに、足りないものがたくさんあるのに!!」


しーんっ!







「たかし。どうしたの?」


たかしの腕の下で、蓮がたかしを見上げて言う。


「え…?ああ。うん。いや…


なんでも」


たかしにとってはれいこの言いたいことがよく、分からなかった。

・・・たとえば、こんな風に蓮を愛することへの熱意の半分でも、れいこのするように仕事への活力にしていけば良いのかもしれない。

れいこのことは嫌いじゃなかったけれど、異性として向き合って来られるとやはり蓮のことを強く思い出されたから、どうしても拒絶してしまう。

悪いことしたかな…

やっぱり女性に声を上げさせるのは良い気分がしない。


れいこはきっと俺のことを買ってくれていた、ゆいいつの人間だった。けどおれは、それ込みで悔しかった。

ーーれいこが好きになるようじゃだめなんだ。

たかしはその時、何か重要なことにすごく近づいたような気がした。

そうだ、俺は、確かにいつかの時点かられいこのことを憎んでいたと思う。

何故だ?・・・・・

蓮は僕の腕の中で目を閉じて、気持ちよさそうにしている。いつもならそのすべてを感じ取りたいと思っているのに、今日は何だかいつのまにかいってしまってたのである。



そのご、部屋の電気は消され、道路を走り抜ける大型の車の音がときどき響く。そのがらくたばかりの巣みたいな部屋の中二人は眠り込む。


たかしの目の前に、れいこがいる。

これは、たかしの見ている夢だった。


「たかし…たかしといると安心する。」


「そうかな…」


「…」


「…男のひとって、建前ばっかり」

れいこが急に話し始めたので俺は、前の彼氏のことを言っているんだと思った。


「男のひとって、建前があって、見栄があって、正当性があって、それからやっと本音が出てくるよね。けどたかしは最初っから本音しかないから…」


「だから舐められるんだよな…ああ…」


「ま、まあ、そうなんだけど、わたしはそこがいいと思う。」


「そうかな。」俺は一度もよいと思ったことがない。特に男からは大抵、ぼろくそに言われる。


「たかしの写真も、たかしにしか撮れないと思う。…皆、言わないけど、羨ましがってるんだよ。皆がおんなじようなのしかできない中、たかしがひとつ、持ってきて、そしてそれが誰よりも印象に残る…ってわたしは思う。」


「そうかなあ。そんなこと言われたこと一回もない」


「言うわけないじゃん。皆、建前ばっかりのバカだもん」


「おまえ…」



たかしは目を覚まし、ベッドの上でごしごしと目をこする。


たかしの回想。

たかしは、親から数年の猶予ののち事業を継げと言われているが、それに代わる仕事を見つけられたなら、納得がいくのなら継がなくても良いと言われている。モラトリアムであった大学生のころ、たかしがハマっていた集まりは写真を撮ること、それから夢を語ること・・・そんなふうに、「そこにしかない事」をすることだった。まるで夢物語でも見ているかのような。皆、若くて、けれど皆、家庭の事情だったりバイト生活で辛いなか、集まっても話をすることといえば夢の話、それからこれからのことのみ。家のこと、育ちについて口にするものは誰もいない…

いま、たかしはその頃のことを部屋でよく思い出す。そこら中に貼ってある写真は色とりどりで整然としていなく、テーマもなさそうだった。それらはたかしが夢を見ていた頃の名残だ。けれど、それをかたちにすることもないままでいる。いま、連といて、それからもとめているものはそれとよく似た匂いがする。夢。愛。希望。…こんなふうに、夢をたくさん集めて、囲まれて。俺はずっとそういう中に居たい。


皆はいま、何をしているんだろう。単なる現実逃避でしかなく、そのことに薄々気づいてはいる。

れいこのすることに、憧れていたのは何故だったのか?


「たかし、お前は自分というものを一番分かっていない。色々なことをやれ。事業を継ぐことを、型にはめられることを嫌がるのも無理はないが、それはそんなに画一的で、つまらないことじゃない。社会に出るっていうのは…色を塗ったくられることだ。それで、真っ黒になってもいいんだ。………ともかく、何もやらないうちから駄々をこねるのは、ガキと同じだ」


「……」

ぐうの音も出ないたかし。










次の日。外は晴れており、さんさんと陽がそこに差し込んでいる。


リビングにいるのは林、それからたかし。


「たかしさん。わたしもう、家を撮るのはやめました!」


林が、たかしの目前で目を輝かせて言う。


「え?どうして?じゃあ、何を撮るんですか?」


「ええと…それは『わたし』です」


「えっ?」


「えと。わたしを撮ります。わたしがまるっと、写っているだけの動画です」


シーン!


「あの、たかしさんのあの写真、よかったです。丸裸で…ととと。いえ、そのれいこさんの映し方。人って単体だとあんな風に見えるんですね!」


というわけで、ユーチューバーは「ひと」を被写体に撮ることになったわけである。


「けど、そのまんま撮っても面白くないし。」


「じゃあ、君の得意なことは?」


「え?なんもないですよ…」


「例えば、子どものころ絵が得意だったとか」


「そこまで遡ります?」


そこへ連がやってくる。


「ねえ。れいこさんに一度撮ってもらったらよいのじゃない?れいこさん、プロなんだし。やり方とか、被写体の決め方だとか・・・参考になるかもしれない」


「あ、本当。連さん、あったまいー!

・・・けど、こんなこと頼んでもいいのかな。」


「仕方ない。俺が頼んでみるよ。」


「ありがとうございまス!」




ー場面は変わって、撮影中。れいこのスタジオとして使っているのはリビングのとなりにある客間。いろいろなものがあったのを、すべてひとつの戸棚の上に寄せ合わせて置いてある。そこでれいこが真剣な顔でカメラを抱えている。目の前に立っているのは林。ー




「…あの」


「なに?」不機嫌そうなれいこ。けれど、ユーチューバーの林もなかなか良い被写体に見える。そこに真剣な顔をして立つ林はいつもの子供っぽいおどけたしぐさをやめると年齢相応のレディのように見えた。


「あの、最初に会った時に埋めていた、その…あれって、何なんですか?」


「…」


「…」


「知りたい?」


「はい」


「じゃあ、お金払って」


「え」


「個人的なこと知りたいんでしょ。じゃあ、お金払ってって言ってんの」


そうなのである。仕事中のれいこは普段着のいい女風とは違い、まさに鬼…

外面が皆無のれいこにびびる林。



(けっこう、かわいいじゃん。うん。モデル、って、ならされるんでなく、本人がなるって思うとなるのね。いい。いい。)



のってきたれいこ。「ねえ、そこにある◯◯持ってみて」


「こ、これですか…」


近くにあった、正体不明の壺を持ち、ポーズを決める林。


「…」


「うーん、なんかちがうなあ。」


「…あの、動画…(あたしは動画を撮りにきたのだった…いや、これでもまあいいけど)」


「脱いでみる?林ちゃん」


「う…いやです」


「ふふん。まあ、いいわ。これでおっけー。」


「ふう。ありがとうございます。あの、わたしもとりあえず、撮ってもらうだけでなくて探してみます…何かを」


「うん、そうだね。ただ、ずべっと立って撮ってもらうだけだったらリンゴやバナナでも出来るしね。モデルになるって楽しいだけじゃなく、なかなか辛いことでしょう?」


「ええ…(れいこさん…あなたが撮ってるってのもあるけど…)」


「悩まない人、ってつまらないもの。」


「え?」


「ん?だからさ・・・こう。プロから、ただ撮ってもらってるだけで、わあー、きれいきれいって喜んで帰るような人。」


「・・・・・・」


「ああいう人、撮るときはつまらないの。さっさと結婚式場でも行けば、って思っちゃう。」


「は、はあ…」


「だいじょうぶ。林ちゃん、じゅうぶんかわいいわよ」



れいこはそれから、現像する部屋へと向かう。


林はそこに残され、ただ一人でカメラを持ち佇んでいた。

たしかに、数日前までの自分はそうだった。ただ、カメラを抱えて何か面白いものが映ればそれでOKって笑ってるような。そんなインタビュアー根性まるだしで、人んちへ上がってきた頃の自分の顔を思い出し、顔をぶんぶんとふる。

そして、きらりと目が輝く。



一方、たかし。

たかしは一人で自分の部屋にいる。背中をまるめて、ベッドの傍らで何かに見入っている・・・

たかしは、昔の思い出のアルバムを整理している。

ーああ、そうだ。れいこは、すごくすごくすごく強い。自分を持っている。れいこなら、色を塗ったくられても、きっと自分が何色かって言い張るし、それを聞いた皆は納得する。けど、俺は…何色なんだ、俺は…

たかしは一人、自問自答していた。その写真には、ラッパーの服を着たたかし、油絵を描いているたかし、料理をするたかし、山登りをしているたかし、友達と楽しそうに映るいろいろなたかしが居た。


「俺って…自分がないな…」


たかしはとにかく、他人をサポートする能力に長けていたのである・・・!









「っていうか、どうして連さんなんですか?」


目の前の林が、そば粉を打ちながらたかしに問う。


「は?・・・・ていうかこれ、一体何?」


「そば、打ってんです。」


「なぜ・・・?」


うふ!と笑い、そばを打ちつづける林。かわいいが、むかつく。


「そもそもですよ。たしかに蓮さんはかわいいけど、まあ、どこにでもいるかわいさっていう感じ?」


そば粉を顔につけながらそう話す林は、憎たらしいくらい女の子らしい口調で言う。


「ひとの好みだろ」


「んー。でも言われないですか?たかしさんなら引く手あまたじゃないのかな、って何かその、商品価値について言及したくなったんです。わたし」


「失礼な。連だってそれなりに人気あるんだからな。・・・じゃなくて。君に分かって欲しいわけじゃないし」


「うーん、まあ。」


「…」


「けど、なんかもったいない」


「は…」


「ああ、」林は顔を上げて感嘆する。


「れいこさんに撮ってもらった時、不本意ながらキモチイー!って思っちゃった。いつも撮ってばっかなのに、被写体になってみると、なんていうかカメラのレンズがぴっかぴか光ってこっち見ているから、真剣にならざるをえない、というか。れいこさんが怖いっていうのもあるけど・・・」


「…」

一瞬でふさぎこむたかし。・・・今、たかしは入浴をしていたところに不意に来たゴリラから自分の裸体を覗き込まれてしまったかのような気持ちでいたのである。



「写真って丸裸になっちゃいますね。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「正直、わたし自分の顔のこの、笑い方とか、なんていうか眉…?嫌いだったんですよ…だからいつも、化粧でここは特に、ぼやかして…けどれいこさんったらここをズームにして撮るじゃないですか…最初、意地悪だなあと思ったけど、見てみたら、これ」


林が写真をさしだす。


「よかったんです。はだかの自分、人の目で見られてる自分。まあココ、へんって思いますけど。プロのれいこさんに撮ってもらったら、何か知らないけどわたし、もっともっと頑張りたくなりました。」


「ふーん。・・・よかったな。」


「はい」


「…あのさあ」


「はあ?」


「こんなこと、君みたいな人に言うの変だけど。蓮の良いところってさ、多分型にはめないところなんだと思う。…連って、夢がお嫁さんになることらしくて」


「お、お嫁さん・・・っすか」


「うん。そう。蓮は、何もできないんだ」


「…」絶句する林。

(なんじゃ、そりゃ!!単に、マスコット的存在かい!)



「でも連は…いつも俺の帰りを待っていてくれるし…いつも俺のこと見て、笑っててくれるし。」


「それだけ、ですか。…連さんのいいところって。」


「うん、そうだよ。けど、皆それさえも出来ないじゃないか。皆、型にはめて、それからああしろ、こうしろって言ってきて、その実、自分が何かになりたくて仕方ないじゃないか。君みたいに。」


「ひっどー!そんなふうに、わたしのこと見てるんですか?!」


「だって、そうだろ。なんでこんなビデオ、撮らなきゃならないんだよ」

珍しく詰めてくるたかし。言葉自体はきつくても、口調が高校生のようなのでふわふわとしか伝わらないとこがたかしの弱いところである。ただ林も意外に押しには弱いようだ。


「…そ、それは…」


「…」


「カネになるからです」


「本当に?」


「へ?」


「本当に本当に、それだけ?」


「う…」


「だったら、それ。撮ってもいいけどあげるなよ」


「え。」


「料理作るだかなんかよくわからないけど…人んちのこと、勝手に撮って「ネタ」として提供するなよ。人に見せるな。お前が評価、されたくないって言うならYouTubeにあげるな。それとも、どうしてもされたいっていうんなら、仕方ないからあげろよ。けど、それでどうなったのか、俺たちに逐一報告しろよ。それが責任ってもんじゃないのか」


「………」粉に塗れたままの姿で、立ち尽くす林。一体どうしてたかしから唐突に怒られているのかはわからないが、ともかく、自分がこの場所でそれほど受け入れられていない、と言うことはよくわかった。


「すみません…」


「…いや、別に謝って欲しいわけじゃない。…怒ってるわけでもないし」


「一応、たかしさんたちが喜ぶようなこと、を、わたしなりに…その考えたつもりだったんですけど」


「それが?」


「ええ。」


「いったいどうするの?」


「え…

あとでその、茹でて食べようと…」


「は?それで、おいしかったで〜す!みたいな感じでまとめようとしていたの?」

こくり、とうなずく林。それにつられて、引きつって笑うたかし。


ともかく、結論はどうであれ、林なりに真面目に考えたことだったようだ。


「ふうん。まあいいけど…」


ほっとしたようにする林。


「怒ってるわけじゃないんだけど、その、ただ、君みたいなひとってあまり、ここに来ないから。」


「へ。ああ、まあ、そうですよね。YouTuberが自然発生的に湧いて、のこのこと家に入ってくる、なんてこと…」


「うん」


「ごめん、なさい」


「いや、いいよ。れいこがオッケーしちゃったんだし。まああいつ、本当は居候なんだけどさ。…君はさあ、れいこに写真撮ってもらってよかったと思ったんだろ。そういうことなんじゃないの?君がしたいこと」


「え?」


「君は、何かになりたい。それも自分の手でなく、誰かの手で押し上げて欲しい。ちがう?動画を作る人って、僕にはそんなふうに見えてる。」


「誰かの手、で」


「ああ。」


「そんなこと、ありません。わたしはわたしなりに・・・考えました。たしかに、浅はかだったと言われても仕方がないかもしれないけど。それに、その。今は変わっちゃったし」


「ふうーん。」


「けどわたし」


「ん?」


「迷惑をかけてる、って言いたくないんです。もしそうしたら、わたしがここにいる理由、まったくなくなっちゃうもの。わたし、とりあえずやり遂げます。たかしさん、協力してください。」


「う、うん。わかったよ。」


「けど君も、よくわかったろ。れいこっていう人間のこと」


「え?・・・ああ。そうですね・・・変わっている人です。きっと私が何かを言っても、耳を貸さないだろうな。」


林は、テーブルの上に置いてある数枚の写真を眺めている。


「そうだよ。俺はれいこといる間中我慢ばかりしかないよ。俺が、れいこ自身の一部にさせられていくのをひしひしと感じる。」


「一部・・・っスか・・・」


「あいつ、めちゃくちゃ強いだろう。

・・・俺はそういうの嫌なんだよ。疲れる。あいつの言う、『話し合い』なんてワンマンにもう一人がついていく形でしかない。いつもそうだよ。あいつは自分を人に納得させるすべに長けていて、それを仕事の世界でも成功させたからもう何も、得るものなんてないはずじゃないか。・・・なのにどうして俺みたいなやつのところに来るんだよ。その思考回路自体、俺は好かない。

俺は、蓮しか必要ない。


…俺は、蓮と結婚する…そのために、俺はとにかく…」


「・・・・、、」

またまた、絶句する林だった。


(こいつもこいつで、とんでもないお坊ちゃんだわね…)






やはり、たかしの頭の中にあったのはれいこのことだった。


(俺は、れいこには撮られたくない。・・・二度と。

くそっ。俺は、どうして、俺自体の存在が矮小で、それからすることすべてがどこかいまいち情けないんだ…!!!!ウオオオオオオオオ!!(心の叫び))



それを、後ろから見守る林だった。





「あっいい匂い」



蓮がそこへ入ってきて、林が苦笑いで笑む。



「よいしょ!よいしょ!」


誰よりも張り切ってそば粉を打つ、連…

「何も知らない」というのはこうまで無邪気なことだったであろうか…二人はそば粉塗れで立ち尽くし、林は「確かに、わけへだてないってこうだわ。」と内心思うのだった。





けど、まだ一つ問題はあった。

れいこの持ち込んだ「殺人」問題。この事を皆の食卓に持ち出すものは今のところいない。蓮は、罪を隠している(ように見えてる)れいこを気遣って食事当番を毎日買ってでて、れいこはその優しさに甘んじている。たかしはそれを見て、毎日イラつくと言う始末。そこに林が入り込み、蓮とよい友達ぶっているのはいいが、ひそかにたかしとの関係を深読みしては楽しんでいた。


「この二人…」

見た事のないカップルだわ。林は思う。たしかに、たかしさんとれいこさんは、合うわけがないわね。れいこさんくらいの才能があるんだったら、大分枯れてる、地位も名誉もあるおじさんでないと難しいのかもね…蓮さんはかわいいけど、たかしさんも含めて世間知らずって感じ。うーん、なんていうか、年相応でない高校生カップル…いや、犬っころカップル?

林の顔とともに林の内心の声がだだ漏れになっているナレーションであった。



けど何かしら、この不穏な空気…そうだそうだ、埋めてたもの、とか、何か怪しい隠し事の空気…


「よーし!」


林は、一番御しやすそうな蓮に狙いを定め、根掘り葉掘りするためと連れ立って夜の街へ行こう、とひそかに頭の中で計画を立て始めた。





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