第7話現実と虚構
翌朝、金曜日、スマホの通知に気が付いた。
幸いまだ朝五時、一作読むくらいの無駄な時間はある。
その妹からのメッセージに記載されているURLを開いた。
そこには美しい文体で兄妹の愛が描かれていた、書かれていたのは文字でもそれを読んだ途端絵が浮かんだ。
そのくらいには表現力のある作品だったし、それには俺は負けた……と思った。
「おにーちゃーん、朝ご飯ですよー」
これを書いた本人の妹の声がする。
それはどこか遠くから響いているようで……無性に逃げ出したくなった。
重い足を引きずって、ようやく朝食の用意されたテーブルに着く。
目の前にはさっき俺を圧倒した作品の作者が座っているわけで……
「あの……お兄ちゃん……つまんなかったですよね……」
「……」
「……」
「いや、面白かったぞ、俺のほどじゃないがな」
精一杯の虚勢をはって里奈の作品を褒める。
「ホントですか! お兄ちゃんに追いつけるかなあ……」
とっくに追い越してるよ、と言う言葉は飲み込んで朝食を食べた、なんだかその日の朝食は重金属を噛んでいるような味がした。
「いってきまーす」
「いってきます」
足取りも重く登校していった。
あの文章は公開された投稿サイトに載っていてグループトークにリンクが送信された、ということは阿智も由似も見ているわけだ。
俺は正直な感想を言われるのが怖かった。
できることならここから逃げ出したかった。
残念ながらそこから逃げる手段は全く残されていなかった。
阿智が俺たちを見つけこっちに来た。
「おはよー、里奈ちゃん読んだよー。面白かったね!」
「ありがとね、私の心をそのまま突っ込んだんだけどね……意外とお兄ちゃんも面白かったって……」
「だってお兄さんのやつは……ふぐっ」
俺は阿智の口を塞いだ、アレについて内容を知られるわけにはいかない。
「阿智……ないしょだぞ」
コクコクと頷いてから俺は手を離す。
「お兄ちゃんのと比べてどうで……いえなんでもないです! お兄ちゃんの方が面白いに決まってますよね!」
阿智はなんとも言えない顔で頷いていた。
俺には答えは聞かずとも分かっていた、それでも言葉にされなければ……ただそれだけの意味しかなかった。
由似も合流してきた、俺がいるのを見て意図的に妹の作品には触れなかった、果たしてそれが優しさなのかは知らない。
学校で何があったかも何をして過ごしたかもよく覚えていない、とにかくあの圧倒的迫力に自作が負けていることだけを考えていた。
それは発表の場などでは良いわけができないほどの圧倒的差だった。
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