第8話敗北
俺は自宅に帰るとルータの電源を抜いた。
そしてPCをブートし一太郎を開く。
目的の「ヤンデレ妹」を開いてひたすらに編集する。
改稿、編集、校正
そして新しい章を書く、うんざりするほどの文量を書いた。
一日一万字書けといったのは誰だったのだろう?
もはやそんなことも記憶の彼方に飛んでいくほどに書いた。
それでも里奈の書いた一章にすら及ばないのは分かっていた。
ただただ書いていく、時折心が折れそうになったときにオレンジの錠剤をかみ砕いて水で飲み下す。
才能を物量で超える、それだけを目的に周りを見ずに書き続けた。
孤独が部屋を統治していた。
人通りが多くなるとヘッドホンをつけ音量を上げた。
とにかく周りの情報を遮断してキーボードに指を打ち付け続けた。
ただただ平易な文章を量産する。
そこに技巧はなく小学生でも読める優しい言葉で書いていく。
質の低さを量で取り戻す。
悔しいが妹の書いた文章に俺は追いつけない、そこで量を増やして強引に文字数を稼ぐ。
今まで1ページに全部載せていたのをリソースを分割して読みやすくする。
Pythonのコードも少し書き換えユーザビリティも考慮する。
そうやってたくさんの文章と少しのソースコードを書き、それをAWSにデプロイする。
気怠さが少しだけ集中力をそぐけれど、それを理性で抑えて強引に文章を書く。
今日の文字が2万字を超えた頃、俺はベッドに体を投げていた。
後はflaskの再起動を行うだけで現状の変更は反映される。
そのわずかばかりのコマンドを入力するべきか天井を眺めながら悩む。
確かに俺は十分に書いた。
それでも里奈という妹には追いつけない、アイツは妹モノでも人気を出すだろう。
もしもこれだけ書いてデプロイしても反応が無かったら?
それを思うと頭がキリキリと痛む。
俺は卓上のロキソプロフェンを一錠水で飲み込む。
そうしてそれが聞くまで再びベッドで死んだように横になっていた。
もしこれだけして一歩も追いつけなかったら……
そんなぞくりとする想像が頭をよぎり、それは多分現実になるだろうと薄々気付いている。
頭痛が治まってくると不安感も覚悟がついた。
俺はもうどうにでもなれとFTPで今回の修正と文章をアップロードした。
そうして俺は眠気に負けて五感がさび付いていくかのように思考が止まっていった。
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