第29話 銀髪美女と初めての金魚すくい
八月中旬、夏休みも残り二週間となった。暑さも増しより一層夏らしさを感じさせる季節となってきた。
夏といえば、そう、花火大会だ。夏の代名詞と言っても過言ではないくらいの定番イベントだ。
だが、蒼は今まで家族と小さい頃に一度行ったっきりだ。中学校に入学して以降は一度も参加していない。
そして高校二年になった今も花火大会には縁がないと思っていたが、今年は違った。
ベッドに置いてあったスマホが鳴る。
相手は紗雪だった。
「もしもし」
『あ、もしもし蒼君?ちょっとお願いがあって電話かけたんだけど』
お願い?一体なんだ。
「どうしたんだ?」
『明日の花火大会私と一緒に行くのよ』
「……え?俺が?俺なんかが紗雪と花火デート?」
『そういうことよ。拒否権は無いわ。明日夕方の五時、桜峰公園の時計台の下で待ってるから』
紗雪はそう伝えて電話を切った。
中々の強引な誘いだった為、蒼は状況をまだ理解しきれていなかったが、紗雪といると度々同じような事が起きていた為、すぐに状況を呑み込んだ。
蒼にとっては約五年ぶりの花火大会だ。明日に備えて蒼は十分な睡眠をとった。
翌日、花火大会当日だ。
蒼は紗雪の隣に立つに相応しくなるよう、アイロンをかけてセンター分けにしっかりとセットし服装は浴衣でビシッと決めた。
一体紗雪の浴衣姿はどのようなものなのか、蒼は心底楽しみに胸を高鳴らせていた。
集合時間の五時を迎える十分前に蒼は桜峰公園の時計台の下に着いた。
約三分程待っていると、蒼の元に紗雪が来た。
「だーれだ」
蒼は後ろから目を抑えられる。その綺麗で透明感のある声が何者かを知らせている。
「ちょ、あぶ、危ない!紗雪だろ?」
「せいかーい」
被せられていた手が離れると、蒼の視界には今まで見た事のないくらい綺麗な女性の姿が映った。
「ど、どう……かな。あまり上手に髪の
紗雪の照れ具合に促されるように蒼も顔を真っ赤に染めて照れくさそうになる。
「いや、すごい似合ってるよ。めちゃめちゃ……綺麗だ、うん」
すると紗雪はパァーッと分かりやすく笑顔になる。
「本当かしら?ま、まぁ私の浴衣姿を見て虜にならない男なんてこの世には存在しないから当たり前の感想よね!うんうん」
褒められた紗雪はすぐに調子に乗る癖がある為、案の定今回もその癖が出ている。実際、紗雪の浴衣姿を見て虜にならない男はいないだろうと思われる。
至ってシンプルな白をベースとした水玉の模様が添えてある涼しさを感じさせるような浴衣と、蝶々の髪留めで髪の毛を上手く纏めている。
まるでアニメに出てくるような浴衣美人だ。私服や制服でもとてつもない可愛さを放つ紗雪が、浴衣を身につけたら可愛いことは言わずとも分かるだろう。だが想像以上に美しく蒼は見惚れていた。
「蒼……君?」
「あ、あぁ。んじゃ行くか」
そして二人は歩いて花火大会会場へと向かう。
会場に着くと、すっかり賑やかになっていた。お祭りならではの雰囲気を約五年ぶりに感じた蒼はこの感触に懐かしさを覚えていた。
「すごい盛り上がってるわね。私、こうしてお祭りに来たのって五年ぶりくらいなのよね」
奇遇にも紗雪も蒼と同じくらい祭りに参戦していなかったらしい。
「へぇ。俺もそのくらいぶりなんだよね。いやー、暑いな」
そう、人も多く活気に満ち溢れている為会場はかなり暑い。浴衣ではなく私服を着てきていたらさぞ暑かっただろう。
「蒼君も浴衣、似合ってるわよ。すごい……カッコイイわ」
紗雪からカッコイイと言われると妙に気恥しい。蒼と紗雪は顔を赤らめながら見つめ合う。
「そ、そうか。浴衣着るのは初めてだから嬉しいよ。これは従兄弟がくれたやつなんだ」
蒼の浴衣も至ってシンプルなグレーをベースとした物だ。髪もずっと前紗雪に褒められたセンター分けにセットした為、この日も紗雪に褒められた。
そして屋台を見て回っていると紗雪はあるものに興味を示す。
「蒼君!私あれやりたいわ!金魚すくい!」
金魚すくいをこんなにやりたそうにするとは、可愛らしいにも程がある。
蒼の奢りで金魚すくいを始める紗雪。だが開始早々ポイの真ん中に大きな穴が空き、悔しそうに手をじたばたさせる。悔しがってる顔もとても可愛らしかった。
「貸してみな。金魚すくいにはコツがあるんだ」
「え、でも、これはもう穴が……」
蒼は穴の空いたポイを紗雪から受け取り金魚をよく観察する。
そしてタイミングを見計らい、ここぞとばかりの所で蒼は金魚をすくいカップに入れる。
「おぉ!す、すごい……。こんなに大きな穴が空いているのにどうして?」
「ふっふっふー、陰キャにはこういう特技が付き物なんだ。金魚すくいは真ん中の方ですくうより端の方ですくうのがコツなんだ。そうすることによって水の圧を最小限に抑えられるんだ。それに端の方が固くて頑丈だからね」
紗雪は蒼の金魚すくい解説に目を丸くするばかりだった。
「す、すごいわね。まさかこんな特技があったなんてね」
「あれ?なんか若干引いてない?」
紗雪は蒼の発言にクスクスと可愛らしく微笑む。
――バンッ!!!!バンッ!!バババババッ!!
遠くの方が何やら騒がしい音を立てている。
「た〜まや〜」
そこに映ったのは、今までとは比べ物にならないくらい大きく美しい炎の花が夜空に咲き誇っていた。
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