第30話 銀髪美女と花火、そして募る思い

 激しい重音と共に夜空に鮮やかな火の花が満遍まんべんなく咲き誇っている。

 そんな美しい花火に蒼と紗雪は勿論のこと、他の人達も花火に夢中になっていた。


 先程までぞろぞろと動いていた大蛇のような人集りが一瞬で止まった。


「ママー!見て見て!花火だよ花火!」

「……綺麗」


 子供達は花火に大喜びだ。何と微笑ましい光景だろう。


 ふと横を見ると紗雪も花火の虜になっていた。その時の横顔は花火の光に照らされて一層に紗雪の美しさが鮮明に露わにされていた。

 『花火+美女=最高』の公式が蒼の中で構成されていた。


「綺麗ね……。私こんな近くで花火見るのって本当に久しぶりなのよ。五年ぶりくらいかな?」


「同じだ。俺も小学六年生の時以来なんだ、こうして花火大会に来て花火を近くで見るの」


 しみじみと夏祭りにいつぶりかという話をしている途中も、花火は次々と打ち上げられていた。


「そうなのね。でも、やっぱりこうして間近に見ると圧巻ね。迫力と美しさがテレビで見たりするよりも圧倒的」


「そうだな。俺も毎回家から見てたけど、全然違うな。今まで花火大会に参加するっていう概念が無かったけど、今こうして参加して思ったよ。……花火ってすごく綺麗だな」


 蒼は心底花火の美しさに惚れていた。


「えぇ、私も蒼君と同感。とても綺麗だわ」


 そんな花火に夢中になっていると花火もそろそろフィナーレを迎えようとしていた。


 フィナーレに近づくにつれて花火の数は増えていき、夜空に満遍なく咲き誇り夜の時間帯とは思えないくらい明るくなっている。


 特に見物は枝垂しだれ桜と呼ばれる花火だ。

 特大サイズの花火であり、一番綺麗だと賞賛されている。

 夜空に打ち上げられた後、そこに打ち上げられた火花一つ一つがまるで流星の如く地上に降り注ぐように綺麗に散らばっている形が『枝垂れ桜』に似ていた為そのような名が付いたのだ。


「あ!枝垂れ桜よ!すごい……どの花火も綺麗だけど、これだけは桁違いで綺麗だわ。なんだか、見ていると心が浄化される感じがする」


「質が違うな。噂には聞いていたけど、実際間近で見ると半端ないな」


 言ったように、枝垂れ桜はどの花火よりも桁違いで美しかった。その美しさは二人の目にしっかりと焼き付かれた。


 そしていよいよフィナーレ。この夏休みのイベントもこの花火大会で最後だ。


 蒼は花火に夢中になって感動している紗雪の横顔をずっと見ていた。


 蒼は紗雪と出逢ってから人生が変わったと言っても過言ではないくらい影響された。全く異性に対して興味を持たなかった蒼が紗雪には何度も翻弄ほんろうされつつも、紗雪の魅力の虜になっていた。一体何度心臓をえぐられるようなことをされたか。


 そして何故か紗雪とは最初会った時初対面な気がしなかった。それは蒼が見た夢があるからだ。クラス発表当日の夢。夢の中で転校生である白崎紗雪と出逢う。これは何らかの蒼に対するメッセージだったのだろうか。

 蒼はそんな事をしみじみと思いながら紗雪から目を離さなかった。


 そして紗雪は最初から今までずっと一緒にいてくれた。気づいたら傍に居てくれたのだ。今まで蒼の傍に居続けてくれたのは蒼汰のみだった。蒼の性格上人付き合いが苦手な為、傍に居てくれる人はごく数人に限られていた。そうは言っても蒼汰だけだ。

 なのに紗雪はずっと蒼の傍に居た。偶然喫茶店であったり、誕生日を一緒に祝ったり、デートに行ったり、泊まりをしたり、出逢ってまだ半年だと言うのに思い出が積もっていた。

 そしていつの間にか紗雪が傍に居てくれるのが当たり前だと蒼は感じていたのかもしれない。それはいつからだ?今もか?うん、きっと今も思っている。そしてこれからも、ずっと思っているだろう。


 そして、最後の花火が打ち上げられた。

 名残惜しい音を後に、夜空に輝く光はやがて散っていった。


「紗雪……」


「……ん?何?」


「俺さ、恥ずかしくて今まで言えなかったけど、紗雪には感謝している」


 あれ?おかしい、何言っているんだ俺。口が勝手に――


「私もあなたには感謝しているわよ」


 紗雪は柔らかい笑顔で言う。そんな顔されたら、余計に感情が――


「いつも気づいたら傍に居てくれたり、いつも笑ってくれたり……気づいたら紗雪が傍に居てくれて当たり前だって思ってたんだ」


 紗雪は少し目を見開いている。


「俺の人生を変えてくれたと言ってもいい……そのくらい紗雪は俺に色々なものを与えてくれた。今まで異性に対してときめいたこと等なかった。でも、紗雪は違った。いつも小馬鹿にして俺の困ってる顔を見ては笑ってるけど、そんなことも俺にとってはいつの間にか嬉しいことになっていた。紗雪が小馬鹿にしてくることを心地よく思ってたんだ。ハハ、気持ち悪いだろ。でも、それが本音なんだ。そして俺も沙雪を笑わせてあげたい。今日も、これからも、ずっと」


 蒼の口は止まる気配がない。みるみるうちに思っていたことが口に出てしまう。止められない。


「だから、これからもずっと……俺の傍にいて欲しい」


 静寂な夜に一変した空に、一人の男性の一筋な思いが響き渡った。

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