第27話 銀髪美女と水族館デート(後編)

 紗雪は大きく綺麗な瞳を見開いて目を輝かやかせている。いつも大人っぽく律儀な紗雪だが、水族館での紗雪はまるで小さな子供のようだ。


 蒼の腕を引っ張りながらまず最初に向かったのはチンアナゴのコーナーだ。チンアナゴは穴からひょこひょこと顔を出していて何とも可愛らしい。


「んー!可愛いチンアナゴ!蒼君、見て見て!ほら!もう一匹顔を出した!」


 興奮を抑えきれていない様子だ。紗雪は毎回蒼と出掛けると無邪気な子供の様な姿を露わにする。やはりそれなりに信用されている証拠なのだろうか。

 確かに、普段の紗雪を見ているとこのような姿は見せていない。


「本当だ、可愛いな。何だか見てると勝手に顔がにやけちまうな」


「そうよね!蒼君にしては分かってるじゃない」


 紗雪は何故か上から目線で蒼を讃える。

 

 そして次に向かった所は熱帯魚コーナーだ。可愛くて小さな魚達がたくさんいる。これには勿論、紗雪は目を輝かせている。紗雪は可愛いモノには目が無いということがハッキリわかった。


「紗雪って、案外可愛いモノ好きなんだな」


 蒼の発言に対して紗雪は少し眉をひそめて頬を膨らませて言う。


「私だって女の子なのよ?可愛いモノは好きよ、失礼ね蒼君」


 ぷいっとそっぽを向いた紗雪に蒼はごめんごめんと一言掛ける。


「一体私をなんだと思っていたのよ」


「ただ単に人を小馬鹿にして、困った顔を見て笑う圧倒的小悪魔……いや、もう悪魔と言ってもいいな。『小』を付けると可愛らしくてダメだ」


 すると紗雪は紗雪スマイルを浮かべながら言う。


「それは仕方の無いことよ……だって、蒼君が面白いのが悪いのよ。私は悪くないわ。それに私……蒼君にしかこういう態度とらないし……」


 紗雪は少し照れた表情を浮かべて、目を逸らし直ぐにディズニーで有名なニモこと、クラウンフィッシュに目を向ける。


「……っ!……悪魔じゃなくて、『小』を付けて小悪魔にしておく」


 蒼も紗雪の可愛さに魅了され、照れ臭そうに鼻をポリポリと掻く。


 そして熱帯魚コーナーには40分程滞在し、次のコーナーへ向かおうとする。


「満足出来た?次行こうか?」


「えぇ、十分満足できたわ。次行きましょ!」


 本当に今日は目を輝かせてまんまだ。そんなに水族館のプレゼントが嬉しかったのかなと蒼も少し嬉しい気分になる。


「次はどこに行くんだ?」


「そうね……あ!お昼にしましょうか。もう時間もいい頃だし」


「そうだな、飯にするか」


 二人は水族館の外に並んであるレストランに入った。

 この日の昼ご飯は二人共うどんだ。アクアパラダイスのうどんには可愛らしい魚達の形をした蒲鉾かまぼこ等が入っている。俗にいうインスタ映えというやつだろうか。

 うどんはもちもちしていて味もしっかり付いていた為美味しく食べることが出来た。


 時刻は一時半。二時からイルカショーがある為二人はイルカショーが行われる会場へと向かう。


 会場に着くと、人だかりだ。そしてカップルがちらほらと目に入ってくる。


 そして蒼達はカップル席と書かれた所に向かった。すると周りの男達がこちらをずっと見ている。それはそうだ。ここには誰がどう見ても可愛い白崎沙雪がいるのだ。綺麗な銀髪と蒼色の瞳、整った顔立ちをした完璧美少女白崎沙雪は毎回注目をされる。思わず彼女連れの彼氏も見惚れている。


「ちょっと、あなた何であの子見てそんな気持ち悪い顔してるのよ」

「え、あれ彼氏、だよな?カップル席に向かってるし」


 周りからは沙雪に見惚れている彼氏を叱る彼女の声やこんな美少女と物静かそうな男とでは釣り合わないだろうと思われているような声が聞こえてくる。

 その通りだ。二人は付き合ってはいないのだから。


 そしたイルカショーが開演した。飼育員の指示に従っている形は口先でボールを回したり、リフティングの様な事をしている。


「おぉ!すごいすごい!見て見て蒼君!蒼君よりボールのあつかい上手よ!」


「本当だな、俺より全然上手い」


 イルカショーでも興奮しっぱなしの沙雪は本当に可愛らしい。


 その後もイルカ達は輪の中をジャンプで通り抜けたり飼育員とのコント等を披露して会場を盛り上げる。


 そしてイルカショーもいよいよフィナーレ。最後はこの暑い夏にぴったり、イルカ達からのプレゼントで水をぶっかけられるそうだ。それを聞いた瞬間蒼は焦る。


「まじかよ……俺着替え持ってきてないな。沙雪は?」


「ん?勿論持ってきてないわ。でもいいじゃない!びしょびしょに濡れて涼しくなれるし、これもこれでいい思い出になりそうだわ」


 沙雪がそこまで言うなら仕方ないと思った蒼も潔くずぶ濡れになろうと決心する。


 そしてイルカ達は勢いよく跳ね上がり観客席に座る人達に思い切り水を掛ける。


「きゃー!冷たーい!」

「さいっこう!!」


 皆大騒ぎだ。


「うわっ!冷てっ!」


 蒼も思わず楽しそうに笑っている。


「きゃー!!気持ちい!蒼君!最高に最高よ!」


「最高に最高って、一体どんだけ楽しいんだよ」


 二人は楽しそうに会話を弾ませる。イルカ達も鳴き声を上げて嬉しそうだ。


 そしてイルカショーが終わり少し冷静になった蒼が沙雪に目を向ける。


「うっ!!さ、沙雪!ふ、ふふ、服!」


 沙雪は不思議そうに首を傾けて自分の服に目を向けると顔を赤らめるが、すぐに沙雪スマイルを浮かべて目を隠す蒼を下から覗き込む。


「あら……?もしかして蒼君、私の下着が透けてて目のやり場に困ってるのかしら?」


「そりゃそうだろ!い、いくら俺の前だからと言って、俺は男だぞ!?こんな光景を前にしたら、流石に……」


 その時、沙雪は蒼の言葉を遮るようにして蒼の胸に顔を埋めて抱きついてくる。


「蒼君になら見られても平気よ……。でも、他の男性からは見られたくない……。だから、隠れさせてよね……。は、恥ずかしいから……」


 その瞬間、水でずぶ濡れになって涼しかった身体が一気に体温を上げて暑くなるのを感じる。それと同時に、蒼の心拍数は激しさを増している。沙雪に聞こえているのではと思うくらい高鳴っている。


「ちょ、さ、沙雪……」


「ありがとう、蒼君……。私、今まで友達からの誕生日プレゼントでこんなにも充実したことが無かったからすごく嬉しい……。今までで一番、いや、これからの人生の中でも一番かもしれない。本当にありがとう。蒼君と水族館に行けて良かったわ」


 二人は照れ臭そう顔を赤らめる。蒼もまさかここまで楽しんでくれるとは思ってもいなかった為、内心喜びで満たされていた。


「そっか……。俺もここまで楽しんでくれて嬉しいよ。ありがとう、沙雪」


 蒼は抱きついている沙雪の背中に自然にそっと手を回し抱きしめる。


 そのハグは心も体も落ち着くくらい心地の良い時間だった。紗雪の体の温もりが、この日の水族館を心の底から楽しんだことを現していた。

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