第26話 銀髪美女と水族館デート(前編)
月日は瞬く間に流れ夏休みに突入した。蒼はエアコンの効いた部屋でアイスを食べながら憂鬱な時を過ごしている。
すると突然蒼のスマホが鳴り、目を通してみると沙雪からの着信であった。残ったアイスを二口で食べるとすぐさま電話に出た。
『もう、やっと出たわね。何かエッチなことでもしていたのかしら?』
「し、してないわ。んで、どうしたんだ?」
『ふーん、そっかぁ。そうそう、この前蒼君私に誕生日プレゼントで水族館のチケットくれたじゃない?』
「あぁ、あげたな。何か不満があったのか」?
『不満って……鈍感なんだから。だから、私と行かない?』
一瞬耳を疑った。
「俺が!?別に俺に貰ったからって気遣わなくていいんだぞ?行きたい人と行けって言ったし、沙雪の自由にしていいんだぞ?」
『蒼君……あなた、鈍感にも程があると思うわ。蒼君と行きたいから誘ってるんじゃない』
ん?俺と行きたいから俺を誘った?
「え……俺となんかでいいの?折角なら友達と……」
紗雪は蒼の言葉を遮るようにして言う。
「しつこいわよ。私は蒼君と行きたいのっ!行きたい人を誘ってるんだから私と行くのよ!」
電話越しでも紗雪が可愛らしく頬を膨らませて機嫌を損ねているのが分かる。
「じゃ、じゃあ、俺でいいなら行こうか……」
「行きましょ!」
すっかり気分は不機嫌から上機嫌に戻ったようだ。
「じゃあ、明日行きましょうね!それじゃ、おやすみ!」
急遽明日水族館に行くことになった蒼は急いで風呂に入って明日の用意をして、すぐさまベッドに入って眠りについた。
水族館当日、この日の天気は雲一つない快晴に恵まれお出かけ日和だ。蝉の鳴き声が街中に響き渡り夏の雰囲気を一掃に高めている。気温も三十三度と暑い気候だ。水族館は涼しい為、最高の一言に限るだろう。
この日は九時に桜花駅に集合の約束をしている。蒼は十分前の八時五十分に桜花駅に着いた。すると驚くことに、前回のデートで大遅刻をした紗雪が先に駅のホームに据わっていたのだ。
「おはよう蒼君」
「おはよう紗雪、結構早いな。確か集合は九時だよな?」
「うん。でも蒼君と二回目のデートできるのが楽しみで仕方なくて、八時にはここに来ていたわ」
紗雪は可愛らしい満面の笑みを見せている。一時間前に集合するとは、余程楽しみだったのだろうか。
「前回とは真逆の時間で集合していたんだな。それじゃもうそろそろ電車も来るし行こうか」
紗雪はこくんと頷くと蒼の腕に勢いよくしがみついてきた。これには蒼も驚く一方だ。
「な、なな、紗雪、どうした!?」
「今日は私の誕生日プレゼントでしょっ!だから私のやりたいようにやらせてもらうわ」
こうも言われてしまえば何も言い返すことは出来ない。紗雪への誕生日プレゼントの水族館なので仕方ないかと蒼は紗雪の無茶振り等に付き合うことを決心した。
「分かった。今日は俺から紗雪への誕生日プレゼントだ。思う存分付き合ってやる!」
沙雪は「やったー!」と言わんばかりの顔で腕を強く抱きしめる。腕に柔らくて気持ちいいモノが当たっているということは言わないでおこう。
電車に乗り座席を確保して座ると、発車して十五分後には沙雪は蒼の肩に頭を乗せて眠りについていた。
沙雪の寝顔をこんなにも近距離で見たのは初めてだった蒼は顔を赤くして息を呑み込んだ。長い睫毛がより強調されて沙雪の美形をより一層際立てている。そして寝顔は子犬の様に目がたらんとしていて可愛らしいモノだった。
電車の振動で揺れる度にプニプニの餅の様な頬の感触が伝わってくる。
「……蒼君のバカ……。なぁに?蒼君……私とチューしたいの?」
一体どんな夢を見ているんだと思いながらも、蒼は頬を軽く染める。
水族館『アクアパラダイス』には電車で一時間程で着いた。
蒼は沙雪の肩を揺らして起こす。
「沙雪、沙雪、着いたぞ。おーい」
三回程呼ぶとようやく目を覚ました。
「……ん……んん……着いた……?……おぉ、おぉ!着いたわよ、蒼君!」
「だから起こしたんだよ」
アクアパラダイスの建物を見た瞬間、眠気に覆われていた顔が一瞬で晴れて一気にテンションが高くなった。一人でテンションゼロ百パーゲームをやっているみたいだ。
蒼は沙雪に引っ張られてダッシュでゲートに向かい、チケットを係員に渡した。
「二名様でお間違いありませんね?お魚さんたちと夢の時間をお過ごしくださいませ~!あっ、お二人はカップル……ですか?」
「あ、いえ……」
「はい、カップルです!彼が付き合った記念にって私にここの水族館のチケットをプレゼントしてくれたんです!」
沙雪は躊躇なく、二人はカップルだと係員に伝えた。
「そうですよね!余計なことをお聞きしてしまい申し訳ございませんでした!えっと、カップルであればこちらの『イルカショーカップル特別招待券』という物をお配りしているので是非、可愛らしいイルカ達と共に、楽しい時間をお過ごしください!それでは、いってらっしゃい~!」
手を振ってくれた係員に蒼は軽くお辞儀をして、沙雪は手を振り返してゲートを潜った。
「それじゃあ蒼君、いーっぱい楽しむわよ!」
「おう!」
テンションが完全に高まった沙雪の後に続いて、蒼も沙雪の横に並んで歩きだす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます