第22話 中間テスト前日
紗雪の誕生日から約三週間が経った今日この頃。いよいよ中間テスト前日だ。
蒼と沙雪はしっかりと一緒に勉強をしてきた。しかし、驚くことに沙雪の英語センスが中々壊滅的だったという衝撃の事実を蒼は知った。
確かに、今までの授業を振り返ると英語の時が一番寝ている頻度が多かった。
二日前に事件は起きた。
例えば、『meet 』この単語の意味は『 会う』だ。だが紗雪はこれを『肉 』と訳した。確かに肉もミートだが、それは『 meat』の方だ。まだこれは可愛らしい間違いの範囲内に収まるだろう。
蒼が一番衝撃を受けたのは単語の読み方を教えている時だ。
『 cross』この読み方はクローズだ。横切るという意味を持った単語だ。
しかし紗雪はとんでもない読み間違いをしたのだ。
「『cross 』、これはどう読む?」
「コロース」
蒼は思わず聞き返す。
「コ、コロース…?」
「え…私、間違ってたかしら?」
そう…紗雪は英語の単語の読み方を教えている時にいきなり殺害宣言をしたのだ。
これは可愛らしい間違いの範囲内には収まらないだろう。
そのまま間違った読み方をしていると今後が心配な為、蒼はしっかりと正しい読み方を教えた。
紗雪は正しい読み方を教わると、顔を恥ずかしそうに赤らめていた。
うん、なんというギャップ萌えだ、可愛い。
そして今日、中間テスト前日。この日は蒼の家で二人きりの勉強会。男女二人が同じ家の同じ部屋でというのは全男子の夢の様なシチュエーションだろう。
二人が中村家に着くと、真弓(久しぶりの登場蒼ママ)が元気よく出迎える。以前紗雪が初めて蒼の家に来た時を思い出す。
「いらっしゃい沙雪ちゃん!久しぶりね〜」
「お久しぶりです、真弓さん!蒼君にはテスト勉強を教えてもらって助かってます」
やはりこの二人は仲が良い。
「蒼なんかで大丈夫なの?この子ったら無愛想だから勉強教わる時に変なこと言われたりしてない?」
「母さん、余計なお世話だ」
紗雪は中村親子の会話を聞いて笑っている。
「いえいえ、蒼君教えるの凄く上手ですよ。隅々まで丁寧に教えてくれるんです、あんなことやこんなことも…」
「あ……あんなことや…こ……こんなこと…おぉ!?」
蒼はすかさず変な誤解を生まないよう真弓に言い聞かせる。
そして紗雪は大成功といった様な笑みを浮かべながらこちらにピースをしている。
二人は蒼の部屋に入り明日のテストに向けての勉強に取り掛かろうとする。
「沙雪ちゃん、今日はテストに向けて思う存分勉強していってね」
そう言って真弓はお茶菓子を取りにリビングへ向かった。
沙雪は友達の家で勉強してご飯も食べてくると親に連絡したらしい。長時間居続ける気満々だ。
二人はカバンから教材と筆箱を取り出す。一日目のテストは数学IA、社会、英語の三つだ。
初っ端から中々ハードな教科が並び、中には紗雪の一番苦手な英語もある。
まず初めに数学IAの勉強から始める。蒼の勉強スタイルは一日目前はガッツリやらない系だ。何故なら一日前にガッツリ勉強をして徹夜をすると、次の日のテストに影響が出るし効率が悪い勉強スタイルだ。
そのため、蒼はテスト前日になるまでにテスト範囲の所で自分が苦手な所をしっかりと復習して、前日には軽く苦手な所の最終確認をするという形だ。紗雪にもこういったスタイルを教えた。
「紗雪がやっぱりここ苦手だなって思う所はどの問題だった?」
蒼が問いかける。
「うーん、やっぱり応用問題かしら。基礎は公式大体覚えたかはできるんだけど、応用は式を何個か作って手順に添って解いていくから苦手だわ」
応用問題は多くの人が苦手とする所だ。テスト問題の残り三つは大体応用が出題される。
応用問題は皆捨てがちだが、だからこそ解けるようになると上位を狙えるのだ。
一見難しそうだが、実際理解するとそうでもないのだ。式を幾つか立てながら計算していくが、実際の所、その式一つ一つは基礎と同じレベルの式なのだ。テストでは教科書より難しい問題は絶対に出ないため、よく問題を読んで基礎を組み立てて落ち着いてとけば案外簡単に解けるのだ。
蒼は『 これでカンペキ数学マスターIA』という問題集の応用問題の例題を丁寧に説明した。
「意外と簡単なのね、蒼君を慌てさせるくらい簡単だわ」
そこまで
「結局基礎を組み立てれば解けるから案外簡単なんだよ」
「へぇ〜、ありがとう!これで数学は行けるわ」
数学は四十分程度で終え、次は社会だ。
社会は完全に暗記すれば点数は取れるので、お互いに問題を出し合うことにした。図書館で黙々と暗記した成果を二人は魅せようと心掛ける。
まずは紗雪からの問題だ。
「ペリーは黒船に乗っていつ、どこに来航したでしょう」
「一八五三年に浦賀に来航した」
「正解!じゃあご褒美として私から頬っぺにチューを…」
紗雪が顔を近づけると、蒼は顔を赤らめて後ろに下がる。
「い、いいいいいいから!次は俺が出すから準備して準備」
紗雪は紗雪スマイルを浮かべた後頬をプクッと膨らませた。小悪魔表情可愛い。
「問題、一九一七年にアメリカと日本の間で、中国に対する権益を調整するために結ばれた協定は?」
普段からかい続けられている蒼は中々マニアックな問題を出した。蒼は答えられずに嫌々な表情を浮かべる沙雪を見るのを一人心の中で楽しみにしている。
「石井・ランシンググ協定!」
大正解だ。まさかこんなマニアックな問題も暗記しているとは思っていなかったのか、蒼は思わずすごいと声に漏らした。
「ふふっ、蒼君、わざとマニアックな問題出して私の悩んでる顔を見て今夜のオカズにでもしようと企んでたんでしょ?バレバレよ」
と言って腕をツンッと人差し指でつついてくる。
「間違ってはないけど、間違ってる!オ、オ……オカズにするなんて考えてるわけ…ないだろ」
紗雪の面白い一面を見る羽目が、逆にいつも通りこっちが恥ずかしい面を見せてしまった。
紗雪は決めの紗雪スマイルを浮かべてこちらを何かを誘惑するようなセクシーな目で見ている。
「本当かな?私をオカズにしてもいいのよ?」
テスト一日前だというのにどこまでからかってくるんだ。
その後も何問か問題を出し合ったが、紗雪は変な怪しい問題を出したりとからかい続けたので、蒼は社会のおさらいを辞めさせた。まぁあのマニアックな問題を解くことが出来たから明日のテストは大丈夫だろう。
最後は英語の復習だ。英語は単語の読みや文法の確認した。
「受動態は?」
「be動詞+過去分詞!」
「to不定詞の三用法は?」
「名詞的用法、形容詞的用法、副詞的用法!」
完璧な回答だ。これには思わず蒼も拍手をした。
「すごいよ紗雪、大体この二つを理解出来ていれば半分以上は取れるよ」
「私はやればなんでも出来ちゃうから当然よ」
綺麗な銀髪を手で靡かせると、爽やかなシャンプーの香りが蒼の部屋中に漂い男の部屋から女の部屋に一気に変わった感じだ。
「最後に紗雪にこの前とんでもない読み方をさせた単語だ。『cross 』の読み方は?」
「クロース!」
完璧だ、ブラボー。紗雪も苦手な英語が少しではあるが出来るようになって嬉しそうな笑顔を浮かべて蒼とハイタッチをする。
これで二人とも明日の試験は乗り越えられるだろう。
そして今日は家で勉強だったため、からかい具合がいつもより少し過激な気がした。
「紗雪ちゃーん、蒼ー、夜ご飯できたわよ」
「「はーい」」
二人は夜ご飯を食べに、一階のリビングへと向かっていった。
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