第21話 銀髪美女と誕生日
とうとう紗雪の誕生日当日の朝を迎えた。天気は文句なしと言ってもいいくらいの晴れ、快晴だ。
今日の夜は紗雪と勉強会からのプレゼントお渡し会。蒼は学校でプレゼントを持っていることをバレないようにこの日はトートバッグの中にプレゼントを入れ、それを黒いタオルで巻いて中が見えないように隠している。
勿論、紗雪以外の他のクラスメイトにもバレたくない。
「あら、今日は随分と荷物が多いのね」
学校に登校して早々、紗雪は蒼がトートバッグを持ってきていることにツッコんだ。普段はリュックサックしか持ってこない人が他にトートバッグを持ってきているのだからツッコまれるのは当然だ。
「今日の放課後は勉強会でしょ?だから荷物が多いんだ」
蒼はそう言いながらリュックの中から教科書類を取り出し机の中に入れたあと、廊下にあるロッカーにトートバッグを詰め込んだ。
「そうだったわね。今日は隅々まであんなことやこんなことを放課後の二人きりの時間にきめ細かく丁寧に教えてください、蒼先生」
沙雪はわざとかなり誤解を招くような言葉でこの日もからかってきた。プレゼント渡さないぞ。
この日の授業、いや、これからテストが始まる日まではほとんどの授業で自主学習が取り入れられるだろう。勿論、体育の時間も丸一時間自主学習に変わってしまうため、蒼汰等のスポーツ好きは深く溜息をついて分かりやすく落ち込んでいる。
蒼にとっては問題なしだ。
一時間目数学ⅠA、今までの復習プリント後、自習。
二時間目英語、リスニング問題後、自習。
三時間目美術、何故か毎回この授業はテスト勉強をせずいつも通りの授業をする。
四時間目国語、漢字プリント五十問後、自習。
五時間目体育、丸一時間自習。
六時間目数学ⅡB、数ⅠA同様。
七時間目化学、前回の続きの授業後、自習。
こんな感じでテスト前の授業はかなり退屈だ。寝ている人や周囲の友達同士でコソコソ話している人も見られる。
こういった静かな空間の中、寝ている時に体がビクッとなって机を膝で思い切り蹴ってしまうジャーキング現象が起こった瞬間が人生で一番恥ずかしいと言っても過言ではない。
「ガタンッ!」
化学の自習時間、蒼が黙々と化学の単語を暗記していると前から机を蹴った大きな音が教室中に鳴り響く。ジャーキング現象を起こしたのは蒼汰だった。
その音に驚かされたのか、他に寝ている人も皆目を覚ました。七時間目は最後の授業ということもあり眠くなっても仕方がない時間だ。
蒼汰は皆の目覚まし時計となって、この日最後の授業を終えた。
チャイムが鳴り終わると、部活動はテスト前でどこも休みのため、スタスタと帰る人もいれば教室に残って勉強いていくという人もいた。
しかし、教室に残って勉強する人は賑やかな人が多く、大体おしゃべりして終わりというパターンが多い。ちなみに蒼の唯一の友人である蒼汰もその内の一人だ。
蒼は沙雪と待ち合わせしている市の図書館へと向かって行った。
図書館に着くと、沙雪からSINEでメッセージが送られてきていた。
「入り口を入って左に並んでるテーブルの奥から二番目の所で待ってる」
メッセージ通りの場所に行くと、沙雪は今にも泣きそうな顔をしながら一人で三角関数に悩まされていた。その表情はとても可愛らしく、テスト本番時に三角関数の問題の答えを教えてあげたくなりそうだ。
「沙雪…おーい、沙雪ー…」
蒼は集中している沙雪に小声で声をかける。
「あら蒼君、遅かったわね」
いや、蒼は普通に図書館に向かったはずだ。沙雪が早すぎるんだ。
「そう?沙雪が早すぎたんじゃない?」
「ふっふっふー、なんでこんなに早いのか知りたいー?蒼君」
「別に知りたいって訳じゃないけど、ただ早すぎるなって思ったからさ」
「イコールそれは知りたいって事なのよ。なんで私がこんなに早いのかというと、実は今日私誕生日なの。それで誕生日だから今日はママが学校までの送り迎えをしてくれたの。だから蒼君より早くここにいる訳なのです」
沙雪は今日が誕生日だと自白した。
「へ、へぇ~、今日が誕生日なのか、それはそれはおめでとう」
「ありがとう。ということで、誕生日プレゼントは?」
うん、やっぱり女子だ。蒼は女子に対して、自分の誕生日を教えた人にはすぐにプレゼントは?と要求してくる人が多いと認識している。
沙雪の問いに対して蒼は、本当は勉強が終わった後の夜ご飯を奢って最後にプレゼントを渡すというプランを立てていたのだが、こうなったからには仕方がないと思った蒼はプレゼントを沙雪に渡した。
「えっ…え?どういうこと?なんでプレゼントが事前に?ついさっき私の誕生日を教えたのになんで…なんで私の誕生日を知ってたの?」
当然の反応だろう。今年初めて会って、しかも異性の陰キャ的立ち位置にいて誕生日を教えてもないのに事前に準備されていたのだから。逆の立場だとしたら蒼も驚くだろう。
「実は…この間沙雪の家に泊まらせてもらった時、冷蔵庫に貼ってあったカレンダーにこの日が誕生日だって書いてあったからサプライズでプレゼントを渡そうかなって思ってたんだ」
蒼がなんで誕生日を知っているのかの理由を話すと、沙雪は若干目が潤んでいた。
「え、え!?やっぱりキモイって思った!?いや、やっぱり自分でも少し調子に乗っちゃったかなーって思ったり……」
すると沙雪はいきなり抱きついてきた。周りから注目を浴びている恥ずかしさと、現在の状況への焦りの二つが混ざって蒼は混乱状態だ。
「ど、どうしたんだ、いきなり…」
「ううん…ただ、蒼君がサプライズするプランを立ててたことが嬉しくて…私、異性の人にそんなことされたの初めてだから…ふふっ、ありがとうね、蒼君」
沙雪は蒼の胸に埋めていた顔を上げて感謝の気持ちを伝えた。
これには蒼も体温が急上昇し、危うくそのまま沙雪を抱きしめ返しそうになった。
「感謝するのはこっちの方さ…俺みたいな奴のサプライズを喜んでもらえて嬉しいよ。服も買ってもらったりして俺からは何も買ってあげれてないから、この日を気に買えてよかったよ」
二人共上機嫌な様子で少し語り合った後、テスト勉強に夜まで取り組み、その後は蒼の奢りで沙雪が食べたいと言っていた家系ラーメンの店に寄って沙雪を家まで送った。
「今日はありがとう。まさか蒼君がこんなにも最高な誕生日をくれるとは思ってもいなかったから余計に嬉しかったし楽しかったわ。次は私が蒼君の誕生日を過去最大レベルで祝ってあげるから覚悟してねっ」
本当に喜んでもらえたのは蒼にとっても嬉しいことだが、次誕生日を祝われるときは色々な意味でやばそうな予感がする。
「沙雪にとっての最高の一日にできたのなら俺も嬉しいよ」
「また明日からテスト勉強頑張りましょうね!それじゃあ、おやすみ蒼君」
蒼もおやすみと言ってから我が家へと帰って行った。また明日からのテスト勉強に備えて、この日はあまり勉強せず眠りについた。
ちなみに沙雪へのプレゼントは水族館のペアチケットだ。以前、遊園地デートをした際に沙雪が観覧車で水族館に行きたいと言っていたので、蒼は「一緒に行きたい人を誘って楽しんできてね。誕生日おめでとう」と書いた手紙と共にプレゼントしたのだ。
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