第20話 期待はずれ
うっすらと空が茜色に染まり初夏の風が吹く。
紗雪はこちらに振り返り、髪の毛を耳にかける仕草を見せる。
「ごめんなさいね、いきなり呼んじゃって」
「大丈夫だけど、どうしたの?」
「実は……蒼君に大事な話?伝えておかなくちゃって事があって…ですね」
ここで蒼は何かに期待をする、そう…“告白”と。
放課後に屋上への呼び出し、一対一、伝えなくてはならない話がある、お約束の三拍子が揃っているのだ。
蒼は期待を膨らませて紗雪の話を受け入れようと決心し、顔を赤らめる。
「んで、伝えておかなくちゃいけないことって?」
紗雪は少しビクッと肩を揺らして蒼に近づいて行く。蒼は紗雪の足が一歩一歩進んでだんだん距離が近づくにつれて鼓動が高鳴り、心臓が破裂しそうなくらい緊張している。
そして蒼の前に下を向いて紗雪は立ちすくむ。
「蒼君……」
「は、はい」
「私、ここ最近蒼君と一緒にいてすごい楽しかった。初めてだわ、異性とここまで一緒にいて楽しいと思ったのは…」
「あ、あぁ…そりゃどうも」
蒼は少し照れくさそうに頭の後ろを触りながら答える。
「それでね、私思ったの…蒼君といればこの先もずっと楽しくやっていけるって。だから……その…」
「うん……」
「私と……」
蒼は決心する。OKを出そうと。
「これからも私にからかわれながら一杯遊んでね」
「こちこそよろしくお願いします……って…え?え?」
蒼はからかわれながら遊んでねという言葉にこちらこそよろしくお願いしますと、勢い余り何ともドM的発言をてしまった。
「え、それだけなの?」
「蒼君何言ってるの?私は勇気を振り絞って、異性の人に対してこれからも遊ぼうって言ったのよ?結構緊張するのよ?初めてだからさ、異性の人にこんなこと言うの初めてだから」
蒼は身勝手に妄想を広げて告白に至ると解釈した自分を恥に思い顔を真っ赤に染める。紗雪と目を合わせるのでさえまともにできない。
「あ、分かったわ」
紗雪スマイル発動。
「蒼君、もしかして…私に愛の告白されると思って余りの緊張にやられて先走って私のこれからも遊んでください告白と同時に返事を言った……ってことかしら?」
「……」
蒼は紗雪の問に対して黙ってしまい、図星だと見極められる。
「も〜、蒼君に私が告白するとでも思った?」
「それさらっとひどくないか?それに、あの流れなら多分八割、いや、ほぼ十割近くの男が告白までの経理だと思うぞ」
紗雪は、まぁといった様に口を大きく開けてわざとらしく驚いた表情を浮かべながら笑う。
「謝れよ、恥じ掻かせて……」
蒼は顔を赤らめて言う。
「分かったわ、ごめんなさいね蒼君。でも、私からは絶対に告白はしないよ?私は……蒼君からされるのを待ってるから……」
「え……?」
「あ、ち、ちち、違うわよ?もしも!の話だからね。もしそういう関係になったら私からは告白しないってことよ」
紗雪の若干意味深な発言に蒼は多少困りながらも
まさかなと思いながら水に流した。
「さぁ、もう帰りましょうか」
そして蒼と紗雪は一緒に家に帰った。
ここ最近二人は一緒にいた為、一緒に帰るのは普通のように感じている。誰かに見られた場合を除けばだ。
そして蒼はごく自然に紗雪を家まで送っていった。そして家の前で少し立ち話を始めた。
「家まで送ってくれてありがとう。久しぶりの学校だったけど、学校でからかって蒼君の困っている表情を見るのはやっぱり面白いわね、ふふふ」
一体どこまで悪魔なんだと蒼は心の中で思う。学校ではあまり親しくすると周りの男子からの視線が厳しい為、蒼は毎回紗雪とは接さないよう心がけているが、紗雪は誰も見なさそうなタイミングや放課後を使っていじってくる為、蒼は疲れ果てているのだ。
「ふふふ、じゃないよ紗雪。今日なんて英語の時間どれだけヒヤヒヤしたか……」
いつも通りの会話を二十分くらい語った後、蒼は家に帰った。
久しぶりの学校は楽しかったが、紗雪に振り回されてヒヤヒヤした一日だった。
蒼は夜ご飯を食べ終えると、お風呂に入り今日一日の疲れを流した。
そして風呂上がりにはアイスを食べる。これが毎日の楽しみの一つと言っても過言ではない。風呂上がりのアイスは普通に学校帰りや、間食として食べる時よりも何故か何倍も美味しく感じる。
その後は、三週間後に控えた中間テストの勉強を夜中の一時頃まで取り組み、一日を終える。
そして四日後が経過し、六月十日。
そう、蒼は忘れていなかった。この日は紗雪の誕生日だ。以前、紗雪の家に泊まった際に六月十日の所に誕生日と書いてあった為、蒼は一応、一応(大事なことだから二回言いました)メモに記していたのだ。
なので蒼は紗雪に放課後何か誕生日プレゼントを渡す予定だ。しっかり事前にプレゼントも用意してある。
そしてこの日は紗雪と近くの図書館で一緒に勉強する日だ。
蒼は自分がまさか女子の、しかもとてつもなく美人、いつ見ても可愛いトップクラスの女子の誕生日を祝う日が来るとは今までの蒼は考えもしなかったことだ。まぁ蒼は比較的誰とも仲良くする気はなかった為、あまりそういうのは気にしていなかったが。
蒼は紗雪を喜ばせる準備をしっかりと整え、準備万端だ。
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