第23話 中間テスト前夜祭?

 二人がリビングに向かう途中、階段を下りているとニンニクの食欲をそそる香りがしてきた。紗雪も「犬かっ」とツッコミたくなる様に鼻を効かせて香りを堪能している。


 やはりこの日の夜ご飯はニンニクを使った料理だった。

 ポテトサラダ、肉団子と春雨のコンソメスープ、餃子の三品がテーブルの上に並べられている。


「やっぱり真弓さんの作る料理はどれも美味しそうですね、もうお腹ぺこぺこですよ」


「も〜紗雪ちゃんったら、お世辞なんてけっこうよ。さぁさぁ食べて食べて!」


 そして三人は食卓について声を揃えて挨拶をした。


「「「いただきます」」」


 紗雪はスープをすすり春雨をちゅるちゅると食べた後、大きな肉団子を一口で口に入れてパンパンにしている。最初にスープを飲むとその後の食欲が増すのだ。


 蒼もスープを少し啜った後、スプーン二杯分のラー油を混ぜた酢醤油を染み込ませた餃子を豪快に一口で食べる。皮が羽付きになっているため外はパリパリ、中は豚のひき肉の肉汁が溢れてニンニクのパンチとラー油の辛さが抜群にマッチして肉汁、ニンニク、ラー油の三重奏を奏でている。


 美味しそうにご飯を食べる二人を見て真弓も幸せそうに微笑む。料理を作った人は自分の作った料理を美味しく食べている人を見ると心の底から幸せだと思うのだ。


「真弓さんは栄養士か何かの資格を持ってるんですか?どの料理も本当に美味です!」


「栄養士の資格持ってるのよ。ほら、蒼ったら昔ぽっちゃりしてたでしょ?だから私も料理の勉強して資格を取ったのよ。多分私がその時取ってなかったら、今頃紗雪ちゃんと関わってることなんてきっと無かったわ」


 紗雪と真弓は楽しそうに笑いながら話している。

 紗雪も蒼の小さい頃の写真を見たので、ぽっちゃりしていることは知っているが、いざ改めて過去の話をされると恥ずかしいなと、蒼は密かに顔を赤らめていた。


「でも、私もここに転校してきて蒼君と仲良くなれて良かったと思います。実際、同じ学校の人で蒼君を一番に信頼しているんですよ」


 沙雪は最後の語尾を弾むように上げてから、白米を食べている蒼の腕にギュッとしがみついた。これには真弓も手で口を抑えてお手本の様に驚いていた。


「ゴホッゴホッ……いきなり危ないな、沙雪」


「さ…ささ…沙雪!?下の名前での呼び捨て…!?え……一体いつからかしら?」


 真弓は蒼と沙雪がいつの間にか恋人関係になっていると、とんだ勘違いをしている。


「違うぞ、母さん。俺達は決して付き合ってないよ。ただ…友達らしく名前で……」


 すると沙雪が蒼の言葉を遮るように話し始める。


「誰もいないの時は下の名前で呼び合おうって……」

 

 蒼も同じように、沙雪の言葉を遮るように話し始める。


「そうそう、まず最初は誰かにいきなり下の名前で呼び合っていることがバレたら俺が大変なことになるから、最初は二人きりの時に下の名前で呼び合って徐々に慣れていこうってことになったんだ」


 蒼は言い切った後の達成感に満たされ深く深呼吸をする。全く、沙雪は常日頃蒼をどうやって困らせようかを考えている。


 夜ご飯を食べ終えた三人は、コーヒーを飲みながらまったりと夜のトークタイムを満喫していた。

 すると真弓が優しく微笑みながら二人に質問をする。


「二人はいつ、本当に付き合うのかしら?」


 蒼は思わず口に入ったホットコーヒーを少しこぼしてしまった。


「いつ付き合うって…俺達は付き合わな……」


「そうですね~、もう少ししたらお付き合うをしようかなと考えています」


 真弓、二度目のお手本びっくら仰天ポーズ。


 蒼が慌ただしく沙雪の方に目を向けると、沙雪は舌を出してざまぁと言わんばかりの沙雪スマイルを浮かべていた。


「私は大歓迎よ沙雪ちゃん!こんなだらしない息子だけどよろしくお願いします」


 真弓は沙雪に一礼して言う。思わず「結婚か!」とツッコミを入れたくなる。


 「あ、そうそう、私ずっと気になっていたんだけど、二人の馴れ初めって何なの?」


 確かに、まだ真弓には、いや、誰にも話したことがなかった。真弓は目を子供が玩具を欲しがっているかの様に目を輝かせて聞きたそうにしている。


「そうだな、別にアニメやドラマみたいなロマンティックなラブコメ展開とかじゃないよ。普通に偶然席替えをして隣同士になって、自己紹介して……みたいな感じで話すようになったんだ」


「チッチッチッ……まだまだ甘いわ蒼君。実は真弓さん……私が転校してきて初めて桜花高校に通った日の前日の夜に、蒼君……私が夢に出て来たみたいなんですよ」


 蒼は顔を真っ赤に赤める。こんなことを聞いたら、何か気持ち悪いと思われる可能性もあるだろう。

 そう思ってどうにかしないとと思った蒼は弁尺しようとするが、真弓が三度目のお手本びっくら仰天ポーズをしていた。


「何よそれ……!そんなの…じゃない!!」


 沙雪にまたまた一本取られてしまった。前日に転校生の美少女の夢を見るなんて、恥ずかしすぎるだろ。


「そして私も蒼君と話すのが楽しくなってきて…特に焦っている時の表情が面白くて好きなんです!良い人に出逢えたなと思っています」


 嬉しい五割、ムカッ五割のセリフだ。

 

 真弓は何やら安堵した様に清らかな笑みを浮かべている。


「私も、沙雪ちゃんみたいな可愛らしくて優しくてしっかりした子が蒼の友達になってくれて嬉しいわ。何度も聞いたと思うけど、この子は本当に人付き合いが苦手で友達もあまりいなくて一人だったから余計に嬉しいの…。ありがとうね、沙雪ちゃん」


 真弓が柔らかな笑みを浮かべると、それに負けないくらい沙雪も柔らかな笑みを浮かべる。


「いえいえ…私もホンモノの友達は少なかったので、蒼君と仲良くなれて嬉しいです」


 二人が暖かなベールに包まれているのを見て、蒼はコーヒーを啜りながらホッと一息をついた。


 コーヒーを飲み終えた沙雪を真弓は見送り、蒼は家まで送っていった。


 歩くこと十分で沙雪の家の前に到着した。蒼は沙雪の勉強道具が入った重いバッグを優しく沙雪の腕の中に返して、一言交えて家に帰った。


「テストで成果を出そうな!おやすみ、沙雪」


「えぇ、色々教えてくれた蒼君のためにも頑張るわ。おやすみ、蒼君」


 この日の夜空は満天の星空であった。


 


 






 

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