第17話 銀髪美女と一生の思い出

 時刻は午後五時を過ぎた。気づいたらデートも終盤。蒼と紗雪の二人は“あっという間”だと考えていた。それほど二人にとって充実した最高のデートだったのだろう。


 だが、まだ終盤なだけであってデートは終わっていない。

 二人は話をしながら遊園地内を歩き始めた。


「今日のデート、色々な蒼君を見れたり久しぶりに乗り物ではしゃいでとっても楽しかったわ」


「俺もだよ。まさか俺がこんな美人と遊園地デートをする日が来るなんて思ってもいなかったし、紗雪も楽しんでくれてたからすごい楽しいよ。まだデートは終わってないから、最後まで楽しもう!」


「そうね、楽しみましょう!」


 二人は残りの時間を全力で楽しもうと言葉を交わした。


 遊園地内を歩いていると、時間もあっという間に一時間が経過し午後六時を回っていた。


「確か、九時に閉園だったよな?それじゃあ六時だし、夕飯食べるか」


「カレーにしましょう」


「またカレーは勘弁してくれよ」


 余程昼に食べたカレーを気に入ったのか、紗雪はカレーにしようと割と本気の眼差しを蒼に送っていたが、蒼は勘弁してくれと言わんばかりの表情を浮かべて断った。


 夕飯を決めていると、蒼の視界にデートの締めにピッタリだと思われる店が入った。


「あそこで夕飯ってのはどうだ?」


「ふむふむ…蒼君にしてはいい所に目をつけたんじゃないかしら」


 紗雪は何故か上から目線で蒼をからかうかのように紗雪スマイルを浮かべている。


 蒼が選んだ店はパスタやピザなどのイタリア料理がメインの店だ。店からはパスタのソースやニンニクの香り、ピザの香ばしい香りが漂って食欲をそそる。


 紗雪も早く食べたいと目で訴えてきているのが瞬時に分かった。


 二人はいい香りに吸い込まれるかのように店の中へと足を踏み入れて行った。


 店の中はオシャレで意外と本格的な内装で仕上がっていた。木で造り上げられた壁に天井にはプロペラのようなシーリングファンが取り付けられている。


 蒼と紗雪は予想以上に本格的で驚いていた。


「本当にこれ遊園地内のお店なの?中々本格的な仕上がりよね」


「あぁ、俺もびっくりだよ、こんなしっかりとしたイタリア料理店が遊園地内にあるなんて。しかも夜しかオープンしてないんだって。今日の締めにピッタリだな」


「上出来上出来すごいわー蒼君ー」


 紗雪は感情が全くこもっていない口調で蒼を称えた。当然、蒼はバカにされているとしか思っていない。


 紗雪はメニュー表を取ると、一瞬で料理を選んだ。


「決めるの早いな」


「えぇ、私イタリア料理好きで、特にボンゴレビアンコが好物なの。だからすぐ決めたわ」


 沙雪を待たせるのは悪いと思った蒼はペペロンチーノと二人で食べるようにマルゲリータを一枚注文した。


 店内にはイタリアを感じさせるほのかな香りが漂っている。


「お待たせ致しました。ご注文の品をお届けしました。どうぞごゆっくりお過ごしください」


 もう一度言うがここはのイタリア料理店だ。東京などの街にある本場のイタリア料理店ではないのだ。


 昔来た時とは遥かに遊園地のレベルが上がっていると蒼は驚愕していた。


 大事なのは味だ。いくら接客が丁寧だろうが、内装が綺麗だろうが、味が不味かったら料理店としては不出来だ。そう思いながらペペロンチーノを蒼は口に運んだ。


「んんっ!美味い!本当にこれ遊園地内で出していいのか?この美味さだと一つのイタリア料理店としてオープンできるぞ」


「うん、確かにすごく美味しいわ。こんな美味しいボンゴレビアンコは私も久しぶりに食べたわ。」


 二人はパスタに満足したようだ。


 蒼のペペロンチーノは口に入れた瞬間ニンニクの香りが口いっぱいに広がるが、強すぎず弱すぎない絶妙な風味が食べる度に食欲をそそる味をしている。


 対して紗雪のボンゴレビアンコはプリプリのあさりに白ワインの旨みがしっかり染み込んでいて噛む度に口の中にほのかな上品な味が広がり、唐辛子の柔らかな刺激がいい味を出して上品な味わいを出している。


 二人は「美味しい」の他に「遊園地内のレベルじゃない」の二つの言葉が頭に浮かんだ。


「お待たせ致しました。只今お客様がご注文なさったマルゲリータが焼きあがったのでお持ちしました

。どうぞごゆっくり」


 先程と同じ店員が出来たてのマルゲリータを蒼と紗雪の食卓へと運んできてくれたのだ。


 二人は六等分にカットして一切れずつ口に運んだ。


 チーズが腕を伸ばしきっても伸び続けるくらいトロトロだった。蒼と紗雪はチーズの伸びに目を丸くして驚いた表情をしていた。


「んん!すごいチーズ伸びるな、美味い!」


「ひーふがふごいほひる、おいひいわ(チーズがすごい伸びる、美味しいわ)」


 紗雪は口に入れながら話していたため他国の言語のような言葉を発していた。


 口に入れた瞬間、濃厚なチーズがトマトソースの酸味が効いた風味と共に口いっぱいに、最後にはバジルの鼻を通すようないい香りが漂って、それはもう幸せなひと時であった。


 気づいたら二人とも自分のパスタと三切れのマルゲリータを食べ終わしていた。それくらい夢中にさせる美味しさだったのだろう。


「本当に本格的なイタリア料理店みたいで美味しかったわ。蒼君の見る目が少し変わったわね」


「元々見る目があるぞ…と言いたいところだが、俺もまさかここまで美味しい店を当てるなんて思ってもいなかったよ」


 二人は余韻に浸りながら夜の遊園地を歩く。


 時間は八時を回っていた。閉園まで残り一時間を切った。


 紗雪は蒼の袖をクイッと引っ張って何かを言いたげそうな表情を見せた。


「最後に観覧車でも……乗らない?」


 上目遣いでのお誘いは反則だ。蒼は紗雪の誘いに首を頷かせた。

 紗雪は嬉しそうに微笑んで蒼を観覧車まで引っ張っていった。


「お二人はカップル…ですよね、見れば分かります!夜のひとときをこの観覧車と絶景と共にお過ごしくださいませ」


 スタッフは蒼と紗雪をカップルだと言い切ったが、実際カップルではない二人は顔を赤らめて観覧車へと足を踏み入れた。


「私達、カップルに見えるのかしら」


 紗雪が首を傾げながら蒼に問いかける。


「まぁ…男女二人でいるから見えるんじゃないのか?」


 紗雪はそっかと言う表情を浮かべて紗雪スマイルを浮かべながら蒼をチラ見した。


 観覧車内は思ってた以上に音も無く静かで普段は普通に話せているのに、何故か話しづらい雰囲気を感じて上手く会話を交わせずにいた。


 しばらく沈黙が続くと、紗雪はいきなり窓に手を当てて目を輝かせながら外を眺め始めた。


「うわぁ〜、綺麗…」


 蒼も紗雪に釣られるように外に目を向けた。

 するとそこには、遊園地は勿論、その周りの建物などが綺麗に光っていて輝かしい夜景が広がっていたのだ。二人は美しい景色に釘付けになっていた。


「私達の街ってこんなにも綺麗だったのね」


「あぁ、こんな綺麗な景色初めて見たよ。まさかこんなにも輝かしいなんて思ってもなかったよ。」


 自分達が予想していなかった美しさに二人は呆気にとられている。


 蒼が紗雪の方を横目で見ると、まるで紗雪が女神のように蒼の目には映った。


 純白で潤った肌、整った鼻筋に綺麗な骨格、銀髪の間から出ている小さな耳、長く艶やかな睫毛まつげ、見ただけで伝わるほど柔らかそうな唇。

 改めて見るととんでもない美人だなと、ついさっきまで夜景に夢中だった蒼は今度は紗雪の美しい横顔に夢中になっていた。


 蒼の視線に気づいた紗雪は蒼の方に振り返ると、蒼は少し焦った表情を見せてすぐに夜景に目を移した。


「蒼君、さっき私の横顔ずっっっと見つめてたわよね」


 バレていた。まぁあれだけガン見していればバレていてもおかしくないだろう。


「いや、別にイヤらしい意味とかはなくてな、ただ、その…やっぱり綺麗な顔立ちだなって改めて思って見惚れたってだけで、本当に何もやましいことなんて考えてないから!」


 紗雪は懸命に弁明する蒼を見て思わず笑ってしまった。


「あはははは。蒼君テンパりすぎよ、あははは。別に私は蒼君が私の顔を見てやましいこと考えていたとしても何も気にしないよ…?」


 一体彼女は何を言っているんだと蒼は頭が混乱していた。やましいことを考えていても気にしない?だからと言って考えるのは男としては良くない!


 蒼は懸命に自分に言い聞かせていた。


 だが、さっきの紗雪の破壊力は半端なものじゃなかった。

 蒼は正気に戻るよう自分の頬をペチン!と叩いた。


 正気に戻った蒼は紗雪と会話を始めた。


「もう今日のデートも終わりだね。すごい楽しかったよ、紗雪とのデート。ご飯も美味かったしな!」


「なんだか寂しいわ、もう終わるなんて。でもいい思い出になったわ。何日か余韻に浸るだろうけど学校で会えるから問題ないわね」


 蒼としては紗雪と仲がいい様子を他の人達に見られると問題なくない。


「そ、そうだね、まだ会えるしね」


 すると、紗雪は少し寂しそうな表情で蒼を見つめてきた。


「ねぇ、蒼君…また私とデート……してくれる…?」


 蒼はこの時の紗雪の表情といい仕草に胸を抜かれた。やはり白崎紗雪は可愛すぎる。


「勿論、いいよ。紗雪がこんな俺でよければだけどな」


 紗雪は首を横に振って蒼君じゃないと嫌だと言った。


 蒼は無性にその言葉が嬉しく一人で心の中で舞い上がっていた。


 そして観覧車も終わり時間も八時四十五分、そろそろ閉園の時間だ。


「よし、俺達も帰ろうか」


「えぇ、そうね、帰りましょう」


 二人はこの日を一生の思い出として胸に刻み、最後までデートを全力で楽しんで遊園地を去って行った。



 

 


 


 

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