第16話 銀髪美女とナンパ
メリーゴーランドを乗り終えた二人は時間も丁度一時だった為、昼食をとることにした。
この日の昼食はシンプルにカレーだ。
しかし、ここのカレーはただのカレーではないのだ。絶品と呼ばれる程評価が高い、この遊園地の名物なのだ。
名物と言われるだけあり、流石の行列だ。乗り物よりも並んでいる為、ここはカレー屋なのかと思ってもおかしくない。
そして約二十分並んでようやく蒼の番が回って来た。
蒼は中辛のカレーと、紗雪の甘口のカレーの二つを頼んだ。紗雪は辛いのがあまり得意ではない為、甘口を買ってきてと蒼に頼んだのだ。
中辛のカレーからはいい感じに効いたスパイスの香りが漂い、男性の空腹の腹を誘ういい匂いをしている。
対して、甘口のカレーは中辛と違ってスパイスの香りは漂わないが、優しいカレーの香りが女性の空腹を誘ういい匂いをしている。
「「いただきます」」
二人は声を揃えて言うと、カレーを一口食べた。
噂通り絶品だった。中辛の方は辛すぎず、辛くなさすぎない丁度いい辛さでカレー本来のスパイスのあるパンチがかなり効いている。そして具もゴロッと入っていて肉も噛みごたえ抜群で柔らかく、かなり時間をかけて煮込んだ形跡が感じられる。遊園地では中々ここまで手の込んだカレーは食べれないと蒼は感動していた。
甘辛の方も、マイルドな甘さで非常に食べやすく、中辛と同様に肉も柔らかくとても美味だと紗雪も蒼と同じく感動していた。
「ここのカレー噂通りの美味しさね」
「あぁ、まさかここまで美味いとは思わなかったよ」
二人はあっという間にカレーを食べ終えると食事休憩を挟んだ。
「お手洗いに行ってくるから、待っててね」
紗雪はお手洗いに行くと蒼に伝えた。
蒼は分かったとだけ言って紗雪が帰ってくるのを待っていた。
紗雪がお手洗いに行ってから約三十分程度が経過した。
女性は男性よりお手洗いに費やす時間は長いということは承知していたが、流石に三十分は長くないかと思った蒼は紗雪のことを迎えに行った。
お手洗いの前に着くと、四人の話し方が軽薄な二十代前半くらいの男性達が溜まって何やら話していた。
「君、すっげーかわいいねぇ、どこの子?高校生?」
「これから俺達と一緒に回らない?」
「夜まで一緒に過ごそーぜ?姉ちゃん」
「君すごいタイプなんだけど、俺らとどうよ?」
完全にナンパをして口説いている口調だ。
すると、男性と男性の間から困った顔をした紗雪が蒼の目に入った。あんな困った顔をした沙雪を見たのは初めてだった。
蒼は勇気を振り絞って沙雪を助ける為にチンピラ四人組の所に駆け込んだ。
「あの、嫌がってるのでやめてあげてくれませんか?」
「あぁん?誰だ?お前」
「おいおい邪魔するなよ!今その子とこれから遊ぶところなんだからよ〜」
「素直にどかねーと痛い目見るぞ?」
「お前、この子のなんなの?」
当然の反応だ。こんな細くて頼りなさそうで顔だけ少しまともな男が割り込んできても、なんだこいつの一言しか思いつかないだろう。
そして蒼は紗雪とどういう関係だと伝えればいいのだろうか。
蒼がそんなことでモジモジしているうちに一人の金髪ロン毛のマッチョな男性が紗雪の腕を掴んだ。
紗雪はその腕を払うように抵抗する姿を見せていた。
見るに耐えなくなった蒼は紗雪との関係を思い切って伝えることにした。
「俺は、この子の彼氏だ」
四人組がキョトンとした表情を浮かべて気が緩んだ隙に、蒼は紗雪の手を掴んで走って逃げた。
四人組はすぐさま蒼と紗雪のことを追いかける。逃げる途中に丁度二人分が隠れられる大きなゴミ箱があったのでその後ろに身を潜めて、何とか
球技大会以降初めて全速力で走った蒼は、ただでさえ体力が少ない為、息がかなり上がっていた。
紗雪も若干ではあるが息が上がっていた。
「ハァ……ハァ…ハァ。大丈夫か?紗雪。あまりにも遅いと思って迎えに行ったら、まさかナンパに合っているとは思わなかったよ…ハァ……」
「ハァ…まさかはこっちのセリフよ。まさかあの蒼君が、あんなに根暗で人付き合いが悪くてヘタレな蒼君が……まさかチンピラ四人組から私を救ってくれるなんて、予想にもしてなかったわ」
命を懸けて救ったにも関わらず、容赦なくボロくそ言ってくる紗雪に、おいおいとツッコミを入れた。
「でも……ありがとうね、助けてくれて。実はナンパされることは度々あるの」
実はと言われたくてもそんなことは言われなくても分かるわと蒼はツッコミを入れたかったが、そのまま紗雪の話を聞くことにした。
「いつもは一人で
紗雪は最後に本当にありがとうと言って柔らかい笑みを浮かべた。蒼も同情するように少し照れながら笑顔を浮かべて、無事で良かったとだけ言った。
実際、変われたのは紗雪のおかげだと蒼は心の中で思っていた。紗雪が蒼に色んなことを教えてくれたり、感情を露に出来るようにしてくれた気がする為、蒼も紗雪には大いに感謝していたのだ。
二人は近くのベンチに座ると、紗雪が蒼に何か言いたげそうな雰囲気を醸し出していた。
「蒼君、私の初めてのヒーローになった記念に、ご褒美をあげようかしら?」
いつも蒼をパシってばかりの紗雪が褒美をくれるだなんて、なかなか珍しいことだ。
蒼は
「じゃあ……目を瞑って……」
蒼は何をされるのか若干分かった気がした。それは男なら誰しもが喜ぶようなロマンティックなこと。そう、“キス”だと察した。
(やばい……まだ覚悟が……)
蒼は舞い上がっていた。
そして蒼の頬に紗雪の顔が近づいてきたのを感じる。紗雪の吐息が耳元で聞こえる距離まで近づいている。これはやばいと理性が爆発しそうだった。
――フゥーーー
理性が爆発しかけそうになった瞬間、耳に息が吹きかけられゾクゾクした感覚に蒼は襲われ変な声を出した。
「プヒャッ」
「ふふ……本当に、蒼君ったら、面白い反応するわね」
紗雪は本日二度目の満面の笑みを見せて笑っていた。
「まさか、今のがご褒美ってやつか?」
「そうよ?美女の耳元での吐息。最高じゃないかしら?あら?もしかして……ご褒美は頬にキスだと……思ったりしちゃったのかしら?」
紗雪スマイルを浮かべながらジーッと見つめてくる。
蒼は変な勘違いをした自分が極度に恥ずかしくなり、顔を真っ赤に染めて紗雪から顔を逸らしていた。
「そ、そりゃ、思っちゃっても仕方ないだろ!アニメとかラノベはそういうシチュエーションありがちだし……」
紗雪はバカねと言ってひたすらに蒼を笑い続けていた。
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