第15話 銀髪美女と間接キッス

 ジェットコースターによって乱れた気分を、ソフトクリームを食べて取り戻す蒼。疲れた体には甘いものが一番。

 沙雪はルンルン気分でアイスを食べている。


「蒼君のやつは濃厚バニラ味だったかしら?」


「あぁ、そうだよ。すぎてバニラのに襲われてるよ……なんちゃって……」


 完全に調子に乗った。


 沙雪はくだらないギャグを放った蒼に、まるで哀れな獣を見る様な冷酷な視線を送りつけた。

 蒼は今のはなかったことにしてくれと沙雪に頭を下げると沙雪は何か考え付いたように微笑んだ。


「そんなに今のつまらなくて体の芯まで伝わるくらい寒いギャグを忘れてほしいのなら、そのアイス一口私に食べさせてくれないかしら?」


 蒼は分かりやすく動揺した。自分の食べかけの物を女性に与えるのはこれまた初体験だ。いわゆる間接キスというやつだ。


「俺のアイスを、紗雪に!?食べかけだよ?俺の食べかけだぞ?」


「蒼君のだから頼んでるんじゃないの」


 紗雪の想定外のセリフに蒼は顔を赤らめた。

 だが、いくら紗雪が自分で言うからいいと言っても蒼には若干の抵抗があった。こんなに綺麗な人に自分の食べかけをあげるのが申し訳なく感じていたのだ。


「はーやーくー、食べさせてよ。食べさせてくれないとさっきのつまらなすぎて反吐が出るギャグのこと言いふらすわよ?」


 それだけは勘弁してくれと蒼は手を横に振って否定した。

 仕方ないと腹をくくった蒼は、なるべく自分が食べていない所を紗雪の口許くちもとに持っていった。


「あーーん、うむうむうむ……んー!すっごい濃厚で美味しいわね!変だけど、蒼君のさっきのギャグ通りの感想かもしれないわ」


 濃厚バニラのアイスを一口頬張った紗雪は絶賛していた。次いでに、蒼のしょうもないギャグも少し共感してくれた。


 紗雪が食べた部分をよく見ると、蒼がしっかり食べていた所にあとが付いていた。

 

 蒼はわざと食べた所の反対側を口許に持っていったはずなのに、紗雪は反対側の蒼が食べていた方を貰っていたのだ。


「ちょ、紗雪?なんでわざわざ反対側を貰ったんだ?俺なりに配慮して、なるべく食べていない方をあげたつもりなんだけど……紗雪が食べた方だと、俺が食べてた方……」


 紗雪はキョトンとした眼差しで蒼を見つめている。


「蒼君?これはデートなのよ?口付けの部分を食べたってデートなんだから何もないじゃない?それに、蒼君が食べてた方の方がもっと濃厚に感じるんじゃないのかなって……ふふ」


  紗雪は口許に付いたアイスをペロッと舌で舐めて上目遣いで見つめてくる。


 蒼は紗雪が一体どれだけデートに本気で望んでいるのかが不思議に感じた。

 だが、そんなのはどうでもいい。アイスペロりからの上目遣いのダブルコンボで蒼の胸は撃ち抜かれていた。


「蒼君も、私の……食べる?」


 いつもと違ってゆるふわな髪型で近くに迫られると、普段のクールな印象とは違う為、少し緊張してしまう。


「じゃあ……お言葉に甘えて、一口貰おうかな」


 紗雪はニコッと微笑んで嬉しそうな表情を浮かべる。本当に付き合ってないのかと疑いを持たれてもおかしくないくらい、二人は仲が良くラブラブなカップルに見える。


「はい蒼君、口開けなさい。あーーん」


 女性からのあーんは実の母親である真弓以外の人は初めてだ。

 恐らく紗雪からのあーんはクラスの、いや、学校の、いや……下手したら世の男性が羨むレベルだろう。


「ちょっと待って、ちゃんと紗雪が口付けてない方を食べさせてね?沙雪が平気でも、俺が申し訳なく感じちゃうから」


「分かったわ。はい、これでいいわね」


 紗雪は蒼に言われた通り、自分が食べていない方を口許に近づけてきた。


 蒼は一安心し、一口頬張る。

 その瞬間、紗雪はアイスをくるっと横に反転させ、反対側を蒼に食べさせた。蒼は口に頬張った瞬間に気づき慌てて口を離した。


「ふふふふふふ……相変わらず面白い反応するわね」


 紗雪は今日一番の笑みを浮かべて大笑いしていた。蒼はそんな状況ではなかった。安心して一口貰えたと思ったら、頬張る瞬間に反対側を向けるとは。


「ちょ、ちょちょ……何してるの紗雪!それじゃ紗雪の食べてた方を俺が食べちゃった……」


「いいのよ、私がそうしてもらいたかったからそうしたのよ。デートなんだから、文句はないわよね?」


 「デートなんだから」というパワーワードを使われると流石に言い返せない蒼は、すぐにありがとうと伝えた。


 紗雪のアイスはストロベリー味で果肉もゴロッといくつか入っている為、ソフトクリームなのに食べ応えがあってとても美味しかった。


「あ、アイス付いてる……」


 紗雪は蒼の頬に付いていたアイスを指で取ると、それを舐めた。


 蒼は自分の頬を抑えながら顔を赤らめる。今日はいつもより紗雪が可愛いのか、何回デレたのか分からない。


 アイスを食べ終えると、二人は次に乗る乗り物を探して歩き回っていた。

 

 すると、沙雪が蒼の袖を引っ張った。


「次はあれに乗りましょう!あれなら蒼君でも乗れるよね?」


 紗雪が指を指す方を見ると、メリーゴーランドだった。


 いや、確かに乗れるが、さっきのジェットコースターとのレベルの差が愕然過ぎる。

 可愛らしい馬に天使の羽が生えた物、魔法の絨毯じゅうたんの物等、色々な種類の物があった。


「まぁ、確かに乗れるけど……」


「うん!じゃあ乗りましょう!」


 メリーゴーランドに乗って、感想という感想は無かった。ただ一つあるとすれば、“平和が一番”の一言が蒼の感想であった。


 紗雪もメリーゴーランドに乗りながら無邪気な笑顔を浮かべていたので、蒼も一緒に楽しんでいた。



 




 




 

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