第14話 銀髪美女と初デート

 日曜日――昨日の豪雨とは一転し、この日は超が付くほどの快晴だ。風も吹いて過ごしやすい気候に恵まれた。

 この日は以前約束した沙雪とのデートの日、そして記念すべき蒼の生まれて初めてのデートの日だ。ここ数日間一緒にいたのに本当に今日が初デートといえるのかは置いておこう。


 蒼は沙雪と出逢ってから『初めて』をたくさん経験している。

 そして今日の初デートがその集大成という訳だ。練習デートはである為デートではないと沙雪から強く主張されたので、そういう風に捉えておく。


 今日は午前十時に駅前の喫茶店に集合することになっている。そう、蒼は昨日沙雪と連絡先と電話番号を交換して昨夜、初めて電話で会話をしたのだ。初電話らしい初々しさを感じながらも、二人は今日の計画を練っていた。

 

 その今日の予定はというと、「お・た・の・し・み・に♡」と沙雪が猫をかぶった口調で言ったのだ。計画を練っていたとは言えないだろう。


 時刻は午前十時、蒼は約束通り喫茶店『blossom』にしっかりと身嗜みだしなみを整えた格好で沙雪を待っていた。髪型は沙雪が高評価を付けたセンター分け、服はこの前デート用として買った物を約束通り着てきた。こんな格好は以前の蒼なら絶対にしない服装だ。


 カフェラテを味わい深く堪能していると、ドアの鈴の音が鳴り響いた。

 そこには綺麗な銀髪で、至ってシンプルな真っ白なワンピースを着た美女――沙雪の姿が見えた。

 他の客人も突如とつじょ現れた美女に釘付けになっている。

 

 普段は清楚さを感じさせるストレートヘアーだが、今日は毛先の方を巻いていつもの沙雪とは雰囲気の違う可愛らしさを感じさせるヘアスタイルにセットしていた。これがいわゆる“ギャップ萌え”というやつだろう。

 

 まぁ、どこに行っても同じ反応をされる沙雪は自分が注目されても何とも思わないのだろう。


「あ、いたいた。おはよう蒼君。少し待たせちゃったかしら?」


「全然待ってないよ、俺もさっき来たばかりだからさ」


 嘘だ。本当は十時集合なのにも関わらず、沙雪は十時四十分に集合場所に来たのだ。蒼は沙雪に悪気わるぎを感じてほしくないという優しさが、こういった嘘を招いたのだろう。


「じゃあお互い遅刻ねっ」


 蒼は苦笑いを浮かべるほか、何もできなかった。


 しかし沙雪に白の破壊力は凄まじいものだ。元々あった透明感に更に磨きがかかっている。そしてワンピースが沙雪の美しい体のラインを際立てて色気も感じられる。中々見れない沙雪の私服を見れた蒼は、沙雪の美しさに口を開けて呆然とする以外は出来なかった。


 「さ、行きましょう。ちゃんと私が計画立ててきたから、安心してデート楽しみましょ」


 蒼は沙雪に任せる気満々だった為、沙雪の後にくっ付いていく以外選択肢がなかった。


 今回は練習デートとは違い、少し街はずれの都会へと歩いて向かっていた。風に揺られて良い香りが漂ってくる。蒼はこのいつもの沙雪の香水の匂いが自分好みであった。


「今日はいい天気に恵まれてよかったわね。デート日和よ」


「そうだね。また豪雨だったらどうしようと思ってたよ」


 もし、また昨日の様な悪天候であったら、沙雪のワンピース姿が見れないと考えると何だか少し嫌かもしれない。


「白崎さんは……」


「君は理解力がないのかしら?蒼君」


 また名前で呼ぶのを忘れると、沙雪は唇に人差し指を当てた。


「沙雪……」


「はい、よくできましたね蒼く~ん」


 何なんだ、このガキ扱いは。沙雪は更にからかいのレパートリーを増やしていた。

 本当に、まさかこんな美女と冴えない男が今みたいな関係になるとは最初の頃は絶対にありえないことだろう。何なら、今でもありえないと思う箇所はある。

 二ヶ月前に見た夢は何かの予兆を知らせるものだったのだろうか。


 今日のデートのことを話していると目的地に着いた。

 今回のデートのまず最初の舞台は、遊園地だ。遊園地は一見小さな子供向けの場所だと思う人も少なからずいるだろう。

 小さい子供はただ純粋に乗り物に乗って遊ぶことを全力で楽しむが、高校生にもなれば、乗り物に乗らなくても遊園地を満喫することは可能なのだ。

 乗るとしたらロマンチックに観覧車くらいだろう。


 沙雪は意外と怖がりのため、乗り物にはあまり乗らないだろうと思っていた。


「遊園地なんて久しぶりだわ。蒼君は?」


「俺も久しぶりだな、小学四年の頃遠足で行ったっきりかな」


 久しぶりの遊園地に沙雪は蒼の予想とは違う反応をしていた。普段みたいにクールな感じで「さ、まずはどこか座れる所を探してお話ししましょう」と言うと思っていたのに、「蒼君、早く乗ろう!デートなんだから楽しまなくちゃ!」と無邪気に子供の様にはしゃいでいた。


「どれ乗ろうかしら…んー……うん、決めた。蒼君、まず最初はあれ乗りましょう」


 最初に乗ろうと言って指を指した乗り物は、まさかのジェットコースターだった。まず最初に乗ろうのセリフに一番似合わない種類の乗り物だ。


「いきなり、あ、あれに乗るのか?実は俺…ジェットコースターは苦手なんだよ」


「大丈夫、当たって砕けろよ、蒼君」


 沙雪に蒼は乗らせないという選択肢は万に一つもない。

 

 だが、苦手だったのは小学生の頃の蒼であって、今は高校生まで成長してメンタルも強くなっているのだから行けるかもしれないという一心で沙雪とジェットコースターに臨んだ。


「空の世界にいってらっしゃ~い」


 スタッフが手を振りながら見送る。下手したら本当に空の世界に行きかねない。


「蒼君、楽しみね♡」

(全然楽しみじゃねぇ……)


 ジェットコースターはゆっくりとレールを昇っていく。昇っている最中の音が恐怖の旋律を奏でている。まだゆっくりのはずなのに冷や汗がやばい。

 

 そして頂点まで到達した。そろそろ空にいってきますする頃だ。


 ジェットコースターは加速し、猛スピードで走りだす。空気抵抗で顔の皮膚が飛んでいきそうだ。

 沙雪の方に僅かな意識を向けると、満面の笑みで楽しんでいた。ここまで楽しそうな表情を見せるのは、恐らく校内であったら蒼のみだろう。


「何これ!こんな楽しかったかしら?フゥゥゥゥー!」


 両手を挙げてもう完全に満喫している。


 そしてジェットコースターが終わった。蒼は頭がクラクラして完全に意識が持ってかれている。やはり昔嫌いだったものは今も嫌いだった。

 沙雪はルンルンだ。


「楽しかったわね!今日は楽しいデートになりそうだわ」


 蒼はいきなり心身共に疲れたが、せっかく沙雪が考えたプランなので全力で楽しもうと決心した。


 こうして、いきなり最初から飛ばして、蒼と沙雪の初デートが幕を開けたのだ。

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