第10話 銀髪美女とお家デート(白崎家)

「おじゃまします」


 初めての女子の家、校内一の美女といっても過言ではない紗雪の家に上がり緊張感が一層高まる。

紗雪の部屋はシンプルに白の塗装で窓のそばには花瓶に一輪の百合が添えられていて、如何いかにも紗雪の部屋だと思わせるようなモノであった。


「ゆっくり休んでちょうだいね。夜は……長いわよ」

 

  紗雪は目を細めて蒼に視線を向けると、蒼はビクンと肩を震わせてそっぽを向く。変に誤解を招くような言い方に蒼は動揺しているようだ。

 沙雪はベッドに座って微笑んでいる。


「あ、そうそう、今日ママいないから二人きりよ…」


「だからといって何もしないよ……」


 蒼は首の後ろを掻きながら照れ臭そうにしている。

 お母さんがいないから二人きりという言葉に蒼は疑問を抱き、問いかけた。


「もしかして、白崎さんもお母さんと二人暮らし?」


「えぇ、そうよ」


 それでは、以前お父さんと一緒に学校から帰ったという話はどういうことかとまた疑問を抱いた。


「それじゃあ、前言ってたお父さんは……」


 お父さんのワードを出した瞬間、沙雪は悲しそうな表情を浮かべ、蒼は何があったのかを察し、余計なことを言ったかなと後悔する。 


「悪かった、気にさわるようなこと言ったよな」


 沙雪は首を横に振って気にしないでとだけ言ってベッドから立ち上がり、一回のリビングへと向かう。


「下で茶でも飲みながら話しましょう」


 いつもの沙雪に戻っているのを確認して蒼はホッとする。


 リビングに行くと、まぁ広い。余計なものを置いていないからなのか、やたら広く感じて蒼は見渡している。すると沙雪の七五三の写真が目に入り近づく。

 やはり小さい頃から整った顔をしている。今は高校二年生ということもあって大人びた綺麗な顔つきだが、小さい頃は今でも大きい瞳が更に大きくて頬も少しふっくらと膨らんでいて、何とも愛くるしい容姿だ。


「白崎さん、やっぱり小さい頃から美人なんだな」


「えぇ、今も昔も美人よ」


 自分を崇める人を蒼はあまりよく思わないが、沙雪は何故か不快な気持ちにならない。それほど美しい存在だからだろう。


「蒼君、先お風呂入ってきてちょうだい」


「いや、俺は後でいいよ」


「私が嫌なのよ!だって、蒼君童貞だから私の後に入ったら浴槽のお湯飲んだりするでしょ」


 断じてしない。童貞というパワーワードを使えば大体の言い分が無敵になってしまう。一体どんな目で見られているのだろうかと蒼は少し心配になったが、お言葉に甘えて先に入れさせてもらい、くだらない心配もシャンプーと共に流した。


 蒼が髪の毛を流し終えて体を洗おうとした時、後ろの扉が開く。

――ガラガラガラ


 沙雪がタオルを巻いた状態で入ってきたことに、蒼は分かりやすく動揺して慌てて沙雪から目をそらした。


「白崎さん……なんで?」


 当然の反応だろう。突然スタイルの良い美女が入ってくれば男なら誰でも同じ反応をするに違いない。ここにいるのが蒼じゃないクラスメイトの誰かだったら間違いなく理性を保てないだろう。


「練習デート③なのよ?……お泊りデートなんだから、と……当然でしょ」


 当然な訳がないだろと突っ込みたくなるが、それどころではなかった。


「しょうがないから背中流してあげるわ……。ほんと、こいうことするの…蒼君だけなんだから」


 恥ずかしそうに話しながら、沙雪は優しく蒼の背中を流す。

 

 沙雪は蒼の背中を見て、男子の背中ってこんなに大きいんだと見惚れていた。蒼は運動が苦手で根暗だが、流石にずっと家でくつろいでいるのは不健康だと思い、筋トレは毎日怠らずにやっているのだ。


「背中流すわよ」


 沙雪がシャワーを取ろうとしたその時、床に広がる泡で滑ったのか、そのまま蒼の背中めがけて倒れる。

 

 蒼の背中には以前感じたことのある柔らかいが当たる。瞳孔が開くほど驚き思わず変な声を出してしまった。


 沙雪も蒼と同様、よほど焦っていたのか、手足をバタバタさせていた。沙雪が暴れるたびに柔らかいものの当たる感覚が強くなる。


 何とか絶体絶命の窮地から逃れた蒼と沙雪は体勢を直し、背中を流した後沙雪はすぐに出て行った。

 

 その後蒼もお風呂を上がって、沙雪がお風呂に入った。流石に一人で沙雪の部屋に行くのはまずいので、ひとまずリビングのソファに腰を掛けて沙雪が用意しておいてくれたキンキンに冷えた麦茶を飲みほした。


 使い終わったコップを戻すため台所に行くと、冷蔵庫に掛けてある小さいカレンダーが目に入る。カレンダーには次の日曜日(六月二日)、本番デートの日が赤丸で囲まれていた。可愛らしいなと思って下に目を向けると、六月十日(月曜日)の所には「誕生日」と書かれていた。


 蒼は念のため、その日を忘れないようスマホのカレンダーに印をつけておいた。


 沙雪がお風呂を上がったようだ。女子にしては短い入浴時間であった。入浴直後ということもあり、沙雪からはいつも以上にシャンプーの良い香りがした。蒼は思わず香りの虜になっていた。


「待たせたわね、蒼君」


「いや、そんなことないよ」


 二人はポテチとコーラを持って沙雪の部屋へと戻って行った。

 

 部屋に戻った二人はポテチを開封し、コーラをコップに注いで夜会を始めた。

 うすしおの塩加減にコーラの炭酸のパンチが絶妙な美味さを生み出す。夜中に食べるポテチとコーラは格段と美味しく感じるのは何故なのだろうか。


「蒼君、女の子の家に泊まるのは初めてかしら?」


「あぁ、そりゃ当り前だ。まさか止まる日が来るとは思わなかったよ」


 当然、蒼は女子の家とは無縁だったため、あるはずがない。何なら、今の状況も心のどこかでは嘘だと思っている自分がいる。


「私も……男の人を家に入れたのは初めてよ」


「そ、そうか、お互い様だ」


 沙雪は蒼の隣に来て耳元で囁く。


「じゃあ……私のをもらったのは蒼君で、蒼君のをもらったのは私ね……ふふっ」


 すごく誤解されそうな言い方をわざとしてくる沙雪に、もはや平常心を維持するのは至難のわざであった。


 そうだなと動揺を隠しきれないまま返事をすると、沙雪は元居た自分の席に戻って行った。


 その後も雑談やトランプ等のゲームをしていると、眠気が差してきた二人は歯を磨いて寝る体勢に入った。勿論、二人が同じ布団で寝るわけにはいかないので、沙雪が自分のベッドで蒼は床に敷いた布団だ。

 

 静寂な空気が漂う中、沙雪が口を開く。


「蒼君、私ね、日曜日のデート……実は少し、いや、結構楽しみなのよね」


 蒼にとって沙雪と過ごしている時間は案外楽しいものだったので、蒼も同意見であった。


「俺もまぁ、こういうのはやっぱり悪くないなって思うよ」


 何だか良い雰囲気になった二人は、おやすみと言って眠りについた。



 

 

 

 



 

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