第6話 球技大会開幕
最近は結構な頻度で二人で話をする機会が増えている。
だが、今でも蒼は沙雪となんでこんなに関わっているのかと疑問を抱いているが、悪くない気分だとも思っている。そう思いながら、二人は屋上の柵に腰を掛けて話し始めた。
「どうなの?男子達からの視線にはもう何とも思わないの?」
「ん、まぁな。まだ多少は気になるけど前よりは平気かな」
春風に吹かれながら、蒼は屋上からの景色を眺めていると、沙雪がいきなり肩を叩く。
「屋上からの景色に見惚れてないで、話すわよ」
どうやら、相手にされなくて少し拗ねてしまったらしい。蒼はなんでこんなに俺に相手してもらいたいんだと度々疑問に思うので、沙雪に聞いてみた。
「なぁ白崎さん。度々思うんだけどさ、なんで俺なんかに相手になってもらおうとするんだ?」
「だから、前も言ったわよね?あなたをからかうのが面白いからよ。それに…」
「それに?」
蒼がそれにと聞き返すと、なんでもないと首を横に振りながら三回言った。
「あ!来月って球技大会があるのよね?」
「あぁ、そうだよ。運動が苦手な俺からしたら嫌なイベントだよ」
蒼がこう答えると、沙雪は何かがひらめいたかの様な表情を浮かべ安定の小悪魔的笑みを浮かべる。
――沙雪スマイルと呼ぼう。
すぐに蒼は嫌な感じを悟った。
「球技大会って、何があるのかしら?」
沙雪は二年になって転校してきたので、どんな種目があるのか知らなかった。球技大会の種目は、サッカー、ソフトボール、バスケットボール、バレーボール、卓球の五種目であると沙雪に教えた。
「蒼君は何に出るのかしら?」
「どれでもいいからクラスの皆に任せるよ」
ちなみに沙雪は運動神経抜群で、基本的には水泳以外なら人並み程度には出来ると蒼に伝えた。
「もし蒼君が球技大会で、かっこいい所見せてくれれば。…私がデートしてあげるわ」
何故上から目線なのかは謎である。どうせかっこいい所は見せられないし、デートに行きたいとは思っていなかったので、はいはいと軽く流すと沙雪は沙雪スマイルでこちらを見ていた。そして昼休み終了の鐘が鳴り響いたので、二人は怪しまれないように別々で教室へ戻った。蒼は五時間目が始まって十分後に戻ったので、恥ずかしい気持ちになった。
時は流れ、球技大会当日。話し合いの結果、蒼はサッカーになった。
サッカーはずっと走り続けるので運動が苦手な人にとっては、恐らく五種目の中でバスケに次いで嫌な種目だろう。蒼は見るからに嫌そうな表情を浮かべている。その表情を見た沙雪は、やる前から諦めてるのねと思いながら沙雪スマイルを浮かべている。
沙雪はというと、バスケに出場することに決まっている。一体沙雪のバスケの実力はどれほどのものなのか、クラスメイトだけではなく他クラスの沙雪を知る人たちは気になっている。
開会式が行われ、選手宣誓を終えると同時に球技大会が開会した。
蒼が出場するサッカーは、午前(予選リーグ)と午後(決勝トーナメント)に分けて行われるので、午後からバスケの沙雪はメンバー達と一緒に三組のサッカーを応援しに来た。
そしてキックオフ。蒼達三組は現役が四人、経験者も四人いるので大会前から噂になっていた優勝候補の一つである。流石と言わんばかりの実力で前半開始早々から圧倒的な攻撃力で相手ゴールを襲った。一点目を決めたのは蒼汰だ。
蒼汰は小学三年から九年間サッカーを続けているので実力は確かである。中学の三年最後の大会ではキャプテンとしてチームを引っ張って全国大会へと連れて行ったが、惜しくも準決勝で敗れ三位決定戦に勝利し一位の座を奪えなかった。
だが、蒼汰個人の実力は日本サッカー協会中等部代表の方が認め、高校を卒業したらサッカーのためイギリスへ行くことを勧めるほど見込まれているのだ。
一点決めた後も三組の猛攻は止まることなく続き、前半だけで五―〇という結果であった。蒼汰は前半だけでハットトリックを達成した。
「流石、蒼汰!やっぱ次元が違うわ!」
「あれは止められるわけねーだろ!」
「流石、美人な彼女持ちは違うなー。美古都ちゃんも見てキャーキャーしてるだろうよ」
「美人な彼女と言えば、白崎さん!俺らの試合見てたよなー」
「いたよな!白崎さんと付き合えば俺もキャーキャー言ってもらえるんだろうな」
絶対に言わないだろと、話を聞いてた蒼は激しく心の中で否定した。
蒼は前半一度もボールに触れていない。あれだけ攻めていればディフェンダーは触れないだろう。蒼はそう思いながら給水を取る。
「あぁおぉいぃ、白崎さんにかっこいい所見せろよー」
こう言いながら、蒼汰は蒼の肩に腕を組んだ。汗で少しヌルッとしたのか、蒼は腕をすぐに外した。
「見せないし。てか、見せようって思っても見せられないわ」
「ははっ、そうかよ。んじゃ、見せようぜ!」
何故この流れで見せるということになったのかは謎である。無理矢理にも限度というものがあるはずだ。
「俺が、クロス上げるから、蒼はそれをボレーシュートで決めるんだ!ボレーは分かるか?」
家でサッカーのゲームをやっていたので蒼は分かっていた。
やればいいんだろと蒼汰に言った。
そして後半戦のため、ピッチに出て周囲を見渡すと蒼は沙雪と目が合った。沙雪は口パクで何かを言っていた
――て・ん・き・め・て・き・な・さ・い
無理無理と首を横に振ったが、沙雪もダメダメと首を横に振っていた。
そして迎えた後半戦。やはり蒼汰達の攻撃力は半端ない。外部では美古都がずっと蒼を見ながら手を叩いていた。あんなピュアな美古都を蒼は初めて見た。
後半終盤に差し掛かってきた所でゴール前に上がっていた蒼のもとに、宣言通り蒼汰からクロスが上がってきた。蒼はゲームの選手の見よう見まねでボレーシュートを打った。
――スカッ
蒼は豪快に空振りをし、ボレーシュート失敗。流石の蒼も恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしている。
試合終了。結果は九―〇で三組の圧勝で初戦を通過した。ベンチへ戻ると、蒼はメンバー達に空振りのことを言われて笑っていた。この時の蒼は、球技大会を結構楽しんでいる。
三組はその後も全く敵を寄せ付けない強さで勝ち進み、午後の決勝トーナメント出場の切符を手に入れた。
疲れて木陰で休んでいる蒼のもとに、沙雪が来た。沙雪スマイルを浮かべていたので、蒼はすぐに馬鹿にされると察した。
「蒼君…。絵に描いたような、美しい空振りだったわよ」
予想的中。沙雪は無邪気な笑顔を見せていた。
「今の所じゃ、デートはできないわね」
「いや、デートしたいなんていってないだろ」
沙雪は沙雪は無視していた。
「午後こそ、ちゃんとかっこいい所見せるのよ。蒼汰君よりもね」
語尾を上げて可愛らしく言う沙雪に、蒼は絶対無理だとはっきり伝えた。
「次は私のバスケよ。ちゃんと応援しに来なさいよ」
沙雪は蒼にちゃんと応援しに来いと伝えて、メンバー達と体育館へ向かって行った。正直、沙雪の運動能力は少し気になっていたので、はいはいと頷いて後から体育館へ向かった。
紗雪のバスケセンスは一体どれほどのものなのか、蒼は少し心配していた。
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