第4話 銀髪美女とあざとさ
夢の中の少女と紗雪のし・り・と・り・の言葉が一致し、二人が同一人物だと確信した蒼は頭を抱え込みながら混乱していた。
そのまま紗雪の方を見るとずっとこっちを覗いていた。
「蒼君、この時間眠くなっちゃうからしりとり、早くやりましょ」
未だに夢のことで混乱しているが、紗雪が早くやろうと言わんばかりの表情をしているので仕方なく話に乗った。
「まぁ、授業退屈だしやるか」
他のクラスメイト達はほとんどが寝ていた。
しりとりは紗雪から始まった。
そしてしりとりは終わる気配もなく二十分が経過した。
「コアラ」
「ラブ」
ラブと言いながらウィンクを見せる紗雪に対して少し胸の鼓動が早まったのを感じた。
「ブ…ブかぁ。ふでも良いから、噴火」
「かっこいい」
「家」
「えっち…♡」
妙に色気付いた言い方だった。
「チーズ」
「ズだから、すでもいいのよ」
「あぁ。俺もさっきふにしたからな」
「そう…。じゃあ…」
次の瞬間紗雪は蒼の耳元に近づいて小声で囁いた。
――好きよ…。
ただでさえ今まで女性に胸の高鳴りを感じたことがなかった蒼が、まさかここまで胸の鼓動が早まるとは誰も思っていなかった。同時に、蒼は顔を赤らめていた。
そんな蒼を紗雪はじっと見つめて不気味そうな笑みを浮かべていた。
放課後になると、いつも通りの中村蒼に戻っていた。
帰ろうとした直前、紗雪は蒼を引き留めからかい始めた。
「蒼君、さっき顔真っ赤にしてて可愛かったわよ」
思い返すだけで恥ずかしい。いくら嘘だとしても、あの耳元での好きよは完全にアウトだ。下手したら理性を保てなくなるくらいの破壊力はある。
「あれは流石に…。流石に恥ずかしいだろ。……反則だ、は・ん・そ・く」
紗雪も面白おかしく笑っていた。
「あ、好きってのは…」
「嘘だろ。分かってるさ流石に」
話が早くて助かるわと言って紗雪と蒼は自宅へ向かった。
その日の夜、蒼は湯船に浸かりながら今日の出来事を思い返していた。やはり好きよというのも夢の中と同じだ。もしかしたら紗雪と何かしら関係があるのかと蒼は一瞬思ったが、ただ美女にからかわれているだけだとすぐに解釈した。
翌日、学校へ登校すると紗雪はおはようといつも通り挨拶を交わしてくれたので、おはようと返した。やはり男子の視線はどうも気になる。
「おっはよー蒼!何か進展あった?あったあった?」
蒼汰が肩に腕を巻いてきて、あまりにもしつこく聞いてくる為、何もない何もないとだけ言って肩から腕を外してもらうと、蒼汰はふーんと言って自分の席へ戻った。
二時間目が終わってぼーっとしていると、美古都と蒼汰が楽しそうに話している風景が視界に入ってきた。やはり美古都は蒼汰と話している時が一番幸せそうだ。そして何だかいつもよりいい雰囲気になっていることに蒼は気付き、早く付き合っちゃえよと心の片隅で密かに思っていた。
三時間目はまたもや加藤先生の国語だ。この日も昨日と同じ感じで退屈な時間を過ごすのだろうと蒼は呆れていた。
「蒼君、蒼君」
紗雪が小声で蒼を呼ぶ。
「退屈だからお話ししましょう」
恐らくこの発言を先生が聞いたら、いくら優しい加藤先生もお怒りになるだろう。授業が退屈だから話そうなんて言葉が耳に入ったら教える気も一気になくなるし、先生側からすれば結構胸に刺さる言葉だろう。
「しー。そういうことはもう少し小さい声で言え。話は付き合ってやる」
紗雪はよろしいといった表情を浮かべた。
何の話をするんだと聞くと、蒼君の話をしましょうと紗雪は答えたので、俺の話ってなんだよと思ったが分かったと頷いた。
「蒼君って本当に地味よね、一人だし…。何でずっと一人なのかしら?」
「何でって言われてもなぁ…。まぁ俺は見ての通り人を寄せ付けないし、自分から絡みにもいかないからな。蒼汰は小学校からずっと同じで俺の話し相手にもなってくれてたから、俺のたった一人のちゃんと友達って思える奴なんだよね」
ふーんと、紗雪は黙々と聞いてた。
「じゃあ彼女もできたことはなかったの?」
「それは…」
蒼は中学生の頃告白されてお付き合いした子に遊ばれたことがあるんだと紗雪に告白した。紗雪は少し悲しそうな顔をしていたのでもう過去のことだしその時も別に気にしなかったから平気だと伝えると、いつもの綺麗な顔に戻った。
「白崎さんは今まで何人彼氏いたんだ?」
驚くことに、いなかったという回答が飛んできて思わず嘘だろと聞き返した。
「正直彼氏とか面倒くさいじゃない?誕生日やクリスマスは一緒に過ごすし…。そもそも法律上そんなルールないじゃない?誰が特別な日を彼氏と過ごすだなんて決めたのかしら」
話を聞く限り相当面倒くさがっていた。
だが、確かに誕生日やクリスマスを一緒に過ごすというのは誰が決めたのだろう。むしろそういった特別な日は自分一人の時間を大切にした方がいいなと蒼は考えていた。
「白崎さんに彼氏がいなかったってのは驚いたな。こんな美人さんなのに」
「まぁ端的に言うと、私も蒼君もお互い彼氏彼女を作るのが面倒臭いってことね」――紗雪はそうだと思うが、俺はそんな贅沢に彼女を作るのが面倒臭いなんて言えないわ。
「もしかしたら私達似たもの同士ってことで、案外相性良いかもよ?」
お得意の小悪魔的な笑みを浮かべてサラッと心臓に悪いことを言う紗雪に蒼は、んな訳あるかと思わず突っ込んでみたら、冗談よ冗談と笑っていた。
気が付くとチャイム音が校内に鳴り響いて、授業終了の合図を知らせていた。蒼と紗雪は授業中だったということを忘れるくらい話に夢中になっていた。
六時間目、七時間目と授業を終えると紗雪がまた話をしましょうと誘ってきた。こんな影みたいな俺と話してて楽しいのかと思いながらも、蒼はまた話に付き合った。やはり男子達からは鋭い視線で見られるがそれにも多少慣れたのか、蒼はあまり気にしなくなっていた。蒼汰はじゃあなと言って美古都と帰って行った。
「んで話って、何話すんだよ」
「さっき蒼君のお話をするって約束したのに、あまり蒼君のお話おできなかったじゃない…。だから蒼君のお話をするのよ」
柔らかな笑みを浮かべる紗雪に思わず見惚れてしまうところだった。
「俺の話は全然面白み無いからな」
「いいえ、蒼君だからこそ、面白いのよ」
若干小馬鹿にされている気になったが気にしなかった。
「蒼君、顔立ちはあまり悪くないと思うのだけれど…。やっぱり彼女作る気はないのかしら?」
蒼汰と同じ様に、紗雪にも顔立ちについて悪くないと言われたが、異常と言っていいほど整った端整な顔立ちをした紗雪に言われても嫌味にしか聞こえなかった。
すると紗雪は、蒼の目の前まで来て前髪を弄り始めた。
「せっかく悪くない顔立ち何だから、根暗な印象を無くす為に、この長い前髪をっ
と…こうして、ここを分けてっと……」
目の前にいる紗雪からはやはりとてもいい香りがした。フローラルの甘い香りが鼻全体に柔らかく広がっていくような感覚、良いシャンプーを使っているのだろう。柔軟剤の香りも今まで出逢ったことの無いすごく落ち着く香りがした。そして時々顔に何か物凄い柔らかいものが当たって、蒼は理性を保つために必死だった。
「はい、できたわ。うん、だいぶ格好良くなったんじゃないかしら」
そう言って鏡を渡された蒼は自分の顔を見ると、前髪がセンター分けされた姿が映ってた。今までは式典などの正装をする時にワックスで前髪を上げてセットしていたが、センター分けは初めてであった。慣れない自分の姿に羞恥を覚えながらずっと鏡を見つめていた。
「これ、変じゃないのか。またこんなことしてからかってるんじゃないだろうな」
「違う違う!これはからかってないわ。…ただ、私男の人のセンター分けが好きだから、あなたをセンター分けにし…したのよ」
頬の周りを赤らめて恥ずかしそうにしている紗雪を見て、蒼も少し恥ずかしい気持ちになった。
「蒼君も明日から、少しは髪の毛セットして学校来たらどうなのよ」
「朝は眠いし時間も無いから、学校にはいつも通りの俺で来るさ」
約一時間程話をした蒼と紗雪はバッグに教科書類を詰めて帰る準備をした。
「んじゃ、また明日な」
「待ちなさい」
なんだと思い、蒼が振り返る。
「私と一緒に帰りましょう」
紗雪は小悪魔的な笑みではなく、不意に見せる柔らかな笑顔で告げた。
「何で一緒に帰るんだ。白崎さんが俺と帰ってたってこと皆に知られたら大変なことになるぞ」
「私が帰りたいと思ったからよ。もっといじりたいし」
先程見せた優しい笑みを一瞬で掻き消すかのように、いつもの小悪魔的な笑みを浮かべた。
「大丈夫よ。もし誰かに見られても、その髪型じゃ誰も根暗な蒼君だと思わないわ」
そういう問題じゃないだろと思いつつも、蒼は一緒に下校した。
蒼は、何でこんな取柄のない俺なんかに無駄にかまってくるんだろうと少し不思議に思っていた。
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