自由への翼

シェンマオ

第1話


「Landscape ideal nature embody」

通称、LINE。

世界は今、このツールを中心に回っていると言っても過言では無い。


かく言う俺もまた、このツールのお世話になりっぱなしだ。

今日もまた、そう。


部屋の半分を占める巨大な筐体の中に入り、ヘッドギアを装着する。

それから幾つか機械を操作し、目を瞑る。


▶▶▶


次に目を開ければ、そこに広がっているのは視界一面の草原だ。

顔に当たる風が気持ちいい。


ここはLINEの世界、言うなれば俺の頭の中の世界。

ある程度内容の操作は出来るが、こんな綺麗な景色が広がっているという事は俺の心が綺麗だという事だ。


気の赴くままにそこらを歩き、転げ回る。

体を草葉まみれにさせて、真っ青な空を見上げているとここが本当の世界なんじゃないかと錯覚する。


そして、この世界で俺は自由だ。

望めば背中に羽だって生えるし、それで空も飛べる。

体が軽い、全能感。というものだろうか。それが頭の中を満たしていく。


しかし、この美しい世界にもノイズが入り込む事がある。今日だってそうだ。


遠くで誰かの声がする。


すると辺り一面の草原はあっという間に消え失せ、灰色が視界を埋める。

翼は剥がれ落ち、地面に叩きつけられる。痛みは無いが、苛立ちで悪態をついてしまう。


無形の灰色は目まぐるしくその在り方を変え、徐々にその場へ定まっていく


物々しい廃墟が俺を囲んでいる。

そう、ここは俺の心。


LINEが世界で重宝されるのは、自分の思う世界に行けるから。という事だけではない、もう1つある。


殺したいほど憎い奴を、間接的に殺せるからだ。

人の心というものはかくも醜い。


しかしその事に何の文句も言えない。俺もまたLINEのお世話になっている人間だからだ。


気が付けば、すぐ背後に人が数人立っていた。見知った顔だ。

どいつもこいつもムカつく表情をしている。俺を小馬鹿にしたような顔だ。


俺の人生計画を無茶苦茶に荒らし、のうのうと生きるままに生きている。

俺の苦労なんて知らず、好き勝手に文句を言う。


気が付けば俺は手に銃を握っていた。


この世界は夢であり、理想。

俺は俺の思うまま、やけに軽い引き金を引いた。


▶▶▶


筐体を出るや否や、息子が駆け寄ってくる。

どうやら夕飯が出来た事を伝えに来たらしい。用件が済むと、走って部屋から出ていった。


俺はその背中を見送ってから、背後の筐体に目を移した。


「Landscape ideal nature embody」 自由な発想は風景として形を成す。


そんなキャッチフレーズで売り出されたこの巨大な機械は今、世界中で使用されている。己の夢を叶えるため、自らの為に


夢を諦め、泣き寝入りする時代はもう古い。


俺は未だ手に残る引き金の感触を確め、部屋を後にした。

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自由への翼 シェンマオ @kamui00621

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