不思議の国の日傘
白と黒のパーカー
第1話 不思議の国の日傘
ぽわりぽわりとアメが降る。アメ~いにおいをくゆらせて。
おいしいおいしいおアメはイカがかしら? イカが聞く。
じゅ~わじゅ~わと良いスメル。イカの手足はスルメイカ。
おいしいおいしいイカはドウカな? 銅貨聞く。
きらんきらんと路肩へ落つ。 オツとめご苦労銅貨おとどけ。
おいしいおいしい銅貨はフトコロかい? フッと転んで紅い華開く。
あら? また今回も最後に死んでしまったわ。
先生は何と言っていたかしら? 確か、お歌の最後に人が死んでしまうのは自分が今の状況から逃げ出したいと考えているから、だったかしら。
私は昔から自分で作った歌詞をステキなミュージックに乗せて歌うのが好きなの。
よくそれで、お母さまからはうるさい! とぶたれていたりもしたのだけれど、今はもう口を開かないお人形さんになってしまったから忘れてしまうことにするわ。
うふふ、いいえ、だめ。だめね。やっぱり忘れられなんてしないわ。
お母さまったら、まるで糸の切れたマリオネット。泥の詰まったからくりピエロなのよ。
うふふ、あはは。ひとたび思い出せば
なんて、言葉遊びもほどほどにしてお昼寝でもしようかしら。
今日はとてもおひさまがポカポカしてる。こんな日は不思議の国に行けるはず。
とてもあたたかな日差しは、真っ白な私の肌を強かに焼いていく。
まるでお父様に水たばこを無理やり吸わされた時の肺のように焼け爛れてしまいそう。
いいえ、それは悪い意味ではないわ。だって悲しい記憶ではないのだもの。
水たばこを一緒に吸っている時間だけが、私たち二人が親と子でいられる唯一の時間だったの。
最期には叔母様に水たばこのパイプを頭に叩きつけられて、ほつれたぬいぐるみになってしまったのだけれど。
最後に赤い液体に満たされた水たばこを叔母さんと一緒に吸ったのはいい思い出ね。
糸の通っていないぬいぐるみはもういらないけれど、その中に詰められていた綿は私の中で一緒にいるの、寂しくなんかないわ。
コクリコクリと船を漕ぐ。
ふと気がつけば、目の前には白い時計ウサギ。フットの下には陸上部のスパイクシューズ。
スパイクのスパイスで味付けされたウサギの肉はいかに
ゆたりと首を傾げながら、そろりそろりと這いよって。風穴あけましょ桃の花。
針の数だけ穴だらけ、あなたの過去も穴だらけ。必死に入れ替えても入れ替えてもはまらない永遠のアナグラム。
逃げるあなたは脱兎のごとく。あなぐらの中までひとっ飛び。
二兎追うものは一兎をも得ずなどというけれど、今のあなたは食べごろ
じゅるりじゅるりと涎を垂らし、お縄で縛って一本締めね。よお~っと括ってひゅ~っぽい。
あれまあれま真っ逆さまのまさかさま。
落ちたウサギもぐっちゃぐちゃ。落ちるやフサギたくなる愚痴や
助からないと分かりつつ、三日月に吊り上がる口角を降格させあなぐらを覗く。
あなたも私も今宵は秘匿、破れば人喰う秘密の甘やかさ。
おや?
今はまだ日が出ているから、暗い夜になるまでは日傘をお差しなさい。
共に過ごしたあなたは友よ。
逃がさないわ。
不思議の国の日傘 白と黒のパーカー @shirokuro87
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