第25話 「崖上の城」
「だが第二王子が死ぬのは大ごとだろう。その騒ぎによって俺の存在が明るみに出ることもあり得るんじゃないか?」
「そのことならご安心を。私がその責を一身に引き受けますので。すべては彼のもっとも信頼していた暗殺者の反逆――そういう真実が残るでしょう」
「それはだめだ! 復讐を他人任せにして、自分は罪だけおっかぶるなんて、そんなやり方は認められない! 君がそれで満足だとしても俺はそんな復讐望まない!」
「アレク様は優しいのですね。あの時のように」
リンダは悲しそうな顔をしてうつむく。復讐者となった俺の覚悟を感じ取ったのだろう。
だからこそ俺は。
「共犯になろう。君と俺で第二王子を殺して声明を出すんだ。俺はこれを機に王国に宣戦布告する」
「――っ!」
「もともと王国に侵攻する計画は立てていたんだ。案内しよう」
「あれは――!」
「トンネルだ。屍者が不眠不休、死物狂いで掘っている。これを王都を始めとした主要都市に繋いでいって、一斉に攻撃をかける」
「まさかトラスヴァル様の城にも……?」
「当然。すでにトンネルは完成間近、あとは直下に爆薬を敷き詰めるだけだ」
「しかし、城を崩落させるだけの爆薬を用意するなんて可能でしょうか? 爆薬の原料となる硝石の流通は王国が管理しています。彼らがよほど不用心でない限り、集められるとは思えません」
――暗殺決行の日――
「手順を確認しよう。まず坑道爆破で城を崩落させる。それでトランスヴァルが死ねばそれでよし。やつが生き残っているならあの門から脱出しようとするはずだ。そこを待ち伏せする」
ナマクアにあるトランスヴァルの居城前にて。俺はリンダ、リア、リルトの顔を交互に見る。彼女たちもこれから行うことの重大さがわかっているのだろう。一様に緊張した面持ちだ。
坑道爆破。
これは来る王国制圧のためのデモンストレーションだ。
これだけ大掛かりなトンネル工事、普通なら万を超す坑夫を使っても、1年はかかるだろう。
だが――。
人骨を使えば可能だった。
骨を柱にしてトンネルを支え、いくら埋まっても働く屍者がいるなら話は変わる。
ここ最近は領地経営の傍ら古戦場めぐりをしていた。
それは屍を集めるためだ。
疫病で見捨てられた廃村、虐殺された異教徒たちの共同墓地、あらゆる場所で俺は屍者を集めてきた。
彼らが労働力として、人柱として坑道を掘っていったからこそだ。
屍者に命令こそできても訓練はできない。
彼らは生前の記憶で培った技術は持っていても、専門的な知識を要する作業はできないし、ましてや新たに技術を身につけるということは不可能だった。
だからこそ武器の扱いに長けた元戦士の屍者は戦力として期待できる。
彼らは文字通り、この世で最も死を恐れない兵士だからだ。
そうやって集めてきた戦力を今日この場所に集中する。
計画の最初の一歩を踏み出すために。
「まあ、トランスヴァルの城攻めには火薬が確保できなかったときに、もう一つプランがあったんだがな」
「それは一体どんなプランだったんですか?」
「奴の城への侵入経路は厳重に守られた門だけじゃないさ。それ以外で唯一外界とつながっている場所がある」
彼の居城は母なるミペカヘ川を見下ろせる崖上に建てられた断崖絶壁の城。堀にかかる一本の橋にある門からしか入れないようになっている。
ではそれ以外にどうやって城内に入るのか?
「それは――トイレだ」
「はぁ……」
さきほどまで目を輝かせて俺の答えに注目していたリンダが心底呆れた様子で相槌を打つ。
「いや、真面目な話だって。一番警戒が手薄な崖側に面していて、崖を上りさえすればトイレの出口から楽に侵入できるんだ」
屍者ならそんな無謀な崖上りも可能だし、いくら汚かろうが平気だし。
割とアリだと思ったんだけど、女性陣からの反応はいまいちだった。
「まあ、今回は王国制圧にどれくらいトンネルが有効か確かめる意味もあったから、このプランにしたんだ」
それにトランスヴァル相手に屍者では話にならないだろう。多少城内を混乱させてすぐに制圧されて終わりだろう。
「よし、始めるか」
俺は地中にいる屍者に合図して爆薬に点火する。
その場で火を点け屍者ごと吹き飛ばすのだ。
まもなくして大地が揺れる。
まるで大地が荒れ狂っているかのような振動が、全身に移る。
そして、目の前で城が沈んだ。
次期国王も狙える俺の能力が忌みスキル《ネクロマンサー》だったため追放されましたが、実はこれチートスキルでした~俺を追放した奴らの死体を使って国を乗っ取るため、辺境で力を蓄えながらスローライフします~ 赤田まち @sarubou620
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