『ハロー過去の僕へ』
高山 響
『ハロー過去の僕へ』
「ハロー、10年前の僕、聞こえますか?こちらは10年後の君です」
僕は電話に向かって話しかける。雨の降りしきる6月の半ば部屋は湿気で洗濯物が乾かず、蒸し暑く感じていた。
『……れ…す……?』
ノイズ交じりの声が向こうから聞こえてくる。
「残念だけど君の声は聞こえないみたい。だから一方的に話すね」
そう言って僕は過去の僕へ告げる。
「僕は今から死ぬ。これはきっと過去の僕へ言っても変わらない……。僕はね、パラレルワールドを信じているんだ。だから、これは君に対してのアドバイスだ。」
僕は煙草を咥え火を点ける。
「まず、仕事はキチンとしろ、していれば君は幸せに近づけるから。次に煙草は絶対に吸うなよ?僕はもうやめられないから無理だけど、君はまだ吸ってないだろうからさ」
煙草の煙を眺めながらそう言って笑う。
「あと……家族を守れよ?それが出来ないやつにはなったら駄目だ」
自分が出来なかったことを全部告げる。
「俺がやってきたことは自業自得だ。だから……君はそうなるなよ?頑張れよ、少年」
そう言って電話を切る。
「無責任な責任逃れだとは思うけど……もう……いいよな」
僕はそう言って椅子に上り首に縄をかける。
「ハロー、別の世界の僕へ、その人生を手放すなよ」
僕はそう言って椅子から飛び降りた。
『ハロー過去の僕へ』 高山 響 @hibiki_takayama
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