#7

 二人は夜の街を歩いた。

 彼女はふらふらと、すべての店がシャッターを下ろしたアーケード街を歩く。

 玲はその後ろから、右手に頭蓋骨の包みをささげてついて行く。

 どこにも行く当てなどなかった。二人はこの世界に取り残された孤児だった。


 どれだけ歩いただろうか。街の明かりはぽつりぽつりと街灯の明かりだけになり、人影はすでに無かった。

 玲は何も考えずぼんやりと彼女の後ろを歩いていたが、急に彼女が立ち止まったので、ぶつかりそうになってしまう。

 彼女は俯きがちに立ち尽くしている。やがて泣き過ぎてかすれた声で言う。

「もういい……もういいよ玲ちゃん……――私は…………疲れちゃったよ……――」

「…………」

「ねぇ……玲ちゃんのおばあちゃんの所へ行こう……?」

 彼女は玲のもとへ振り返る。涙はすでに渇いていた。

 玲は自分のスニーカーを睨みつけ、指を強く握りしめた。みぞおちの辺りが絞めつけられるのを感じる。玲は怒ったように無言で後ろを向くと歩き始める。

 後ろを歩く彼女に聞こえない様に口の中で、未熟者と呟く。

 周りの世界が全て閉ざされて、無力な自分だけが居るようだった。


 その時だった、一陣の陰風が吹く。玲は一瞬にして肌が粟立つ。近くの林で寝ていたはずの烏たちが一斉に飛び立つ。玲の意識の中に鮮烈なイメージが飛び込んでくる。


 男、誘拐、恐怖、監禁、陵辱、殺意、哀願、悲鳴、血、死体。


 断片的な映像がコラージュの様に一つの記憶を描き出す。玲はその吐き気を覚える情報に耐えられなくなり、しゃがみ込んだ。頭の中に直接、送り込まれてくるイメージは、間違いなく彼女のものだった。頭が割れそうになる痛みに耐え、振り向く。


 彼女はいなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る