第4話 面白味のない男

***


「お前の運転は危ういな」


 十文字の隣で書類を見ていた保住は、ふと気が付いて、途中で視線を上げた。


「え? そうですか。すみません。注意しているつもりですけど。どこが悪いですかね」


「どこって。なんとなくな」


「具体的にお聞きしたいのですが」


 言い出した割には、どこが? と問われると、答えに窮した。


「それは言葉にしにくい曖昧な、感覚的なところだ」


「それでは改善のしようもありませんけど」


「そうだな。それはそうだ。すまない。おれの一感想だ」


 保住は言葉を切ってから、書類に視線を落とした。今日は仕事が詰まっていた。移動時間すら惜しい。あまり本意ではないが、十文字にハンドルを渡したのだが。少々後悔しているところだ。


 田口は、配属当初からからかうと面白い男だと思った。彼は、からかえばからかうほど、青くなったり赤くなったりしていたからだ。


 恋人になる前から。保住は田口といる時間が好きだったのかもしれない。ふとそう思った。十文字と一緒にいるのに、考えることは田口とのことばかりだ。保住は、はったとして首を横に振った。


 ——だから。忙しいのだぞ? 田口のことを考えている時間などないのだ。


 一人で慌てていると、ふと十文字が頭を下げた。


「すみません。不愛想で。可愛げがないってよく言われますから。失礼なことを言ったらすみません」


 ——そんなことを気にするタイプか?


 保住が苦笑すると、十文字は少し恥ずかしそうに、視線をあちこちにやった。あまり虐めては可哀そうだと思い、自分から別の話題を切り出した。


「お前は梅沢高校出身だそうだな。田口から聞いた」


「そうです。——しかし係長と田口さんは、仲がいいですよね」


「そうだろうか?」


「だって。そんな話までするんですね」


「田口は、お前がおれの後輩だと思えば嬉しくなるとでも思ったのだろう。ただし高校時代のことは記憶にとどまっていない。同じ学校出身だからと言って、特段なにかあるということはないのだ」


「でしょうね」


 駐車場に車を入れた十文字は口を開いた。


「係長って梅沢高校生タイプまんまです。面倒は嫌いそうだ」


 車が停車するとシートベルトを外し、さっさと車から降りる。


「面倒は嫌いだ」


「そうでしょうね。おれの友達に似ています」


「そうか。おれみたいなタイプが多かったのだろうか? それすら覚えていないな」


 軽く笑う十文字。その笑みが、どういう意味を成すのかはわからないが、特段気にすることでもない。保住は颯爽と星野一郎記念館のドアを押した。


「鴫原さん、ご無沙汰しております——」



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