第4話 和解
「田口くんは、鋭いな」
保住の祖父はひとしきり笑うと、不意に真顔になってそう言った。
——田口の言っていることが正解だというのか?
「見られなかった。あの子の死に顔を見に行く勇気がなかった。なにもしてやれなかった。私の力の及ばないところで一人で戦っていた
——そうだったのか。
聞き入っていた叔父は頷いていた。
「わかるなあ、親のその気持ち。どうだい? 尚くん」
保住は首を横に振った。
「すみません。共感はできません。あいにく、おれは親の立場を経験したことがありませんから。しかし、自分の認識が誤りだったことは理解しました。あなたには父に対する愛情があふれていた。そして、きっと。父もそれは理解していたのではないでしょうか」
「親の心子知らずだ。尚征が理解していたかどうかは……」
「兄さんはわかっていたと思うよ。父さんの思い。だから敢えて自分からも会いに行かなかったんじゃないだろうか。あなたのところに行ったら甘えてしまうからだ。父さんの元を飛び出して頑張ると決めたからね」
保住は祖父に微笑みかける。
「あの人は一人ではありませんでした。たくさんの仲間に支えられていた。おれなんて、未だに父の力を借りて仕事をしているのではないかと錯覚するくらい、死んでもなお影響力のある人だ。家族が妬けるくらい、同僚との時間を持っている人でした」
「そうか……私の元から去った後の尚征のことはわからない」
「おれは、むしろ父親になる前の父を知りません」
一人の人間を理解することは難しい。だからこそ、語り合いが必要なのではないか。
田口家に世話になって家族の良さを理解した。田口には、祖父や祖母がいる。祖父母から聞くことで、田口が生まれる以前の父親を知ることができるのだ。さまざまな人から聞いているエピソードと自分が知る父親を繋げることで、見えてくる事がたくさんあるということだ。
——なるほど、こうして人は様々な視点から理解を深めるのか。そして、時間の流れを理解する。
「我々は生きている。対話を重ねていくことが大切だと思うんだけどね」
叔父、
「まだまだ、お元気でいていただかないと」
「そうだな。その通りだ。今度は自宅に遊びに来なさい。見せたいものがたくさんある」
——父親の思い出を辿る作業もいいのかもしれない。
保住は「はい」と小さく頷いた。
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