第6話 落ち込み犬



 暗い廊下を歩いて、田口は大きくため息を吐いた。


「なにかしたのだろうか……」


 ——嫌われるようなことを、なにかしたのだろうか?


 自問自答しても答えは見つからない。保住の祖父の件を聞き出したことがまずかったのだろうか。余計なお世話だったのかも知れない。立ち止まって、廊下の壁におでこをぶつけてみる。


「最悪……」


 出過ぎた真似をしたのではないかと後悔していたが、その通りになった。


 田口はもう一度、額を壁に打ちつけた。ゴンと鈍くて低い音がする。


 そばを通る職員たちは、彼を奇異な目で見ていくが、声をかけるものはいない。


「ああ……」


 ——せっかく、いい感じで仕事ができていたというのに……つまずいた。


 気持ちが持ち上がらない。ぐらぐらとする足元を踏みしめながら、必死に帰宅する。なにがなんだかわからなかった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る