第4話 小学生と中学生

「なんだか今日は、騒がしいですね。なにかあるのですか?」


 いつのまにか二人の間にはたくさんの人が往来していた。人込みに紛れて保住を見失わないように、田口は必死に彼を追いかけた。


「今日は祭りだぞ」


 保住の声に、はっとして顔を上げた。ぽっかりと穴が空いたような空間に出た瞬間、保住が振り返って田口を見た。


 大きな石造りの鳥居——。到着したのは、街の中心にある稲荷神社だった。


「今日は稲荷神社例大祭だ」


「ああ、そうか」


 ——毎年、十月の一週目の週末は秋のお祭りだった。


 梅沢に住んでから何年もたつが、友達の少ない田口は、こういったイベントに足を運ぶことは少なかった。大学生時代に、サークルの友達たちと来たのが最後かもしれない。


 いつもだったら車が往来している車道が全面通行止めになっており、歩行者天国の標識が出ていた。警官が出てきて、車の進入を止めている様子が見受けられた。


 片側一車線の幅広い道路の両脇には露店がずらりと並ぶ。子どもから大人まで楽しそうに、所狭しと行き交っている様は、いつもの梅沢の町並みとは違って見えた。


 心がザワザワして、ワクワクしてくるのは日本人の血なのだろうか。やはり、「祭」というイベントは、誰しもが心動かされるものなのだろうか。


 ここ数年は祭りに興味を持つこともなかったから。なんだか久しぶりで心が戸惑っていた。挙動不審な人みたいに、あちこちに視線をやっていると、ふと保住の声が聞こえた。


「今日は、ここでご馳走してもらおうか」


「え? ここですか?」


「祭りは嫌いではないが、一人で来ても詰まらん。男二人で来るようなところでもないが」


「一人よりは、と言うことですね」


「そう言うことだ」


 致し方ないという言いっぷりだが、言葉とは裏腹に保住は楽しそうだった。仕事に夢中の時と同じ顔付きをしている。瞳がキラキラとしていた。


「小学生みたいですね」


 田口の言葉に、一瞬の間をおいてから、保住は豪快に笑った。


「そうだな! お前は中学生だが。おれはもっと幼い。的確だ」


「肯定されると、突っ込みようがありませんよ。否定してください」


「そうだろうか。自覚している。気にしていない」


 ——そういう問題か。


「まずは、稲荷様だな」


 保住は長蛇の列になっている参拝者の列の最後尾についた。参道の両脇にも露店が並んでいた。ガラス細工の店。焼き物の店。チョコバナナやポテト、たこ焼きなどの露店もあった。




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