第15話 本当は、結構…好き




「すまない。こんなプライベートな話。バカみたいだ。まさか、ここでするとは思わなかった。おれらしくもないな」


 保住の瞳に光はなかった。彼を思い悩ませる澤井との一夜。田口はそればかり気になるが、勤めて低い声色で言った。


「そんなことはないです。ただ、おれでよかったのでしょうか。そんな大事なお話……」


 保住は不意に口元を緩めた。それから「すまない。いいのだ。お前でよかった」と弱々しい声で答えた。


「ありがとう。田口」


 謝辞を述べられても、正直どうしたらいいのか戸惑った。昨日のもやもやとした気持ちは、幾分和らいでいるものの、なぜか保住の笑顔が田口には堪えた。


 だらしのない格好で、いつも生気のない顔つきをしているのに。時折見せる笑顔は、ぱっと周囲を明るくする。いや、田口の心を彩るのだ。


 ——なぜだろう。目が離せない。嫌いなのに。嫌いなのに。


 彼から目が離せないのは、どうしてなのだろうか。田口はもやもやとした気持ちを持て余し、首を横に振った。その時。扉が開いて矢部が顔を出した。


「あれ~? 今日は珍しいコンビが一番乗りですね」


「おはようございます。矢部さん」


 保住に続いて田口も「おはようございます」と挨拶をする。


「おはようございます」


 矢部はにこにこだった。


「企画書詰めていたんですね」


「はい。書き直しですけど頑張ります」


「で、何点だったの?」


 田口は苦笑いだ。


「十点です」


「まじか? 嘘でしょう? 最高新記録!」


 半分、呆れられているけど別に悪い気持ちにならないのはなぜだろうか。


「どん底を見るのは、いいことだな」


 矢部は苦笑して田口の肩を叩いた。


「そうですね」


 ——なにもこだわることはない。変わるのだ。全て吸収して、自分は変わる。もっと上に行けるように。


 そして保住のサポートが少しでもできるようになりたい。田口はパソコンに向かい、企画書の手直しを始めた。



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