第9話 結局はそうなる

「はぁっ。ネコにはほんと、がっかりだよ」


「……はい。すいません」


 貞彦は露骨に溜息をついて、つま先をコツコツと壁にぶつけていた。


 苛立ちと失望を表現しているらしい。


 ネコはと言うと、貞彦と素直の前で土下座していた。


 貞彦と素直も、本気で怒っているわけではない。


 ネコがすごい勢いで謝り倒してきたことで、なんだか演劇めいたやりとりが勝手に始まっていたのだった。


 ネコも当然、本気で謝罪しているわけではない。


 ただノリでやっているだけで、どうやらこの空気を心底楽しんでいるらしい。


「前回のエピソードがまるまる無駄な時間だったじゃん。ネコ先輩はどう責任をとってくれるのかな」


 素直は素直な気持ちで、割と危ないことを言った。


「いや、お前は何を言ってるんだよ」


「……そこは大丈夫。後々きっと、伏線とかで使われたりするし」


「お前はもっと何を言ってるんだよ!」


 貞彦はツッコんだ。


 これ以上危険な発言がでないかと不安だったが、しきり直すかのようにネコが話し出す。


「……おかしい。作戦は完璧だったはず」


「その完璧な作戦とやらを言ってみろ」


「……生徒会だけじゃなくて、生徒たちも望んでいるんだって証明のため、一般生徒も連れて直談判に行く……」


「着眼点は悪くないと思うよ。で、お前らは誰を連れて行ったんだっけ?」


「……刃渡くんと、安梨ちゃん」


「それっ! 敗因はそれ――――!」


 ネコと瑛理と安梨は、クリスマスパーティーを開くことを相談しに、職員室に向かった。


 現実的に今回の開催は難しそうだという教師の諭すような言葉に、ネコたちは諦めなかった。


 職員室前で座り込みを行い、メガホンなどで抗議活動を始めた。


『……せいとたちのじしゅせーをそんちょーしろー』


『そうだそうだー! クリスマスパーティーで可愛い子をいっぱい見たいぞー!』


『ごめんなさい……本当にごめんなさい……僕が死んで詫びるよ……』


『よくわからないですけど、パーティーと聞いたら黙ってはいられませんわー!』


 教師たちが制裁を下す寸前、風紀委員のカルナがマジ切れして止めていた。


 生徒会発足至上、最速で不祥事を起こしたネコだった。


 ちなみに、唯一の救いとして、風紀委員だけは期待できそうだったと、教師たちは語っていた。


 生徒会の面目が、すでに丸つぶれである。


「というか、お前が謝るのは俺じゃなくって、峰子先輩にだろ」


「……その件については、マジでごめんなさいでした」


 今までのふざけた様子とは違い、ネコは本気で頭を下げた。


 その先には、頭を抱える峰子がいた。


「いえ……後輩たちには、あなた方の生徒会を作って欲しいと思います。そのためには、頭ぐらいいくらでも下げましょう……」


 生徒会が問題を起こしたことで、峰子がどこからか現れて謝罪に加わった。


 教師からの信頼が絶大な峰子の口添えもあったおかげで、なんとか事なきを得たのだった。


「みねこ先輩さすがです! カナミは一生ついていきます!」


「……峰子先輩……やはりまだ、私には生徒会長は荷が重いのかもしれない……そうだっ」


「嫌な予感しか感じないな」


 貞彦はぼそっと呟いた。


「……もう一年、生徒会長をやってくれませんか?」


「私に留年しろということでしょうか!?」


 峰子は力強くツッコんだ。


 貞彦は内心、峰子が留年するところを想像して、思わず笑顔になってしまった。


 貞彦は首を振って、邪念を追い払った。


「とはいえ、これで打つ手がなくなったんだけど……」


「そんなこともないですよ」


 消沈したのも束の間だった。


 声のした方からは、他でもない白須美澄香が現れた。


「澄香先輩!」


「貞彦さんに素直さん。私に内緒で楽しそうなことをやっているなんて。澄香悲しいです」


「澄香先輩!?」


 澄香は露骨に泣きマネをしていた。


「まあまあ、お二人とも、白須美さんにサプライズで何かをしてあげたかったんでしょう」


「まあでもそのあてもなくなっちゃったんだけどね」


 素直が少し悲しそうに言った。


 無茶な作戦ではあったが、何かをしてあげたいという気持ちは本物だった。


「あくまで何かをする場所がないということが問題でしたら、私に妙案がありますよ」


「ほんと?」


「ええ」


 澄香はにっこりと笑顔になっていた。


 嫌な予感ではないが、澄香が何を言い出すのか、貞彦にはおおよその予測がついていた。


「クリスマスパーティーをしたいというのでしたら、ぜひともうちで行いましょう」


『やったー!』


 生徒会の面々を中心に、歓喜の声が上がった。


 ネコとカナミは、楽しそうにハイタッチしていた。いつの間にか、がっつりと仲良くなっているようだった。


 学校行事としての開催はできなかったが、みんなでパーティーをするという目的は達せられそうだった。


 しかし、と貞彦は思う。


 最近の動向について、どうしてもツッコまなければいけないという、使命感を感じていた。


 貞彦は、息を思いっきり吸い込んだ。


「結局澄香先輩オチか!」

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