第202話 共闘


 流石に全員でやって来ると大規模な自然破壊になると思ったのか、彼と数名のゾンビだけであったが、その衝撃は十分なものであった。

 片や、沢山の亜人と木々に紛れる巨人。こちらはまだ現実的に受け止められるとしても、ハーミスを追ってやってきた老若男女のゾンビ集団――しかも武装しているのだから、さしものシャスティが戸惑うのも無理はないだろう。


「な、なんだ、このゾンビ達は!?」


「亜人の集団とは、ふむ、何者でございましょうか」


 ゾンビ達は武器に手をかけ、亜人達は弓を番える。

 未知との遭遇に挟まれたハーミスは、面倒毎になる前に、双方に対して説明した。


「シャスティ、弓を下ろしてくれ。こいつらも、俺達と一緒に聖伐隊を倒す為にモンテ要塞に向かってる仲間だ。ゾンビだけど危害は加えない、約束する」


「そ、そうか……ゾンビを見るのは初めてだな……」


「そんでもって、オットー、ゾンビ軍団。紹介するぜ、彼女はシャスティ……『明星』一番隊の隊長だ。ここにいるのは、巨人も含めて皆、『明星』のメンバーだよ」


 ほんのちょっぴり、間を置いた。

 彼らは今、ゾンビなりの思考回路をフル回転させている。自分達の前にいる、緑のマントを着た者達が誰で、何をする者かと。

 そういえば、ずっと憧れていた相手がいたような。聖伐隊に対して反逆し、自分達が勝手に支部を名乗るほどの相手がいたような。そこまで思い出してようやく、ゾンビ軍団の目は醒めたようだった。


「……み、『明星』ですと!?」


「「み、みみみみょうじょうーッ!?」」


 目をこれでもかと飛び出させ、舌をこれでもかと伸ばし、ゾンビ達は驚愕した。それこそ、リアクションを見た『明星』の面々が顔を顰めてしまうほどに。


「……随分な反応だな。そんなに有名になった覚えはないんだが……」


 オットーですら顔をしわくちゃにしているのだから、他のゾンビの顔と言ったら、並の死人よりも酷い有様だ。会話にならなさそうな彼らの代わりに、ハーミスが言った。


「こいつら、元は聖伐隊とレギンリオルに恨みを持つ連中ばっかりなんだよ。それが地下墓地でゾンビになって、奴らに反撃する為に準備を整えてたんだ。お前ら『明星』の存在を新聞で知って、憧れて、な」


 話を取り持ってやったハーミスは振り返るが、ゾンビ達はどもるばかり。


「あ、憧れって、なあ?」「俺達なんかが、なあ?」


 顔を見合わせるゾンビとゾンビ獣の様子に、ハーミスは呆れかえってしまう。

 このまま彼らとシャスティ達を話し合わせようとしても、恐らく会話になどなりはしないだろう。ハーミスの役目はやはり、彼らの代弁者となることだ。


「ようやく『明星』と会えたってのに、何を緊張してんだよ……シャスティ、ちょっとした提案なんだが、ここは共闘といかねえか?」


 ハーミスの話を聞いて、シャスティ達の顔が、レジスタンスらしい真面目さを取り戻した。ゾンビは未だにばたばたと暴れていたが、オットーだけは彼の話を聞いて、指導者代理として真摯な表情となっていた。


「共闘?」


 ゾンビ達がやって来た方角を指差し、ハーミスは話を続ける。


「森の外に、ゾンビ軍団がいるんだ。相応に鍛え上げてあるし、数もかなり多い。魔物も仲間にいる。何より、指導者を聖伐隊に攫われた……あの時と同じだろ、シャスティ?」


 あの時。彼女以外は首を傾げるが、シャスティは覚えている。

 ロアンナの町での戦いのように、大事な人を奪い返す戦いなら、シャスティが協力しない理由がない。あんな痛みを生み出さない為に、『明星』を姫と設立したのだから。


「……奪い返す為の戦いだな、分かった。諸君さえよければ、『明星』が手を貸そう」


 笑顔で頷く彼女と、続いて微笑む仲間達を前にして、オットーは今にも感極まり、ほろほろと涙を流しそうにすらなっていた。


「ありがたいお言葉でございます。お嬢様にお聞かせしたいくらいに……」


 今更になって落ち着いてきたゾンビ達に慰められるオットーと、再び活動するべくフードを被る『明星』一行が、ハーミスを中心として集まり、作戦会議を始める。


「よし、そうと決まれば早速移動しようぜ。クレア達の処刑までもう、一日半しか時間がねえんだ。ベルフィとの合流地点には間に合いそうか?」


「少し予定より遅れているが、森に沿って移動すれば、半日とかからん。なるべく隠密行動を取るべきか……そこのご老人、参考までに、ゾンビの総数はいかほどだ?」


「隠密などは到底不可能な数でございます。ただし、道中で遭遇した駐屯所や偵察兵を、誰かに危機を伝える間もなく蹂躙するくらいの戦力は整っております」


 といっても、作戦というほどではない。

 シャスティ達だけなら、作戦が必要であった。しかし、オットーが自称するほどの軍団がいるのであれば、最短ルートを、邪魔者を撃滅して進むのが最も早い。


「……なら、そっちの方が早そうだ。私達がゾンビ達と合流して、移動しよう」


「だな。小細工を使わず、正面突破といこうぜ」


 ハーミス、シャスティ、オットーがにやりと笑った。

 斯くしてここに、三つの組織が協力した『連合軍』が誕生した。

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