第158話 逆転


「『門』? 何を呼ぶ門なんだよ」


「説明する必要はないだろ? どうせ使う頃には、お前は死んでるんだから」


 そう口では言っているが、カルロはしっかりと説明をしてくれる。彼の自己顕示欲については、ある意味では彼よりも、ハーミスの方が把握していた。


「といっても、試作品なんだけどね。本来なら位置の問題で、レギンリオルの『聖女の塔』に設置してあるものしか動かないんだけど、ここは別さ。なんせ星の光を溜め込む『星宝石』がこれだけ採掘できるんだ、それをエネルギーの一部にしているんだよ」


 機械兵がせっせと集めていたあの宝石こそが『星宝石』だと、彼は察した。

 どのような能力を、効力を持っているのかは不明だが、『門』を動かすのには必要不可欠なのだろう。それを狙って採掘場のワイバーンを追い出し、鉱山をここまで改造してのけたのだから、相当大事なものに違いない。

 そして、ハーミスの予想は見事に当たっている。聖伐隊は魔物の廃滅に向かって動いているが、ローラや幹部はそうではない。少なくとも、カルロはそれ以外の目的に沿って動いている。ハーミス達ですら想像のつかない、恐るべき目的に。


(やっぱり、単に魔物を殲滅したわけじゃねえってことか。『星宝石』だか『輪』だかはさっぱりだが、魔物の殲滅が狙いってわけじゃねえんだな)


 ハーミスが考えを巡らせる中、カルロは更に話を続ける。


「ここで使っている『門』は、あくまで実用版に搭載する機能の試験版さ。ワイバーンを撃ち殺した砲撃装置や、魔物の生命エネルギーを代用した稼動も含めてね」


「魔物の……生命、エネルギー?」


「ああ、説明していなかったね。さっき言った『黄金炉』なんだが、中には魔物や亜人を溶かし、エネルギーだけを抽出した液体を溜め込んでいる。それを蒸発させるかのように、『門』の下に備え付けた供給装置でエネルギーを振りまいているのさ」


 あの輪の原動力はさっぱり不明だったが、ここでようやく分かった。赤い光を放つ力は、カルロの言う通りであれば、魔物達の命を糧に動いているのだ。


「……じゃあ、ここの奴隷は!」


 ハーミスがきっと彼を睨むと、カルロはけらけらと笑った。


「同じことをワイバーンも聞いたよ。全部エネルギーに還元したさ。いずれはお前の仲間も、お前自身もエネルギーに換えてやるつもりだよ、ハーミス」


 ここまで聞ければ、もう大まかの事情は知りえたも同然だった。

 後はハーミスの推察について答えてもらえれば十分だが、カルロもそこまで間抜けではないだろう。とりあえず、彼は話を聞いた限りで、自分が予測している事柄を全てカルロに向かって投げつけてみた。


「……成程な。じゃあ聞くが、聖伐隊が捕らえた魔物達の何割が、その炉にぶち込まれた? ついでに聞くなら、炉はここだけか? レギンリオルにもあるんじゃねえか?」


「これだけしか話していないのに、そこまで仮定できるとは、鋭いな」


 カルロの表情は、凡そ回答と思っても良いほどだった。ただ、ここでその答えを貰ったところで、現時点で取れる手段はない。有利なのは、カルロの方だ。


「だが、質問に答えてやる義理はない。お前はここを出ることもできないまま、俺が飽きるまで拷問されて、惨めに死んでいくんだからなァ?」


 絶対的な立場にいる者としての顔で、カルロはハーミスを嘲笑う。

 そんな彼から目を逸らすように、這いつくばったままのハーミスはぼそり、と呟いた。


「……………………」


 わざとカルロに聞こえないように囁いた、小さな声。当然、ハーミスはもっと絶望するべきであると考える彼にとっては気に喰わない行動で、苛立たせるには十分だ。


「なに、何だって? 聞こえないだろう、もっと大きな声で言えよ?」


 しゃがみ込み、ハーミスに顔を近づけるカルロは、気づかなかった。

 彼が未だに『剣士』の職業を手に入れていて、ステータスの補正を受けていること。カルロの予想していた程度の力とは違い、椅子くらいは簡単に壊せること。そしてハーミスが、わざと椅子を壊さず、機会を狙っていたことを。

 カルロに見えないように笑い、ハーミスは言ってやった。


「――もう聞くことはねえよ、外に出るぜ」


「何を言って――ぐわぁッ!?」


 それと同時に、彼は勢いよく鎖と腕を繋いでいた木製の椅子を叩き壊し、ぐるりと体を捻らせたかと思うと、カルロの首に、鎖で繋がれた自分の手を回した。

 カルロの後ろに回るような形で、ハーミスは鎖を使って彼の首を締める。こうすれば正面から攻撃はされないし、非力な彼では、彼の腕を解けない。


「お、お前、どこにこんな力が!? 何の天啓もないはずだぞ!」


「俺のスキルについて、誰からも説明されてなかったみたいだな? 俺の腕力がないって予想して、こんな雑な椅子に縛ってたんだろうが、ミスだな、そりゃ」


 慌てるカルロの声を聞き、機械兵達が牢の前にやって来るが、既に遅い。


「ま、これこそ説明してやる義理はねえけどな……さて、外の機械兵に命令しろ」


 というよりも、手間が省けた。形勢逆転したハーミスは、鉱山の主であるカルロの首を鎖で締めながら、彼以上の猫なで声で言ってやった。


「ここから俺を、外に出せ。お前の命が惜しけりゃな」


 カルロの歯ぎしりが、ハーミスにとっては心地よく聞こえた。

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