第46話 破壊
物凄い勢いで走り出した乗り物――グランドウォーカーが、扉を突き破った。
木片が飛び、扉の前にいた隊員が弾き飛ばされる。階段の段差に馴染むかのように兵器が着地したのを確認し、揺れが収まってから、ハーミスが叫んだ。
「撃て、撃ちまくれ!」
命令を聞き、シャスティとベルフィが同時に赤いボタンを押した。
その途端、隣に付いていた白い筒の後部に火が点ったかと思うと、五本纏めて、勢いよく放たれた。しかも筒――ミサイルは壁に直撃すると、直撃地点と周囲に大爆発を起こし、穴を開けるほどの威力で駐屯所を破壊し始めた。
その更に隣にある四角く黒い板――重機関砲は、ボタンを押すと忙しなく動き、戸惑う隊員達に照準を定めると、紫の弾を物凄い勢いで連射し始めた。
一発一発が、聖伐隊の隊員が構える盾を貫通し、施設の装飾品を破壊する威力だ。当然の如く、逃げる隊員も、応戦する隊員も蜂の巣になり、爆散して死んでゆく。
「なんだああ!?」「ぐわああああッ!」
「あれはエルフか、何に乗ってる、ぎゃあああッ!」
そんなとんでもない兵器が、ガシャン、ガシャンと階段を下りてゆくのだ。遠距離の攻撃手段を持たない隊員達はただ蹂躙され、ミサイルで施設は爆砕されていくだけである。
これまで自分達を苦しめていた悪党共が、ひたすら逃げ惑うか、無様に弾け飛んで行く。倫理的にどうかと思うが、エルフ二人のテンションは最高潮だ。
「す、凄いな、これは! あの爆発する筒が、みさいるとやらか!」
「ボタンを押しただけで、魔法のような攻撃が……それに、とんでもない威力です! 下品かもしれませんが、その、癖になってしまいそうです!」
「姫、今だけは盛大に暴れましょう! 徹底的に仕返しさせてもらうぞ、聖伐隊!」
エルフの二人が赤いボタンを押す度に、破壊と殺戮が繰り広げられていく。ミサイルを完全に発射し尽くして、駐屯所は今にも崩れそうだ。
グランドウォーカーも二階から一階に下りてきて、聖伐隊は殆ど倒してしまった。後は外をうろついている連中だけが敵だろうが、外に出れば簡単に始末できるだろう。つまり、後はここをどしん、どしんと去るだけだ。
「ノリノリだな、二人とも。結構暴れたし、ここらで一度撤退を……」
ところが、ハーミスは忘れていた。
「やってくれたな、ハーミス。それにエルフ共」
自分が倒す敵の存在を――駐屯所の奥からやって来る、バントの存在を。
ハーミスが見つめる彼は、駐屯所を破壊されたからか、或いは弱い存在に反逆されたからか、髪をかき上げ、怒りに満ちた目を三人に向けていた。
「バント……」
「お前達みたいな価値のない玩具と無能が、僕に逆らうなどあってはならないんだよ。『大魔法師』に歯向かうことがどれほど愚かか、身をもって――」
尤も、怒りに満ちているのは一緒だ。そして、大仰な話など聞いてやる理由はない。
「姫、シャスティ。撃て」
「分かった」「分かりました」
三人が同時に赤いボタンを押すと、重機関砲三門が、バント目掛けて弾丸を斉射した。鼓膜が張り裂けそうな音と共に、バントの周囲に破壊痕と弾痕が作られてゆく。
「な、なんだこの攻撃は! クソ、
攻撃の理屈が分からないが、バントは両手を翳し、青色の光の壁を作り上げた。弾丸は壁に命中したが、それを貫通せず、受け止め切られてしまう。何発撃ち続けても、バントの防御は破れる気配がない。
「ユーゴーみたいな魔法の盾か……よーし、二人はそのまま撃ち続けろ、俺は!」
そこでハーミスは、二人が銃撃の雨を降らせている間に、レバーを動かしてバントの後ろの壁に狙いを定めた。次第に圧される敵を見据えながら、彼はまたボタンを押す。
発射され続ける弾丸は、見事に背後の壁を撃ち抜いた。しかしハーミスは、そのままレバーを更に動かし、まるで一本の線で円を描くように機関砲の弾丸を叩き込む。バントはというと、未知の攻撃を前に、防御に徹しているので動けない。
すると、八割ほど円が描けた時に、ぐらぐらと壁が揺らぎ始めた。その一部、壁の素材が上から落ちてきて、バントは目を見開き、上方に顔を向けた。
「か、壁がぁッ!?」
穴を開けられた壁の質量は相当なもの。しかも、かなりの高さから落ちてくると思われる。少なくとも、バントどころか、人間を何人も埋められるほどの量の壁が。
気づけたとしても、動けない。恐怖で口をあんぐりと開くバントに向けて、ハーミスがボタンを押しながら、死の宣告を下した。
「――潰れろ、バント」
最後の一発で、壁はとうとう崩落した。
山ほどの白い圧力が落ちてくる。魔法防御を以てしても防げない、重さの暴力が。
どうする、どうすれば、天才の自分は何ができるか。
「こ、こんなことがあああああがあぁッ!?」
答えは簡単。何もできない。
余裕など微塵もない、高貴さの欠片もない惨めな絶叫と共に、バントの体は無数の瓦礫に圧し潰されたようだった。砲撃が止んだ時、残ったのは煙と、白い墓標だけだった。
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