第3話

私の周りに世が現れた。

人々はこう言っている。「私はこの世に生まれた。」

しかし、私はこう言おう。「この世が、突然私の周りに存在し始めた。」

「いやはやおかしな人間もいるものだ。世界は自分のために存在していると考えている。」

「地球が自分のために回っているとはああいう人のことを言うのよ。」

「とんでもない人間がいたものだ。あれほど自己中心だと、これから先何をしでかすかわかったもんじゃない。」

人々は首を振り、手をあげて口々に言うのだった。


「あなたがこの世に存在する前はいったいなんだったのでしょうか。」

と真面目な婦人が聞いた。

「私がこの世に存在する以前のことをどうして知ることができようか。もちろんあなたもそうだ。しかし、この問いは人間最大の疑問だ。私と言う存在があって、この世が現れた。いったいこの世とは何なのか。今は興味深くこの世を観察し、この世を不思議に思う。そして来るべき日に、この世から去る。興味深いこの世を知ることができたことを感謝しながら。」

「結局同じなのでは。」

「この世に生まれたと思うものは、ただ虚しさしか残らない。だから、酒に酔うことにしか喜びをもたらさない。または、何かに中毒になる、些細なことにでも中毒のような感覚を持って人生を誤魔化している。あるいは精神を病んで、苦しみから逃れられない。だから、こう考えよ、私は生まれたのではない、この世が私の前に現れたのだ、と。あなたはこの世に動かされ、利用され、操られる存在ではない。あなたがこの世を知り、観察する存在なのだ。

誰かが、あなたを利用しようとするとき、あなたはこう考えよ、この世はわたしを利用とするものなのだ、と。そしてあなたの知性を満足させよ、この世の本質を知ったのだから。

あなたは生きるために働くのではない。生活のために働くのではない。また、日々食べていくために苦労するのでもない。あなたの知性を満足させるために働くのだ。あなたの興味を満たすために、苦労するのだ。」

 

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